Chapter 1-3
お決まりの自己紹介を含めたホームルームが終わり、私は帰り支度をしていた。
そのまま帰る人もいれば、部活の見学に行く人もいる。私はどうしようかな。
「
と、そこへ一人の男の子が話掛けてきた。おお、デジャヴ。無論この既視感は彼の顔に見覚えがあるからだろう。今生の幸宮祈里としてはほぼ初対面である。
私が顔を上げると、彼は続ける。
「急に済まない。俺は……」
「
私は立ち上がり、スカートの裾を摘まんで一礼する。ちなみに中等部の制服は、古き良き詰襟とセーラー服だ。高等部では男女ともにブレザーに変わる。
閑話休題。楓翔院君は幸宮グループと肩を並べる大企業・楓翔院ホールディングス総帥の御曹司だ。短めに切り揃えられた髪と、キリッと整った顔立ちが育ちの良さを感じさせる美男子である。
そして彼こそが、『恋君』にて幸宮祈里と主人公が奪い合う攻略対象なのである。なのでちゃんと、自己紹介の時に名前と顔は把握しておいたよ。
「覚えていてくれたのか。久し振りだな」
「ええ。あの頃から存在感がありましたもの。とても忘れられませんわ」
「それは君も同じだ。小学校に入学したばかりの頃、合同パーティーで一度だけだったが、君の顔と名前はよく覚えている」
「それは光栄ですわ」
余裕ぶった表情を見せつつ内心では、私そんなに覚えられるほどやんちゃしてたかなと視線をさまよわせる。小学校に入学した時の合同パーティー。幸宮祈里と楓翔院拓篤がたまたま同い年だという事で、二人の入学祝いに催されたパーティーだったのだが。
自分の事だけど、幸宮祈里はあの頃から派手にやらかしてたからなぁ……。自分の才能と立場を利用してやりたい放題だったのでそりゃあ目立つわ。
あの日はどうだったろう。思い出すと、当時の幸宮祈里の感情も思い浮かんでちょっと恥ずかしくなった。だって、私ってばあの日に楓翔院拓篤に一目惚れしてて、他の事は全然覚えてないくらいメロメロだったんだもん!
「両親がちゃんと挨拶をして来いとうるさくてな。迷惑だったか?」
「いえ、とんでもありませんわ。むしろご挨拶に伺わなければならないのはこちらですのに、お手数お掛けしてしまい申し訳ありません」
「そんな事はない。気にするな」
実は今、幸宮家と楓翔院家では縁談が進みつつある。もちろん、私と楓翔院拓篤の話だ。同じ学校に通う事になった折、両親からそう報告されたのだ。
ゲーム本編ではれっきとした許嫁であったから、この話がまとまるのにそう時間は掛からないだろう。
さてさて、私にとっての問題はここからだ。こんなイケメン婚約者がいるなんて、上手くいけば人生勝ち組確定なんだろうけど、私は普通に生きたい。普通の恋愛がしたいのだ。転生前は一度も男子と付き合った事なんてなかった……筈なので、今生は普通に甘酸っぱい恋愛とかしてみたい。
そう言えば、勝手に転生転生言ってたけど、前世の私っていつ死んだのかな。引きこもって『恋君』やってたりした以外の記憶は結構曖昧だ。っていうかそもそも、なんで引きこもってたんだっけ?
ま、ないものはないんだししょうがないか。
自分でもちょっとびっくりしちゃうくらい、あっけらかんと開き直る。私ってこんな性格だったっけな。とにかく、どの道それくらいしか記憶のない私が没落回避なんて大それた事、できるだけの器量がある訳でもなし、と都合よく解釈しつつ会話を続ける。
「楓翔院様はこれからどちらへ?」
「拓篤でいい。様も必要ない」
楓翔院拓篤はこういう感じでクールだけど意外に気さく、っていう所が魅力のキャラだったね。
さて、ではどう呼ばせて頂こうか。できるだけ早くこのお嬢様言葉から解放されたいので、君付け辺りにしておくと気楽に話せるようになるかも。さん付けだとまだちょっと気取ってる感じするし。
「では、拓篤君と。私も祈里とお呼びくださいまし」
「ああ。よろしく、祈里。それにしても、君は変わったな。昔はなんというか……元気、だった」
ああ、その一瞬の間が痛いです先生!
はっきりお転婆とかやんちゃとか言ってくださって結構ですのよ? っていかん、思考回路までお嬢様っぽくなってどうする。
「そ、そうですね。昔はお転婆と言いますか、やんちゃと言いますか、ご迷惑をお掛けしましたわ」
「いや、迷惑だった訳じゃあない。ただ、俺はこういう感じだからどうにも、今の身分と言う枠にすっぽりとはまってしまっているような気がしていてな。君の自由気ままさに、少し憧れたんだ」
視線を外して語る彼の横顔に、胸がきゅんとしそうになって私はぐっと堪える。落ち着け、幸宮祈里。これは今の私とは関係ない感情だ。
「そんな……。私こそ、まだ幼いのに毅然と振る舞っている拓篤君に憧れました」
「お互い様か」
「ええ。お互い、たったあれだけの出会いがいい刺激になったという事ですわね」
「そういう事だな。それでこれからなんだが、俺は部活を見学しに行こうと思う。祈里もどうだ?」
「構いませんわ。それなら私、もう一人お誘いしたい方がいらっしゃるのですけど、よろしくて?」
「ああ。俺も友達を誘いたいと思っていた所だ」
「では、声を掛けたらまた集合ですね」
拓篤君は頷き、踵を返した。
では私も意中の相手に声を掛けに行くかな! ま、相手は女の子なんですけどね!
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