第8話  そいつは死神

「なぁ、湊。啓太郎が言っていたチートやザマァってなに?」

 吉井啓太郎に聞いてもよかったが隣の席に着いた根本湊に聞いてみた。


「内容を表す言葉ね。

 私もそんなに詳しく知っているわけじゃないんだけど。

 チート系は元はゲームの不正行為などで有利な状況でプレイする事なんだけど、まるでチートみたいな展開で物語が進むことを差すわ。

 ザマァ系っていうのは主人公などに不当な扱いをした人が因果応報で痛い目を見るみたいなジャンルよ。

 タグって言うカキコムの小説を検索するための作者が設定するキーワードに使われているわ。

 どれも人気ジャンルよ」


「そんなものが流行っているんですか。」


「創太はアニメあんまり見ない方だっけ?」

「去年までは見ていたのですが、それも日中ものだけで深夜は全然」

「なるほど。じゃぁ流行には不慣れかもね。」


 俺はなんだか気恥ずかしかった。俺は流行を知らない男だ。


「今アニメは空前のカキコムブームなの。押さえておいて悪いことはないわ。とりあえず人気作を読んでみるといいよ」


「いっぱいあるんですけど、どれが人気作なんですか?」

「ランキングをみてみるといいわ」

 俺は言われるがままに画面を操作し累計ランキングを表示した。


「あ、このタイトル知ってる。優斗からコミックスを借りて読んだよ」


「カキコムはコミカライズも盛んだからね。」


 それを聞いて俺はやる気が満ち満ちてきた。

 漫画の原作者になれたならば、無理だと諦めた漫画家への夢を半分叶えたようなものである。


「おれ、投稿先を“カキコム“にするよ」

「そっか、じゃぁさっそくまずは傾向を調べるために読んでみるといいよ」


「傾向を対策しなきゃダメか? 俺、書きたい話があるんだよ」

「じゃぁ書いちゃいな。勢いも大事。とりあえずあらすじ出来たら見せてよ」


 俺はさっそく小学生の頃より心にしたためていた――そいつは死神!――の執筆を開始した。


 *** あらすじ ***

 主人公タイトは学校帰り道路に飛び出した子供をかばいトラックに引かれて死の淵をさまよってしまう。

 一命はとりとめたはずだったが、女の死神が現われ「あなたは死亡しました。しかし死神に生まれ変わりました」と言われる。

 意味が解らないと無視したタイトであったが、しかし事故の後遺症なのか他人の命の終了を告げるタイマーが見えるようになっしまった。

 タイマーの終了に合わせて命を狩るように言われたが、人の命を狩るなんてとてもできないと拒絶してしまう。女の死神が言うには任をこなさないと死神としての命も終了してしまうという。

 他人の命を狩らねば自分が死んでしまうと苦悶するタイト。

 そこにタイマーを無視して命を狩る悪魔が出現している事を知る。

 悪魔を撃退したタイトであったが、そこに女の死神が現れて「それも仕事のうち」と延命が言い渡され正式に死神業につくことになる。


 人の命を狩れないタイトのどたばた死神日記、人間に戻れる日はくるのか!!?


 *** *** ***


「どうです部長!!」

 俺は湊に詰め寄った。


「う~ん。悪くないとは思うけど現代ファンタジーの異能バトル物はあんまり人気出ないと思うよ。」


「でも、俺これで行きたいです。」


「よし、じゃぁ書いてみよう。熱意のある作品なら読者に通じるかも!?」

 部長である湊のGOサインで俺はさっそく新しい小説を作成画面から執筆にとりかかった。


 *** ――そいつは死神!―― ***


 桂木タイトは学校が終わり帰宅しようとしていた。


「コラ!桂木タイト!また授業をさぼったな!!」

 口うるさいセンコーが注意してきた。


「るっせーな、かったりーんだからしょうがないだろ」

「義務教育ぐらいしっかり受けないで将来どうするつもりなんだ!?」


「センコーには関係ねーだろ!!」

 俺は走って学校を後にした。


 そんな時、目前の公園から声がした。


「由美子!!」

 小さな女の子がボールを追いかけて公園から飛び出してきた。

「危ない!!」俺は目を疑った。

 居眠り運転のトラックが由美子目掛けて走っていた。

 タイトは走って飛んだ。

 危機一髪のところで由美子を飛んで突き飛ばした。


 しかしタイトはアスファルトの上に倒れてしまう沢山の流血と共に。

 由美子の母親の悲鳴が木霊する。


 *** *** ***


 由美子の悲鳴が木霊する――っと。


「さて、投稿するか」


「ちょっと、ちょっとちょっと!!」

「どうしたんですか。」

 俺の初投稿を湊が止めた。


「短すぎ。」

「ここでOPに入ることを想定して短くしたんです」


「アニメ化を前提にしなくていいから。カキコムの一話分の文字数の適正は2000から3000って言われているのよ」

「そうなんですか?」


「それに文章がちょっと変。タイトが二回飛んでるよ。」

「あ、本当だ」


「ちゃんと推考した方がいいよ」

「推敲って何ですか」

「何度も文章を練りなおす事よ。投稿する前には推敲してね」


「わかった。サンキュウ」


 俺は言われた通り書き足した。

 女の死神が出てくるところまで書いてキチンと推考した。


 小説設定の入力画面を表示しジャンル選択は現代ファンタジー。

 残酷な描写あり。

 あらすじとタグ(死神 異能力バトル 現代)を入力した。

 小説設定はばっちりである。


「やばい緊張する。」

 俺は 【公開に進む】のボタンをクリックした。


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