原初のスマホ

渡貫とゐち

レンズなんてなければいいのに…


 日常生活の中でスマホを使う機会はかなり多い。

 手離している時は大げさではなく寝ている時くらいではないだろうか。

 食事中、入浴中も、人によっては触っているかもしれない。

 仕事中は……触っていてもプライベートな操作はしていないだろう。

 だけど触れてはいるわけだ。


 基本的に人はスマホをいじっている。

 そういう生態になってしまったと言われても否定できなかった。

 当然、町中、電車内などでもスマホをいじっている。どんなアプリを立ち上げ、操作しているのかは人によって変わるが、スマホを片手で持ち、同じ手の指か、もう片方の手の指で操作するやり方は同じだろう。

 外に出て周りを見回してみれば、ほとんどがスマホを片手に持ち、そして――――


 ……先に言っておくと、これは被害妄想だが……

 スマホのレンズがこっちを向いている……気がする。


 レンズ。

 カメラ。

 撮影。

 ……そんな単語が思い浮かぶ。

 もちろんカメラアプリを起動しているわけではないだろう。レンズは被写体に向いてはいないと、冷静になれば分かるのだが、一瞬だけを切り取ってみれば、周りのスマホは自分を撮っているのでは? なんて不安がやってくる。

 そんなわけないと分かっていても気になってしまう……。

 同時に、自分自身がそう思うのだから周りだってそう思っているのではないか、とも。


 スマホを取り出し、地図アプリを起動して道を確認しようとしただけなのに、スマホにレンズがあるせいで撮影をしているのではないか、と、他人に思われているのではないか――と。

 まるで責められているみたいだった。


 極端にレンズを傾けてしまえば、「撮影していませんから」と言葉にしなくとも伝わるのだが、しかし車内は難しい……。

 立っている人、座っている人。どこへ向けても人がいる。天井へ向けてしまえばいいが、それはそれで不自然だ。

 怪しまれないようにするための行動が怪しまれていたら本末転倒だ。それでも撮影を疑われて通報されるよりはマシだが。通報するためのスマホにもレンズがついていると思うとおかしな話だった。


 レンズだ。レンズがいけないのだ。今のスマホは高性能で便利だが、いらない機能が元から付き過ぎている気がする。

 商売なのだから仕方ないと言われたらぐうの音も出ないが、理想を言うなら必要な時に付けて、不要の時は外せるくらいがちょうどいい。

 つまりスマホにレンズはいらない。

 使う時は撮影のみできるカメラを持つ……。ただ、そうなるとスマホでQRコードが読み取れないので不便も出てきてしまうが……。しかし昔はそうだったはずだ。

 通話のみ。撮影のみ。特化したひとつの機能に、ひとつの道具を持つ。多機能がひとつの道具に集まって、これひとつで全てがまかなえてしまうのは便利の極致ではあるのだが……。

 その分、死に機能もいくつか出てきてしまう。

 それも含めたお金もまあ取られているわけで……損をした気分である。


 メールの送受信と電話、動画が見られたらそれでいい派からすれば、スマホに付いているレンズは不要以上に邪魔だった。

 これのせいで盗撮を疑われてしまったことが何度もある。付いていて当たり前になってしまった機能を外せるサービスとかないものか……。


 そう言っている俺みたいな人間に限って、必要な時に「付いてないじゃないか!」と文句を言うのだけど。……商売というのは大変だ。なんでも付けて便利にすればそれを不便に感じる者がいるし、ひとつに特化して価格を抑えたり、ひとつの機能を洗練させれば不便だと文句を言う。


 あちらを立てればこちらが立たず、だった。

 経験を踏まえて今の多機能路線になったのであれば今更、俺がなにかを言うこともないのか。……でもなあ、やっぱりスマホのレンズは困る。背面についているのが最適な位置とは言え、どうにからないものか。

 スマホをいじっていると、周りから盗撮を疑われているんじゃないか、と思ってしまう心をなんとかしたいものだが。

 考え過ぎ、だろうな。

 きっと、周りの大人たちはなんとも思っていない。



 人が多機能を好むのは自然なことかもしれない。

 便利だから、進化を感じられるから、荷物を少なくしたいから、というのが大衆で、大半の意見と望みだろう。

 論理的に、ぎゅっとひとつにまとまっている方が良いに決まっている。が、それ以前に人間が多機能を好むのはやはり、同じだからではないだろうか。


 今のスマホは多機能だ。ひとつあればなんでもできてしまう。アプリを入れれば機能も拡張されていく。できないこともあるが創意工夫でできないこともできるようになっていく。

 ……これって人間と同じなのではないか? 人間だって、多機能だ。たまに飛び抜けた天才や欠けた奇才が現れたりするが、総じて多機能である。使いにくくても機能自体はあるのだから。


 潜在的に。


 人間とは、一番最初のスマホなのではないか?



 レンズは人の目であり、撮影は人の目でもできる。

 スマホでできるなら人間でもできる。

 結局、スマホを構えていなくとも盗撮なのではないか?

 盗み見て記憶する。撮影して保存する。同じことなのだから。


「じゃあもう、気にするだけ無駄じゃんか」



 人間の長所と短所を教えよう。

 機能に波があり、立ち直りやすいが電源が落ちやすい。


 そして――――

 死ぬまで壊れない。




 …了

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