夜の窪み
痴🍋れもん
夜の窪み
背中の寂しい窪みに集まった夜を掬いとるように口づけると彼女の心が安堵したようにそっと溜息を漏らした。
白く滑らかな背中をその中心に沿って辿ると俺の舌が翳を舐めとったせいだろうか彼女の体が弓なりに逸らされた。
挑発的にツンと立った乳房の先が窓から差し込む皓月に晒されて震えている。
月には仙人になり損なった男が住んでいるらしい。その男に見られたら大変だとばかりに俺は両の手で彼女の乳房を隠すように包み込んだ。
月に閉じ込められたまま戻りたくても戻れなくなってしまったその男の話は誰かの寝物語で聞いた気がする。誰か…俺を通り過ぎたその女の顔は今ではもう思い出せなかったがその女は彼女のくれる暖かく湿った夜によく似た夜の記憶とその言葉だけを残していった。
互いの息の囁きと肌の擦れあう音だけだった部屋に切ない水音が響き始めると月の光を通して俺の中に月男の魂が流れ込んできた。
もう帰れないかつての居場所には失ってはいけないものがあったのだ。月男の涙のような俺の雫が注ぎ込まれると彼女が切ない溜息を洩らした。
月男の残してきたものは何だったのだろうか?
夜の窪み 痴🍋れもん @si-limone
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます