6.カーテンコール(カッシー)

《夜毎に狂おしく


訪れていた魔物の姿




私の胸を引き裂き


心に爪を立てる




魔物は私を苦しめる




だが魔物がいなくなれば


私の心の血は滞り


やがては死に至るだろう




魔物は私を苦しめる




その忌まわしき名は――》




拍手が聞こえた。ハバンロとラズーリがいた。


「さすがですな。歌で殺されそうなくらい、凄かった。」


とハバンロが言った。誉めてくれるのはわかるが、もっとましな表現はないのかしら。


「やっぱり、そっちが本職だね。こう、恨み辛みが切々と伝わってきた。」


貴方もね、ラズーリ。


「これ、一応、恋の歌よ。」


あたしが言うと、二人とも目を丸くした。


「まあイーナ・ウォンなら、第一声から、呪いと同時に、恋も表現したんでしょうけど。」


二人とも、きょとんとしていた。イーナ・ウォンを知らないようだ。


「セートゥの、ううん、チューヤの史上最高のソプラノよ。西方歌劇が得意で、『魔女王メルセデシア』『巫女ノーマリア』『紅椿の涙』とかね。難曲ばかりだわね。


コーデラにも来ると言ってたけど、直前に亡くなったわ。セートゥが真夏の時は、地方都市でも歌ったこと、あるわ。ポゥコデラで客演した時は、コーデラの貴族が押し掛けて、侵略戦争かってくらい、凄かったらしいわ。


今は生誕祭だから、あちこちで彼女のレパートリーが上演されてる。演じるほうは、ヤジを覚悟でね。」


それでも、プリマドンナに畏敬を現して。


ハバンロは、母から聞いた事がある、と言った。ラズーリも、名前だけは、と言っていた。


やれやれ、後で、ファイスと話して見ようかしら。彼も大概だけど、恋と呪いに関しては、グラナドの次くらいに、分かっていそうだ。




だけど、、あたし達は、そういう話をする余裕なく、次に進まざるを得なくなった。




恋か、呪いか、別の何かをうち払うために。


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