悪事は許しません!~スカッとしましょう~

みなと劉

第1話

僕の名前は秋名瀬千里(あきなせちさと)。

丸越商事で働く社員。

僕はいつものように出社する。

今日は、最新モデルのVRユニットのお試しを行うため

協賛してくれている

冴島コーポレーション様の赤島幸人(あかしまゆきと)さんと一緒に

VRユニット試着室に向かった。

実は、僕のことをよく思っていない社員園丈真(そのたけまこと)がこのVRユニットに仕掛けをしていたことを僕は見抜けなかったのだ。


僕は冴島コーポレーションの赤島さんと一緒に、会社の地下にある試着室へと向かった。

彼は新しいVRユニットの設置と調整を担当している。その姿はプロフェッショナルで、僕も自然と彼の仕事に対する信頼感を抱いていた。

試着室に到着し、赤島さんがユニットの準備を進める間、僕は室内を見回していた。

最新のテクノロジーが詰め込まれた空間だが、どこか異様な雰囲気を感じた。

しかし、それが何かははっきりとはわからない。気のせいかもしれないと自分に言い聞かせ、試着に集中しようとした。


赤島さんが準備を終え、僕にVRユニットを渡してきた。

僕はそのユニットを頭に装着し、赤島さんの指示に従って操作を開始した。

最初は順調だった。

見たことのない美しい仮想世界が僕の目の前に広がり、そのリアルさに息を呑んだ。

しかし、次第に何かが変だと感じ始めた。

目の前の景色が奇妙に歪み、色が不自然に変化していく。

頭の中にノイズが走り、意識が遠のいていくような感覚がした。

僕は慌ててユニットを外そうとしたが、身体が動かない。

まるで何かに拘束されているかのようだ。

その時、僕の耳元で低く冷たい声が響いた。

それは園丈真の声だった。


「ようこそ、僕が仕掛けた仮想世界へ。秋名瀬さん、君はここで一生、現実に戻れないまま過ごすんだ。」


その言葉に、僕の背筋が凍りついた。

彼は僕に対して何か恨みを抱いていたのだろうか?

どうしてこんなことを?

頭の中は混乱し、必死に脱出の方法を考えた。

しかし、意識が次第に薄れ、目の前の光景もぼやけていく。

絶望的な状況の中で、僕は必死に最後の力を振り絞って抵抗しようとしたが、すべてが無駄に思えた。

そして、僕の意識は完全に闇の中に吸い込まれていった。

どれくらいの時間が経ったのだろうか。

突然、僕の耳に別の声が聞こえた。

それは赤島さんの声だった。


「秋名瀬さん、大丈夫ですか?目を覚ましてください!」


その声に応じて、僕の意識が徐々に戻り始めた。目を開けると、目の前に赤島さんの心配そうな顔があった。

僕は彼が必死に僕を揺り起こしているのを感じた。

「な、何が…?」

僕はまだ混乱していたが、赤島さんが説明してくれた。

どうやら、園丈が仕掛けたトラップに気づいた彼が、僕を助け出すためにユニットの制御を取り戻したということだった。

「ごめんなさい、僕がもっと早く気づいていれば…」

と赤島さんが申し訳なさそうに言った。


僕は彼に感謝しながらも、まだ震えが止まらなかった。

あの恐怖が、しばらく僕の心に残り続けることだろう。

そして、園丈真が何を企んでいるのか、これからの僕の行動が試されることになる。


恐怖で震え足ががくがくと揺れる僕を赤島さんは支えてくれた。

そして、今回の仕掛けのことを社長に知らせると共に

園丈真への対処についても今後会議などを通じて身をもって知ってもらおうと思ったのだ。

翌日、朝

会議室での緊急会議

わが社の社長と冴島コーポレーションの社長をお呼びし

今回の件を改めて伝えた。

そして今後のVRユニットの安全性を追求するために

彼の行った行為について

プレゼン形式で発表する。

彼には功績発表があると僕たちは嘘をついて社長たちの前で彼のした行為を全面的に発表することとした。


翌日、僕はいつもより早めに出社し、会議の準備を進めていた。

緊急会議とはいえ、社長たちの前での発表は緊張を伴うものだった。

赤島さんも早くから来てくれて、一緒に最終確認を行った。

やがて会議の時間が近づき、会議室にはわが社の社長と、冴島コーポレーションの社長が入室してきた。

社長たちは、まだ何が起こるのかを知らされていない様子で、僕たちを見つめていた。

そして、園丈真も功績発表だと信じて、晴れやかな表情で会議室に入ってきた。

僕は深呼吸をし、プレゼンを開始した。

最初はVRユニットの概要や、これまでの開発経緯について説明を行い、次に安全性の重要性について強調した。

その流れの中で、僕は自然に園丈真の行為について言及し始めた。


「しかし、今回のテストでは、予期しない事態が発生しました。」


その言葉に、園の表情が少し強張ったのが分かった。

僕は続けた。

「ある社員が、VRユニットに不正なプログラムを仕込んでいたことが判明しました。この行為によって、ユーザーが意識を失う危険性がありました。」

会議室は一瞬、静寂に包まれた。

社長たちが驚きと怒りを表す顔をしていたのを見て、僕はそのまま真実を明らかにした。

「その犯人は…園丈真さんです。」

園丈の顔色がみるみるうちに青ざめ、慌てた様子で否定しようとしたが、僕はすかさず証拠を提示した。

ユニットに仕込まれたコードや、赤島さんが助けてくれた映像データなど、すべてが揃っていた。


「今回の事態を受け、私たちは今後、より一層の安全対策を講じる必要があると考えています。そして、園丈真さんには、この行為の重大さを理解していただくために、厳正な処分を求めます。」

僕が言い終わると、会議室には再び沈黙が広がった。

社長たちはしばらくの間、何も言わずに考え込んでいたが、やがて冴島コーポレーションの社長が口を開いた。

「このような行為は絶対に許されない。我々も今回の件を重く受け止め、厳しい対応を取ることを約束します。」

わが社の社長も同意し、園丈真に対して即座に解雇の通知が行われた。

彼は驚愕の表情を浮かべ、言葉を失ったまま会議室を去った。

その後、僕たちはVRユニットの安全性をさらに強化するための具体的な対策を話し合い、全社員に向けて新しい指針を発表することとなった。


会議が終わり、赤島さんと僕は廊下で顔を見合わせた。

全てが終わったわけではないが、大きな一歩を踏み出せたことに、僕たちは小さな安堵感を感じた。

「秋名瀬さん、本当にお疲れ様でした。これからも一緒に頑張りましょう。」

赤島さんの言葉に、僕は力強く頷き、また一歩前に進む決意を新たにしたのだった。

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