第10話 タグ
*** コンピューター室 放課後 ***
「というわけでパソコンを入手できることになった」
「おめでとう、良かったじゃない。私はお母さんのを空いてる時に借りる事にしたよ」
湊も家でパソコンを使って執筆をする手はずが整ったらしい。
「いいなぁ~。杏奈はパパに頼んだけどパソコンゲットならずでしたよぉ~。休日は地道にスマホで書くですぅ」
「ボクも無理だったのでスマホ用キーボードを買って家ではスマホから投稿することにしまシタ」
「あぁ! その手が有りましたかぁ。杏奈もキーボードの方ががいいですぅ。キーボード買いますぅ~」
杏奈はスマホで通販サイトを見始めた。
「それじゃぁ皆、各々の作業に取り掛かろうか。」
パソコンの電源を入れた。
学校のパソコンは少し起動が遅い。
沈黙が流れる。
俺はパソコンが立ち上がるまでの間少し雑談をしようと思った。
「そういえば、湊は投稿先何処希望なんだ?」
ふと疑問に思ったのだ、この間は俺が小説家を目指そうの登録の仕方で話が変わってしまい、湊が何を書いてどこに応募するのか聞きそびれていた。
「私もカキコムにするよ。異世界転生の冒険ものが書きたいんだ。」
「異世界転生って、トラックにはねられたりとかブラック企業で過労で死んだりして異世界に行くやつだよな?」
「そうそう。なんだ創太“カキコム“知ってるじゃん」
「優斗から借りた漫画でちょっと齧った程度だよ。もう話の構想はできているの?」
「それが中々まとまらなくて……。PVの事を考えたらザマァ系にするのがいいと思うんだけど、あんまり趣味に合わなくて、思いつかなくて困ってる」
「無理に流行に合わせなくてもいいんじゃないか? 好きな物書いたらいいだろ?」
「それは考えが甘いですネ」
向いの席に座っていた啓太郎が話に入って来た。
「どういう事だよ?」
すかさず俺は聞き返した。
「カクヨムは人気タグしか読まれないと言っても過言ではないのですヨ」
「そんなことないだろう。俺の書いた小説は読まれているぞ」
俺は読者の反応のページを開いて見せた。
PV数は5に増えていた。
「どうだ。まだ一話だが5回もアクセスもあるんだぞ」
やれやれといった具合に啓太郎は自身のアクセス解析ページを俺に見せてきた。
そこにはPV121と表記されていた。
「121だと!!??」
「フォローは3件あります。星の数は5です」
フォローとはお気に入り登録する機能である。
誰かが続きを読みたいと思った結果だ。
そしてカキコムには評価システムが有り星を着ける事が出来る。
俺は驚いた。
「たしか啓太郎も昨日初投稿したばかりだったよな??」
「えぇ、僕の方はもう6話まで上げていますが、これが人気タグの威力ですよ。これでも書籍化を目指すなら伸びが良い方ではないでスネ……」
「やっぱり、デビューを目指すなら人気タグの後ろ盾があったほうがいいのかしらね。私は普通に冒険ファンタジーが書きたいのだけれど……。」
湊は肘を反対の手のひらで付き考えるポーズをした。
「湊氏はやはりここは異世界転生で悪役令嬢になり婚約破棄をされ高貴なイケメンに見初められ元婚約者を権力で見返してざまぁするのがいいと思うんですヨ」
啓太郎が助言をした。
「う~ん。すごい流行ってるわよね、それ。でも今更参入しても登り目あるのかしら」
「オリジナリティの入れ方次第じゃないでしょうかネ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
「「?」」湊と啓太郎が俺を見る。
「確かに作家デビューするにはPVは必要だけど、好きな話書いたらいいじゃん“カキコム“って好きな話を書いて作家デビュー目指したっていいんだろ??」
「そりゃぁ、好きにしたらいいデス。僕は止めませんヨ。ご自分の決めたらいいんですヨ」
啓太郎の発言に湊が困った様な顔をして訪ねた。
「う~ん。参考までに啓太郎の書いてるザマァ小説のあらすじ教えてよ」
「そうだ、どんなものを書いているのか教えてくれよ。俺も知りたい」
「いいですよ。これでス」
***転移先で要らない者扱いされた俺 女神に好かれてチート持ちに!***
特に変わった所のない少年だった浩介は突然召喚の儀で異世界に飛ばされてしまう。
しかし転移者は他にもおり浩介はその凡庸さから要らない子扱いを受けてパーティーから除外され農地勤続にされてしまう。
冒険に出たくなかったためラッキーぐらいに思っていたが、農業の女神さまに哀れまれ愛情――ギフト農業スキルMAX――を貰う。
農民としての才能を開花させるが何かがおかしい。鍬でドラゴン倒せるってチートでしょ!!?
うわさを聞きつけて浩介をパーティーに戻そうとするがもう遅い!
奴隷少女や修道女、町娘に踊り子などが出てきて浩介に惚れてしまう!!
浩介の送る破天荒なスローライフが始まる……。
キャッチコピー
「どうかチートな俺を普通にしてくれー!!」
タグ
異世界転移 ざまぁ チート スローライフ 美少女 奴隷 女神 ハーレム
*** *** ***
「こ、これでPV累計121……」俺は唾をのんだ。
「う~ん。すごくテンプレ」湊も困惑している様子である。
テンプレとは“カキコム“でよくあるストーリーのテンプレートのことである。
「これが俺の――そいつは死神!――より24倍以上の価値があるのか……。」
俺には訳が分からなかった。
ガラッっと戸が開く音がした。
「やぁやぁ、揃っているね。なかなか来れ無くてすまなかった」
この同好会の顧問をしてくれる国語の大倉先生である。
「いやぁ、根本さんにはまいったね。まさか、本当に人数を集められるとは思ってなかったよ」
大倉先生はコンピューター室にいる面々の顔を見渡した。
「ふむふむ。葛間君に吉井君に仮本屋君に――仁井野君までいるのか」
「先ほどぶりです、先生」一禾が言った。
大倉大地(おおくらだいち)は2年B組を受け持つ一禾の担任教諭でもあった。
「同好会の方なんだけど、生徒会の審議は通ったから後は校長先生待ちだよ」
「よし!」
「やりましたなぁ~。」
湊と杏奈が歓声を上げた。
「ただ、校長先生は出張で来週まで学校に来れないんだ」
「ええ!! そうなんですか……」
「殺生でござるよぉ~」
「まぁ、そう落ち込まないで。校長先生が同好会の設立を反対する理由なんてないんだから安心して待っていればいいと思うよ」
「大倉先生の言う通りよ」一禾が同調した。
「ではさっそく、活動を再開してください」
こうして俺たちは各自執筆業を再開し、つつがなく時間を迎えその日の部活動を終え帰宅した。
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