ガセネタにはご注意を

 琉歌は赤髪のショートヘアの小柄で強面な女子生徒と話をしていた。

 琉歌は楽しそうに赤髪の女子生徒と話していたが、女子生徒のほうは琉歌との話を早々に打ち切りたがっているように見えた。


 女子生徒の隣の席には弁当箱を片付けている桜がいて、彼女は目をパチクリとさせながら、ちぐはぐな二人の行く末を見守っていた。


 あまり声をかけたくなかったが、凪は琉歌に「おーい」と声をかけた。

 それには琉歌と桜が反応。


「凪くんったら、来るの遅いよ~。まさかとは思うけど、道に迷ってた?」

「凧先輩~、いきなり現れたこのおかしな人、凧先輩のクラスメートらしいですが、一体誰なんですかぁ? いやね、相変わらず凧先輩の人付き合いには物申したくなりますよ」

「うん、とりあえず状況を説明してくれるかな。それに……この子は誰?」


 凪が赤髪の女子生徒のことに触れた瞬間、彼女が吠えた。


「アタイを『この子』呼ばわりすな! 東城高校一の胡散臭い情報屋こと、馬場叶夢ばばかなめを知らねえっスか、このタコ!」

「ご、ごめんなさい……ただひとつ言わせてもらうと、ぼくの名前はタコじゃなくて、凪だよ」

「あんたのことは知ってるっスよ、遠山凪さん。昨日はカラオケ店襲撃、お疲れっした」

「カラオケ店襲撃……なんのこと?」


「またまた惚けちゃって、タコさん。情報屋のアタイはすでに知ってるっス。……さっきからアタイに絡んでいるこのアマの首を絞めながら、カラオケ店を襲撃し、店内をソフトクリームだらけにしたってことは、百も承知っス」


「全然記憶にないな……というか、色々と情報が混ざってない?」

「いや、いいんスよ、アタイのために武勇伝を語らなくて。武勇伝は背中で語るもんスからね」

「はあ」


 赤髪の女子生徒――叶夢は照れたように鼻をこすってから、「でもまあ、さすがのアタイも、あれには驚いたんスよね」と言ってはニヤッと笑った。


「カラオケ店を襲撃している途中、あんたは見ちゃったんスよね、チンピラによる女子高生誘拐現場を」

「見ちゃったのか」

「そうっス、そんなヤンキーの中のヤンキーのあんたは、音痴な歌をうたう女子高生誘拐犯のチンピラがいるカラオケルームに殴りこみ!」

「殴りこみ……?」


「んで、結果はチンピラを改心させたんスから、大したもんスよ」

「ほんと大したもんだよ、それは」


「それにこれまでのけじめとして、元チンピラに国歌の君が代を歌わせたそうじゃないっスか。いやいや、マジ鳥肌もんっスよ」

「それは……なかなかにぶっ飛んだ深夜ドラマだね」


 凪はドン引き。

 こんな即打ち切りの深夜ドラマのような内容のガセネタが、実際にあった出来事になろうとしていることに……凪はドン引きした。


 そんな本人さえもドン引きするようなガセネタを、なおも叶夢は話し続ける。


「それに……そうっスよ。殴りこみ現場に残された真っ白な血のこと、タコさんは知ってるっスか? 血さえも改心した結果、赤い血は真っ白になって、なんでも舐められるくらいに甘くなったとか」

「……そう」


「極めつきは、元チンピラがタコさんの自宅まで車で送るのを、あんたは断り、襲撃のための道具だったアマさんとともに夜の街に消えた、とか……マジパネェっス」

「…………」


 もはや何も言えなくなる凪。

 それでも叶夢は話すのをやめない。


「中学んときに『赤髪のクック』と呼ばれ、恐れられてきた元ヤンのアタイも、これには鼻から牛乳が出るほどにビビりまくったっスよ。いやぁ、ものすごい武勇伝……ごちっス」


「…………」

「…………」


 沈黙が下りる。

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