寂しい日常

輝空歩

最終話

新宿駅の改札口を抜ける。 そうするとエスカレーターが視えてくる。

そのステップを登れば、直ぐに通勤ラッシュの人混みに襲われる。

「混じる」の方が適切か、そのまま僕は満員電車に足を乗せた。


そうすればあとはいつも通り。

『まもなくドアが閉まります』の人間味のない声と共にドアが閉まり、 列車はずるずる動き出し、ガタゴトとスピードを上げてゆく。


そんな電車に引っ張られながら、車両に詰めこまれてる人々は、

まるで一人電車を構成する煉瓦の様だ。

服装はシャきっとしたスーツで、 片手は吊り革を握り、 もう片方の手はスマホを握り締める。


スマホを眺めてないのは車内で自分だけのようだ。 僕が通勤中にスマホを見ない理由は2つある。 一つは僕が会社で過ごす8時間は、休憩時間も含めてずぅぅっとパソコンのモニターとにらめっこをしているからだ。なのに通勤中もにらめっこ大会を継続してしまえば、目が死んでしまう。


学生の頃も視力はずぅとAだった。社会で「価値」というものは数字でしか測れないのなら、この価値は絶対に、手離したくはない。


だけど最近はその決心が揺らいでるのも事実だ、


 〔中略〕


二つ目はプライバシーが筒抜けなことだ。 これは誰も思っていないことが疑問で仕方がない。


満員電車(おしくらまんじゅう状態の密閉無法空間)では、他人の画面を覗き見ることなど朝飯前だろう。


全社会人に告ぎたい。貴方のスマホが見られていないという保証はどこにあるか?


そう、だから僕はいつも一人で、小説を持ち歩き、走り去ってゆく列車の中、文字を逃さない用に汲み取りながら、仕事場という第二の家に向かっているのだ。


僕の通う会社は世間でいうブラック企業 ではなく、ホワイト企業...でもない。


本当にごく普通の普通の会社だ。 「平凡な日常アニメ」の登場人物の勤務先は僕のような会社だろう。


僕はそこの新米なのだ。入ったきっかけはたしか...2年前だったかな。

ある日、高校3年生の僕は3度目となる進路指導部からの呼び出しをくらった。。


彼の話によれば、

進路相談の提出ボックスに紙を投ぎ入れなかったのは僕だけだった。


その後、放課後に検索エンジンで良さそうな会社を探し、無感情の心で提出した。


その後は特に何もなかった。 面接は仮面をかぶればギリ合格できたし、会社の仕事だって定時には何とか帰れる量の仕事しか出されない。


活気ある社内同期たちがプロジェクトを立ち上げても、一切関わらずに、ただ与えられた仕事をやるだけだった。 指示待ち人間ではない。ただ自分の為歯車として回っているだけだ。


そのせいか、 今も僕は同じ部署、 同じデスクで働いている。つまり昇進していない。


同期の変化を除けば、毎日をループしてるかのような日々だ。

起床して朝飯を食べる。(もちろん、僕には彼女もいないので自炊かコンビニ弁当だ。)

支度をして、 新宿駅に向かい電車に乗る。


代々木でおりて徒歩で会社へと向かう。


モニターと向き合い、今日の仕事を確認し、それをこなす。


定時退社し、 行きと同じルートで帰宅。


シャワーを浴びれば一日は終了だ。 そしてまた起床し..電車に乗り........................



ガタン!

大きな震音とともに電車が激しく揺れた。

しかしこんな事でも僕は倒れない。足のバランス力だけは一人前だからだ。


「ガタン!!!!!」さっきの30倍盛大な音が床下から響いた。


すると突然、電車の床が物凄いスピードで顔に迫って来た。

いやちがう。 僕が倒れたのだ。 僕が? いや、やっぱり違う。


「!!!!!!!!!!!!」

車両の煉瓦たちが、断末魔と泣き声の狭間を叫ぶ。


電車の床がぐらんとのし上がっている。


その瞬間、僕はようやく理解した。

椅子が動いたわけでも僕が倒れたわけでもない。


電車が転倒していたんだ。






次に目を開けたのは、病院のベットの上であった。 どうやら線路に石が置かれていたようで、それにより電車が転倒。満員電車ってこともあり負傷者数は100人規模の大惨事になったらしい。石はあからさまに人が置いたものだと判断し警察は犯人の捜索を急いでるそうだ。 ネットニュースではどうやらこの件は「汽車転覆等罪」というものに当たるらしく損害のデカさから犯人には死刑が求刑されるかもしれないと報道になっている。


ちなみに僕はなかなかの重症らしい。 余命数週間と。 まあなかなか実感がわかないものだ。 体に痛みが少ないせいか、またはそれほど僕が未来については考えてなかったからかもしれないからけど。 ただやはりいざ死が近づくというのは自分の人生を振り返るきっかけになった。 何度振り返っても思い出というものはあまり出てこない。 学生時代も社会人時代も同じく与えられたこと、望まれたことをやるだけだった。なんだか寂しいなぁ.. そう思いながら僕は最後の晩餐になるかもしれない飯を口にした。

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