第22話 おじゃまひまひゅ!
今日の目的は果たしたが、このまま帰るのもなぁ……と思っていたら。
まさかハルキの家に行くことになってしまった。
確かハルキは、クラスの自己紹介のときに家の都合で引っ越してきた……と言っていたはずだ。
でもハルキは、一人暮らしをしているのだという。
「はい、ここだよ」
「お、おぉ」
案内された先にあったのは、普通の一軒家。ごく普通のお家だ。
そう、ごく普通の……一人で暮らすには、広いんじゃないかと思える家。
「こ、ここに?」
「うん。ボクの両親、結構顔が広いみたいで。一人暮らしする際に、使っていいよって借りたんだ」
ハルキに案内されるままに、私は足を進めていく。
なんか、すごいことを言っている気がする……
両親のつてで、家族で住むような家に一人で住めているのか……
「お、おじゃまします」
「はい、どうぞ」
「……あの、一人暮らしって言ってたけど」
家の中に入り、玄関で靴を脱ぐ。
玄関先には、ハルキ一人分の靴のみ。やっぱり、一人……
「そう。この町に引っ越してくるときに、両親といろいろ話してね。
ボクは一人でこの町に留まることにして、両親はあちこち回ってるよ」
「……そっか」
両親があちこち……転勤族だった私と似たようなものか。
私も、高校生になるからと説得して、一人暮らしを始めたんだもんな。
あんまり嬉しくないといえば嬉しくない共通点だけど……
それでも、ハルキとの共通点があるのは、嬉しいな。
「じゃあ、階段上がってすぐのところだから。先に行っておいでよカレン」
「えっ」
靴を脱いで、用意されたスリッパを履いて。どうしたもんかとキョロキョロしていたところ、ハルキが言った。
階段上って……ってことは。言われなくてもわかる。その先にあるのは……
まさか……ハルキの、じ、自室!
「どうかした? あ、それともリビングの方がよかった?」
「お部屋がいいです!」
「そ、そう」
やばっ、食い気味に言ってしまった。がっついていると思われるぅ。
「ボクはお菓子とか用意してくるから」
「お、お構いなくぅ」
ハルキはリビングに行き、私は階段を見上げる。
こ、この上にハルキの部屋が……
「はぁ、はぁ……」
一歩一歩と、階段を上っていく。
なぜだろう、すごくドキドキする。こ、興奮してきた。
だ、だってさぁ……そもそも今日、ハルキの家に来るだなんて思ってなかったしぃ!
そりゃ、いつかは……って思ってたよ? いつか
でもまさか、今日! ハルキに誘われて! 来ることになるなんて思わないじゃん!
「はぁ、はぁ、はぁ……」
階段を上り終え、すぐ近くに扉があるのを見つける。
ここが、ハルキの部屋……は、ハルキの。うひゃあ、緊張するぅ。
でも、いつまでもこうして突っ立っているわけにはいかない。後から上ってきたハルキに、変な風に見られてしまう。
はぁ、ふぅ……よし。開けるぞ、覚悟を決めろ私!
「お、おじゃまひまひゅ!」
誰もいない部屋の中へと声をかけ、その上で噛んでしまった。
恥ずかしい。顔が熱い。
ドアノブに手を伸ばし、それを捻る。
力を込めると、扉が開いていく。ついに、ハルキの部屋の中へ。
「わぁ……」
一歩足を踏み入れただけで、私はその場に崩れ落ちそうになっていた。
でも、耐えろ私。まだ部屋に入っただけだ。
白い壁紙の部屋に、端にはベッド。勉強机もあるし、それとは別に部屋の中央には小さなテーブルも置いてある。
私の部屋のように、人形とか小物は置いていない。必要最低限って感じだ。
私以外の女の子の部屋なんて、
蓮花の部屋も私と同じような部屋だったけど。ハルキの部屋はまるで……
「男の子の部屋みたい」
「あはは、面白みのない部屋で申し訳ない」
「!」
後ろから、声がした。
振り向くと、そこにはハルキが立っていた。手には、お盆を持ち……その上には、ジュースやお菓子が乗っている。
わざわざ、用意してくれたんだ。
「ご、ごめん。変な意味で言ったわけじゃ……」
「わかってるよ。ボクも自覚してるし」
部屋の中に入ってきたハルキは、部屋の中央に置いてあるテーブルにお盆を置く。
「それにしても、カレン男の子の部屋に入ったことあるんだ?」
「へ?」
あ、そ、そうだ。さっきの言い方はまるで、私が男の部屋に入ったのだと言っているようなもの。
まるでもなにも、実際にそう言った感じなんだけど。
「ち、違うの! いや、違わないんだけど……」
どうしようどうしよう。ハルキに、普通に男の部屋に入るような女だって思われちゃう!
私、身内以外の男の部屋に入ったことないよ!
変な誤解を持たれる前に、解かないと!
「男の子の部屋って……男の子って、お、弟だから!」
「……弟?」
よし、言った、言えた。これで誤解されなくて済む。
そう、私には二つ年下の弟がいる。
しかも、弟にはハルキも会ったことがある!
「覚えてない? 私の、弟!」
「……あぁ、うん、覚えてるよ。そういえば、一緒に遊んだね。懐かしいなぁ」
うーんと考え、思い出してくれたハルキ。
よかった。弟なんて、口から出まかせ……なんて思われちゃわないかと思った。
私がこんなにも焦ったのは、ハルキに……男の部屋にホイホイ上がるような女だと、思われたくなかったから。
だけど、部屋に上がったことがあるのが弟ならば、ハルキにはしたない女だと思われることもない。
「ハルキが……その、初めて、だから」
「へ? あぁ、うん?」
あぁ、気持ちが昂って変なこと言っちゃった。ハルキは男の子じゃなくて女の子だってのに。
それに、女の子でも蓮花の部屋には行ったことあるし!
なにが「初めてだから」だよう! バッカじゃないの! バッカじゃないの私!
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