気がついたらダンジョン管理会社に入社していたんだが、その日で辞めてみた。

かふぇおれ

ダンジョン管理人辞めてみた。


やぁ諸君、俺は罠川 則夫。


俺は所謂、ブラック企業に勤めていた究極の社畜だが、ある日転職を一念発起し退職代行という荒業を駆使して、ブラック企業を退職後、代行会社のツテでとある施設管理の会社を紹介してもらい、本日面接というところだ。


「本日は、お忙しい中お時間をいただきありがとうございます。私は罠川 則夫と申します、よろしくお願いいたします。」


「うん、合格ね!!」


「はい?えっと合格?」


俺は異例のスピード採用をもらい、ブラック企業からの解放と共に浮かれてしまい何も考えず分厚い雇用契約書にサインし、入社の判を押した。


数日後、初出勤として本社に呼び出された俺はスーツをビシッと着こなし、30分前に到着後ロビーで先輩の到着を待っていた。


(どんな人かな……高圧的じゃなきゃいいなぁ。)


「あ、罠川さん?」

「はい!!罠川則夫です!!」


「あ、ごめんね、急に後ろから話しかけたらびっくりしちゃうよね。俺は君の教育係の相川 蒼司よろしくね。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


「じゃあ、行こうか!!」


そう言いながら相川さんは本社出口に向かい、俺はビルから出ることを少し不思議に思いながら、相川さんが乗り込んだ車に一緒に乗り込む。


その後、数分車に揺られ相川さんがハザードをたき路肩に車を寄せた。


「よし、降りてそこの扉から中に入ろうか。」

「はい、わかりました。」


俺は軽快に返事をしながら、相川さんの支持するままに『関係者以外立ち入り禁止』の扉をくぐり抜ける。

その瞬間俺は気圧の変化でとてつもない目眩に陥り、少し座り込んでしまった。相川さんは分かっていたかのように気が付き身体を支えてくれながら話し出す。


「ここ最初は堪えると思うけど、慣れれば平気だから少し休んでいこうか。」

「すみません……。」


俺が申し訳なさそうに謝るのを見届けると相川さんは、目の前の扉の脇に設置されたセキュリティパネルのようなものを操作して扉を開けた。


「こっち来れば楽になるからおいで〜。」


俺はいわれるがまにもう一枚扉をくぐるとそこには異様な風景が広がっていた。


「相川さんこれは……いったい?」

「あれ、知らないの?ダンジョン〜地下迷宮〜の裏側だよ!!」


「ダンジョン!?それってゲームとかでよくあるあの!?」

「まぁ違う気もするけど、そんなとこかな、だってうちの会社ダンジョン管理専門だから。」


相川さんは当たり前かのようにそう吐き捨て、それから壁面に向かって社員番号と氏名を叫ぶ。

俺自身は何がなにやらと思っていると、壁面から操作パネルのようなものが出てきて、慣れた手つきで相川さんは操作を始める。


ピッ、ピピピッ、ピピ


「罠川くん今ここに映ってる場所、罠が上手く作動してないみたいだから点検行くよ〜。」


柔らかい喋り方とは裏腹に、言っていることが突拍子もない相川さんだが、本人は日常茶飯事のように振舞っている。

俺は相川さんに指示されるまま、作業服に着替え後をついていく。


「こういう点検をする時は、必ず安全靴とヘルメット被るのと、ダンジョン内に人が居ないこと確認してね。」


俺は情報量の多さに、了承の返事以外むしろ出なくなっており、ついていくのに必死だった。


相川さんと俺はスイッチを踏むと矢が飛び出て来るという罠の点検場所に到着し、相川さんはこれまた慣れた手つきで、矢のディスペンサーを解体し、歯車を交換すると元の形にすぐさま戻した。


「こういう点検は慣れないと危ないから暫くは俺がやるね。」

「あ、はいっ!!」


「じゃあ、今のうちに次行こうか、次は遺体回収かな。」

「い、遺体!?ここ死人出るんですか!?」

「うん。そうだけど?」


俺の方が常識がないかのように相川さんは返事をして、更に下層に降りるための梯子へと向かっていた。

次はどうやら、落とし穴に落ちた人の回収らしいが、中は危険ということで俺は遺体袋の運搬を手伝うだけになり少し安堵していた。


そうこうしていると、相川さんのアラームがなり作業を一時的に中断しお昼休憩となった。

俺はさすがに堪え切れず、質問をぶつける。


「あ、あの!!」

「おお、どうしたの??」


「ここって異世界か何かですか?日本じゃないんですか?」

「ははは、何かと思ったら異世界なんて少なからず俺は知らないよ〜、ここはちゃんと日本だよ?」


「でも、普通に生きててダンジョンなんて出くわしたことないですよ……。」

「ああ、それはここは裏社会の遊び場だからね。」


「裏社会のアソビバ?」

「うん、盗まれた宝石とか資金洗浄前のお金とか麻薬とかが色々置いてあるからそれをお宝にしてるんだよ。」


「ひぇっ?なんか逆にリアリティが……。」

「宝の場所は俺たちは知らされてないけど、簡単に手に入れられても癪だってことで、ヤクザとかマフィアの出資で管理してるわけよ。」


その後も日常ではありえない話が続いたが、まとめると、ここは普通の生活に飽きた裏社会の頭のネジが飛んでる人や借金に追われ一発逆転を狙うためにヤクザに頼んで来る人生最後の遊び場と言われてるらしい。


そしてまた相川さんのアラームがなる。


「よし、昼休憩終わりだ、次の作業行くよ。」

「つ、次は何をするんです?」


そういうと先程の操作パネルのある部屋に戻り、ピピピッと相川さんは操作を始める。


「よし、これで完了だ、そこのモニター見てて。」

「わ、わかりました。」


相川さんの言った通りに、監視カメラの映像のようなモニター画面をみると、先程のディスペンサーを直したところと、落とし穴が映し出された。

そして、遠隔操作で上手く作動するのを確認した2人は修繕作業を終了した。

その後、相川さんが1本電話を入れるとチンピラとオドオドしたおじさんが入ってくるのがモニターに映っていた。

どうやら挑戦者が来たようだ。


最初の方は慎重に進んでいたおじさんだが、意外と無いもないと思ったのか突然、気が触れた様に走り出し、案の定落とし穴に落ち串刺しになってしまった。


「あ〜、走らなきゃ良かったのに、まあ歩いてたらそれはそれで矢に射抜かれてたか……。」

「あ、相川さん?」

「あ、これテストプレイしてもらってるだけだから大丈夫だよ。」

「死んでましたけど……?」

「ああ、あれはクライアントに借金して踏み倒そうとしたおじさんだから仕方ないよ。」


相川さんは笑顔でそう言いながら、操作パネルに向かい


「OKでーす。」


と一言いうと、チンピラが手を挙げ入口から出ていった。


「あの〜相川さん、俺……。」

「ん?どうしたの罠川くん。」


「俺、この仕事ついていけないので辞めたいです。」

「ああ、そっか〜そうだよね。わかった、俺が社長には伝えとくから、今日は一旦帰っていいよ!!」


「帰り道気をつけてね!!」


相川さんはそう笑顔で言いながら、出入り口を開け見送ってくれた。

扉が閉まる時、相川さんが電話している姿が見え、社長にちゃんと報告してくれたんだと安心し俺は帰路に着いた。


俺は家に帰るため、駅のホームに立って独り言をブツブツ呟いていた。

「いや、とんでもない職場だったな……いくらブラック企業で精神鍛えたとは言えど、あれは無理だよ……。」


『まもなく1番線電車が参ります、ご注意ください。』


「そろそろ電車くるか、とりあえず帰ろう。」


そう呟いていた最中、俺は自分のものでは無い推進力により身体が前へ動きホームから飛び出す。


「帰り道気をつけてって言ったのになぁ〜。」


それは相川さんの声だった。


パァーーーーー

電車の警笛虚しく、俺の体が飛散する。


薄れ行く意識の中、最後に見えたのは変わらぬ笑顔の相川さんの顔だった。





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