第7話 伯爵邸での華やかなアフタヌーンティー
エマは、自分のカフェをオープンさせたことをきっかけに、様々な慈善活動に積極的に取り組んできた。
その原動力は、修道院で学んだ他者への愛と奉仕の精神に根差していた。
これまで多くの人に助けられ、支えられてきたことへの感謝の気持ちが、エマの心に強く根付いていた。そして、今度は自分が同じような境遇の人々を支えたいという強い願いがあった。
その日、ダーリントン伯爵邸でチャリティーイベントのアフタヌーンティーが開催されることになっていた。
主催者のノアは、ダーリントン伯爵家の子息で、物腰柔らかで、親しみやすく、ナチュラルブラウンの髪に褐色の瞳を持った青年だった。
このイベントは、孤児院や貧民学校の教育の充実や女性の雇用促進を目的に、心ある貴族たちに支援を呼びかけるのものだった。
貴族の中でも特に慈善活動に熱心なノアとは、エマはこれまでも共にいろんな慈善活動を開催してきた。
今回も、プチ・ぺシェは主催者側として、スイーツや紅茶などを提供する役割を担っていた。
その日、カフェは臨時休業とし、メンバー全員が早朝から準備に追われていた。
「荷物はこれで全部か?」とアルベールが最終確認をすると、皆が馬車に乗り込んだ。
プチ・ぺシェは、自前で馬車を持つ余裕はなかったのだが、ノアの配慮で伯爵邸から借りていたのだった。レオが馬車を操縦し、会場へと向かった。
ダーリントン伯爵邸は、堂々たる存在感を放つ美しい建物で、クラシカルな優雅さを醸し出していた。大きな門をくぐると、広い敷地には石畳の道が続いており、まるで絵画のような庭園が広がっていた。
アフタヌーンティーは、色とりどりの花が咲き誇る花壇に面したテラスで開かれた。
大理石のテーブルには、真っ白なシルクのクロスが敷かれ、豪華な銀食器やエレガントはティーセットが並べられていた。
また、三段重ねのティースタンドには、サンドイッチやスコーン、マカロンやプチガトーがおしゃれに盛り付けられていた。
邸宅のゲート付近には、きちんとした身なりでありながら、堅苦しすぎないスマートカジュアルに身を包んだ貴族たちを乗せた馬車が続々と到着していた。
紅茶の香りが漂う中、来客者たちはスイーツを口にしながら、知人との会話に花を咲かせ、贅沢な午後を楽しんでいた。
「エマ、今日はよろしく」とエマを見つけたノアが声を掛けた。
「ノア様、こちらこそ、よろしくお願いします。天気が良くて本当によかったですね」とエマも微笑んで返事をした。
「そうそう。この間、話した未使用の食器とカトラリーだけど、今日持っていく?」
とノアが尋ねた。
「ええ、お願いします」とエマが返事をすると、保管してある部屋まで案内してくれた。
エントランスホールに足を踏み入れると、大理石の大きな柱が目を引き、壁には歴代の当主たちの肖像画が飾られ、重厚感あふれる雰囲気だった。
ホールを抜けて廊下を進むと、奥にある小さな部屋に案内された。
そこは、ノアが子供の頃に使用していた子供部屋のようだった。アンティークの家具の上には、ノアの子供時代の写真がいくつも並べられており、中でも二人の愛らしい女の子の写真がエマの目に留まった。
特にその一方の女の子は、深窓の令嬢のような透き通る肌の美少女だった。
素朴な好奇心から、写真の少女たちが誰なのかをノアに尋ねると、
「あ、うん、それ僕と幼なじみの写真なんだ」と恥ずかしそうに答えた。
貴族の間では、後継者となる男子の死亡率が高かったため、悪霊から男子を守る魔除けの意味合いから、男子を女装させるという風習があったと聞いたことがあった。
誰にでも人には言えない過去があるのだな、とエマはしみじみ思った。
それにしても、ノアとその幼なじみの写真が特にたくさんあるところを見ると、二人がとても仲良しだったことは明白だった。
エマは、ノアから食器とカテラリーを受け取ると、新緑の木々が美しい庭園を眺めながらアフタヌーンティー会場へと戻った。
イベントの成功は、主催者側であるプチ・ペシェのイメージアップにそのままつながるため、エマたちも気合が入っていた。
しばらくすると邸宅の入口付近が騒がしくなり、人だかりができていた。まるで有名人が到着したかのような様子だった。
「アッシュフォード伯爵家のおでましだ」と隣に立っていたアルベールがつぶやいた。
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