セキダ博士のちょっぴり変わった日常

お茶の間ぽんこ

セキダ博士のちょっぴり変わった日常(1)

「ハカセハカセ!」


 三月の心地よい昼下り、私の研究所にドタバタと音を立てて小野少年が駆け込んできた。


「また君か。いったい私に何の用なんだ」


 私は呆れながら壊れた機械の修理作業を止めて答える。


「オイラの宿題に協力してほしいでやんす」


「宿題ぐらい自分でやりなさい。子どもという肩書を振りかざしてばかりじゃ、君は良い大人になれない」


 私は冷たくあしらった。


「関田博士、そんなに突っぱねなくてもいいのでは」


 私の助手、霊長目ヒト科ゴリラ属のゴリ太はそう言って私にコーヒーをよこしてくれた。


「小野少年のしょうもないお願いに付き合ってあげるほど私はお人よしではない」


 私はゴリ太の指摘を物ともせずコーヒーを受け取りそれを飲んだ。


「そういう言い方、ゴリラは好きじゃないです」ゴリ太は苦言を呈した。


「今の発言内の『ゴリラ』は不特定多数のゴリラを指しているのかい? それともゴリ太を指しているのかい?」私は聞いた。


「すみません、また言い間違えました。後者です」


「君は自分のことをゴリラと名乗る癖がある。ゴリ太って十回言ってみなさい」


「ゴリ太ゴリ太ゴリ太ゴリ太ゴリ太ゴリ太ゴリ太ゴリ太ゴリ太ゴリ太」


「君の名前は?」


「ゴリ太です」


「その調子だ。褒美にシロアリをやろう」


 ゴリ太の好物であるシロアリが入ったタッパーを取り出して渡した。


「ありがとうございます。ゴリラはとても嬉しいです」ゴリ太は嬉しそうにシロアリを摘まんで食べた。


「あの~オイラのことは無視でやんすか」


 小野少年は不貞腐れていた。


「まだいたのかい。君もシロアリを食べる?」私はシロアリタッパーを指さした。


「遠慮するでやんす。普通の人だったらまず食べようと思わないでやんすよ」


「タイのイーサン地方では料理として振舞われるんだけどな。まあ、それなら君はもう用がないってわけだ。さあ早く家に帰りなさい」


 私は小野少年の背を押して追い出そうとした。


 しかし彼は嫌らしくにやついた顔で言った。


「ニシシ。いいでやんすか? ハカセが三木先生のことが好きってこと言っても」


「話を訊こう」私は即座に答えた。

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