転校生と秘密

藍田 匠

プロローグ

高校に入って初めて満開の桜を見た。

入学式の時は、その数日前までの天気によってかなり散ってしまった後だった。

そんな高校生活での初めてのクラス替え。高校2年生と呼ばれる学年になったわけだ。


県立の学校であるこの学校には学年に約350人いて、勿論たった1年間過ごしたくらいで全員が知り合いになることなんてないのだ。クラスにいた親友とまでは呼べず友達と言って正しいのかよくわからないとりあえず仲の良い人。委員会などの仕事で関わった人。普段クラスの人と喋っている中で話題に出る人。すれ違ったことのある人。

名前こそ知らなかったり、とても顔と名前なんか一致してないが、大体学年にいる人くらいは基本的に「見たことある人」みたいな感じにはなっている。

ん?影薄い人とかはって?そんなことは知らない。

だからクラス替えで初めて喋る人なんかも多いわけだが、最初は概して前のクラスのメンバーでまた一緒になった人と喋ったりするものである。


近頃、世の中には制服を定めなかったり格好を自由にして、自主性を育むなど宣言している学校も増えてきている。この学校はまさしくそれである。世間的に見れば偏差値とかからも進学校と呼ばれているこの学校だが、生徒の様子はといえば、ピアスをいくつも付けていたり、頭髪も様々な色がいる。パッと見の校風だけならまさしくヤンキー漫画に出てくる学校そのものである。これが全国模試とか行った時にはみんな素晴らしい偏差値を叩き出すのだから見た目に囚われてはいけないいい例なのかもしれない。


そんな学校で特に派手な色に髪を染めたり、派手な服装をしてるわけでもなく、少し茶髪がかった髪色に、落ち着いた服装をしている彼女は妙に視界から離れなかった。

別に1人地味なわけではない。服装が自由だからと言ってみんなが派手なわけでは勿論ない。ただその彼女はなぜか気になったのである。


「あんな人いたっけ……?」


思わず独り言を呟いてしまった頃になって前のクラスでよく喋っていた悠真がやってきた。


「俊樹じゃん。お前もB組だったのか。よかった、喋れる相手いないかと思った。」

「別に悠真は喋り相手に困るようなキャラじゃないでしょ。」

「1年生でいきなり学級委員立候補したお前に言われたくないな。」


そう。俺は1年生の時、学級委員をやっていた。

行事が非常に盛んなこの学校である。さぞ仕事、特にクラスの決め事なんかも多くて大変かと思いきや、行事が盛んであるが故にほぼ全ての行事に対し、〇〇実行委員会なるものが存在しているため、行事が忙しくなっても学級委員が忙しくなるということはないのである。行事のための決め事でクラスの前に出ることもない。学級委員がやる仕事というと、宿題などの提出物をクラス分まとめて職員室に持って行くとか、授業で要るものをどこかに取りに行くだとか、要するに雑用係である。名前の割に中身のない役職だった。


「ゆーて別に仕事多いわけじゃないし。学級委員て名前だけで前で喋ることもそうそうなかったからあんま説得力ないな。」

「そうだったか?こっちから見てたらめんどくさそうな仕事多そうで大変そうだったけど…」

たしかにめんどくさい仕事は多かった。そりゃ実質雑用係ですからね。でもそんなに大変な気はしなかった。忙しくもなかったし。

そんな自分の忙しいとか大変とかよく分からない学級委員の話は置いといて気になることがあったのだ。

「なぁ悠真、あの女子知ってるか?ほら、あそこに…」

さっきまですぐそこの黒板の前にいた気がするが今は姿が見えなくなってしまった。ほかのクラスの人だったのだろうか?ほかのクラスの人だったとしても気になるものは気になるのだが…

「誰のことだよ。」

「いや、さっきまでそこにいた女子なんだけど…。このクラスの人じゃなかったのかな?」

「なんだよ、そんな聞かれ方したら気になるじゃないか。」


会話をこのタイミングで遮るように朝のホームルームの始まりを示すチャイムが鳴った。

「お、とりあえずお前が今ここに座ってるってことは今年も同じクラスだな!また後でな!」

そう言って悠真は自分の席へ戻っていった。


さて、ホームルームである。みんな慌ててなれない自分の席へと向かう。さっき気になった女子はこのクラスの人ならどこかの席に着くはずと思い、あたりを見回してみる。後ろで突っ伏している女子が1人いるくらいで見当たる様子がない。

やがてクラスに新しい担任がくる。担任は情報の瀬戸先生。1年生の時の情報の授業は瀬戸先生だったので、特別知らない先生というわけではない人だ。


1時限目は今年の学校生活についての軽い説明だった。

そして2時限目、朝から悠真が俺のところに来て話してきた委員会決めである。

大体みんな前の学年の時の仕事が勝手がわかっていて慣れていることも多く、なんだかんだで前年とほぼ同じ仕事を選ぶものだ。たまにそれでもやりたい仕事が被ってしまうことはあるが…。

瀬戸先生が黒板に委員会名と必要人数を書いていく。やりたい委員会名の横に自分の名前を書いていくという流れだ。被ったらジャンケンかくじ引きなんか決めていく流れ。

俺は1年生の時にやっていた学級委員のところに自分の名前を書く。画数の多い漢字なので黒板に小さくかつ読み易く書くのは少し難しい。それを済ませると学級委員の女子の枠の方に名前を書く女子がやってくる。来生 景。彼女はそう書いた。知らない名前である。そして俺の方を振り向く。


「霞屋君…?。よろしくね。」


朝のホームルーム前に気になっていた彼女。本人である。

苗字は来生。出席番号で言えば俺の次。朝のホームルーム前に後ろで突っ伏していた女子が彼女だったのだ。


他に学級委員を希望する人もいなかったため、俺と彼女、来生さんの2人が学級委員になることになった。

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転校生と秘密 藍田 匠 @shoaida64

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