後半パート

 遮光器土偶怪人に狙われて目をつぶった砥石。だが、身体が固まることはなかった。

 ビームが届くその瞬間、金属音が響く。突然現れたバリアが光を跳ね返したようだ。パラパラと砕け散る銀色の破片に、砥石は見覚えがあった。

「あっ、居刃オリバ!!遅いって!!」

ぱっと振り返る砥石の表情が笑顔に変わる。

博物館の入口から、逃げる人の波に逆らい一人の男が現れた。

「あなたは、よ、用務員さん!!?でも、なんで……?」

困惑する美錠。いつもは学校で見かける赤い眼鏡の男がそこにいた。

「うるさい。すぐ片付けるから、先に行け。」

ふわりと風が吹く。赤髪の男、暁久アク居刃オリバの腰には複雑な機械が絡んだベルトが据え付けられている。

彼は息を軽く吐き、懐からカッターの替刃のような模様のカードを取り出す。

装傷そうしょう

いつもの言葉を呟いて、横からカードをベルトにセット。ベルトについたギアを手のひらで擦ると、回転とともにカードが内部に差し込まれる。バチバチと火花が走り、光が男の体を包む。一瞬の煌めきの後、彼の全身は赤いヒビの意匠が絡む鈍銀色のスーツで覆われていた。そう、彼こそが抜き身の刃にして仮面の執事。すなわち仮面バトラーカッターなのだ!

 戦いが始まった。ビームを撃たせないために居刃は駆け寄り間合いを詰める。

「なんだお前は!?」

怪人が繰り出す拳を避けながら居刃が答える。

「答える必要は無いだろう。死んでもらうぞ」

居刃が放ったパンチを受け止め、怪人は彼を突き飛ばす。

「死ぬのはお前だモン!くらえ、土偶ビーム!」

怪人の目から放たれた複数の光線はまっすぐ居刃へ向かう。すかさず居刃が正面に手をかざすと、腕部から銀色のカードが飛び出しバリアを形成した。ビームが着弾し、爆発が巻き起こる。

「俺には当たらん」

爆風の中から飛び出した居刃は怪人へとローキックを決める。転んだ怪人の脚部を踏みつけると、その下半身は派手な音と共に砕けた。

「トドメだな」

ベルトのギアを変身時とは逆に回すと、カードが射出された。脚部が割れて動けない怪人を指差し狙いを定めると、頭上に煌めく刃が出来上がる。怪人を眺めつつ、暁久居刃はついでのように告げた。

「冥土の土産に教えてやる。お前がさっきちんちくりんと呼んでいた、そっちが本当の『お嬢様』だ」

「な、なんだと〜〜?!?!?」

覆面の赤い眼がちらりと輝く。手を下ろすと同時に巨大な刃が落ち、怪人は跡形もなく爆散する。危機は去った。

 怪人の消滅とともに固められていた人々が動き出す。美錠の身体も元通りの色と形を取り戻した。

変身を解除した居刃へ砥石が近づいてくる。

「やったね!今回もありがと」

「まだいたのか。逃げろって言っただろ……」

やれやれと首を振る居刃。

「だって、戦いは見届けるって決めてるし。それにここからは私の出番だからね」

砥石の瞳が光を放つ。同時に黄色の火花が周囲の人々へ飛んでいく。お嬢様である砥石にはと名付けられた力があり、怪人に襲われた者の記憶を有耶無耶にすることができた。

「これでよし。建物は私にはどうしようもないけれど、記憶のほうはなんとかしとかないと」

んー、と伸びをしながら砥石は呟いた。

「おまえは毎度殊勝だな。ほら、帰るぞ」

暁久居刃は砥石の腕を掴んで歩き出す。

「えっ?校外学習、途中なんだけど」

「こんなことになったってのに続ける気か?お前ならサボったって誰も文句は言えないだろ。それに、事後処理もたっぷりあるしな」

成人男性の力に抗えるはずもなく引きずられる砥石。

「あっ、待ってよ……!えっと、美錠ちゃん!先生にはなんかいい感じに言っといて!!じゃあまたあした!」

「今、私何してたんだろ……えっ砥石ちゃん?一体どうしたの!?」

の影響でぼんやりしていた美錠の顔に表情が戻る。その視界に映ったのは笑顔で手を振りながらずりずりと引っ張られていく砥石の姿だった。

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