影との道 ~能力激闘高校生活~

藻野菜

高校入学編

第1話.独り歩き

「「今年もやって参りました。XQ学園魔闘祭!!」」


 実況席の声が学校中に響き渡る。

 ここは国立XQ学園。この学校では毎年、生徒たちによるトーナメントバトルが開催されている。今から行われるのは1年生の部だ。


「「さぁ、本日最初の試合にいきましょう! まずはこの選手、トオル・カゲミチィッ!!」」


 実況が俺の名前を叫んだ。俺は緊張を落ち着けるために一度深呼吸をし、学校から支給された魔道具の剣を握りしめ、目の前の青い門をくぐる。

 門の先には、スピーカーやドローンといった実況放送のための設備、2万人は入るであろう大きな観覧席、そして、四方をバリアで囲まれたフィールドが用意されていた。

 観衆の拍手を受け、緊張しながらそのフィールドへと入場する。


「「対するはこの選手、ツチオカ・リュウジィッ!!」」


 向かいにある赤い門からガタイのいい男子生徒が入場してきた。武器は何も持っていないが、厳ついグローブを着けている。


「「本日の最初の試合となりますので、試合の前にルールを説明しましょう。本日行われる試合は今春入学したばかりの1年生の試合! 皆さん、緊張した子がいても温かい目で見守ってあげましょう!」」


 客席から少し笑い声が聞こえるが、今から行われる試合への緊張でそんなこと気にしている余裕はない。

 反則だけは避けなきゃと思い、実況のルール説明に耳を傾ける。


「「皆さんご存じだとは思いますが、この学校の生徒は全員、魔法と呼ばれる力が使えます。今から行われる戦いではその魔法を駆使して戦っていただきます! 基本的に自身が使えるものは何でも使っていいですが、試合後も影響が残るような呪いの類は禁止とさせていただきます。また、選手には1人1つずつ何かしらの武器・道具を持つことが認められています!」」


 この学校は俺たちのような能力者のために作られた。ここの生徒は俺を含めて何らかの能力を使用できる能力者だ。そして、その能力者同士が戦って誰が一番強いかを決めるのが今行われている魔闘祭と呼ばれる行事。


「「勝敗の付け方は主に3つ。『本人の意思による降参』、『1分以上の拘束』、『意識の消失』です。30分以上勝敗がつかない場合は、審判によるジャッジ、もしくは残存魔力量の計測によって勝敗をつけさせていただきます。これらの勝敗がつくのなら選手はどんな手を使ってもOK! フィールドのバリアによって客席の皆さんの安全は保たれてますので、ご安心を! ルール説明は以上です!」」


 実況によるルール説明が終わった。いよいよ試合開始だ。


「「それでは、準備はよろしいですね? 通 影道とおる かげみち VS 土岡 隆二つちおか りゅうじ、試合開始ィッ!!」」


 「ブーーッ!」というブザーと共に、それぞれが入場してきた門が閉ざされる。このフィールドの中に、俺と相手の2人。

 土岡と呼ばれた生徒は真っ直ぐと俺の目を見て動かない。様子見だろうか。

 そう思って警戒していると、相手が口を開いた。


「B組の土岡だ。よろしく」

「あっ、A組の通です。よ、よろしく」


 お互い挨拶を済ませる。土岡は見た目は怖いが礼儀正しそうだ。


「じゃあ、いくよッ!!」


 土岡はその掛け声とともに両手を地面につける。

 咄嗟に剣を構え警戒したが、地面から何かが近づいてくるのを感じすぐに視線を下に向ける。


「(なにかくるッ!!)」


 俺は咄嗟に後ろに跳んだ。

 その一瞬後、さっきまで立っていた地面が隆起し、尖った岩が飛び出してくる。


「(岩や地面を操る能力……!?)」


 初撃を躱し、なるべく冷静に相手の能力を分析する。


「(地面に手を付けて魔力を流し込んで相手を攻撃するって感じか……? 目に見えない分避けにくいけど、地面に手を付けるという明確な隙があるな)」


 先ほど地面から飛び出た岩を見ながらそう考える。


「隙あり!」

「くっ……危ない」


 俺は考えるのに夢中になり視界の外から近づいてくる土岡に気が付かなかった。 

 寸でのところで拳を躱す。土岡は近接戦闘もできるようだ。


「(あのグローブは近接戦闘用のものか。多分岩を操る能力は中距離、近接戦闘は単純な打撃のみ。相手との距離が中距離ならば能力で攻めて、近づくことができたら打撃で攻めるって感じのスタイルか)」


 次々と繰り出される打撃を半分躱し、半分モロに喰らいながら考える。


「(僕もそろそろ攻めなきゃ……!!)」


 そう思い、持っていた剣で相手の拳を弾きつつ、距離を取る。


「よし、【独り歩きナイトウォーカー】!」


 俺は土岡との距離が取れている間に自身の能力を発動した。

 俺、通 影道の能力は【独り歩きナイトウォーカー

 自身の魔力と引き換えに影人形を生み出し、それを操ることが出来る。影人形はどんな形にも変形可能。

 俺は生み出した影人形に剣を持たせ、土岡に向かわせる。


化身型けしんタイプか、その剣はそいつに持たせるためのものだったか」


 土岡は僕の能力の分析を始める。

 化身型とは、自身の魔力によって何かしらの物体を生み出すタイプの能力のことで、僕の【独り歩き】は典型的な化身型だ。土岡の能力は恐らく射出型、自身の魔力を何らかの形で飛ばすタイプだ。

 先ほどの土岡の分析を少しだけ訂正するとすれば、僕は影人形に剣を持たせようと考えて剣を持ってきたわけではない。

 影人形を操って剣を振り回させる。しかし、剣先は空を切った。

 土岡は素手と剣では不利だと思ったのか、影人形の攻撃を躱しながら距離を取る。


「お返しだッ!」


 距離を取った土岡は地面から複数の石礫を生成し、俺に飛ばしてくる。

 石礫はかなりの速度で迫ってくる。当たったら相当痛そうだ。


「くっ……ガードしなきゃ」


 俺は土岡に向かわせていた影人形を引き寄せ、影人形の形を人型から板状に形を変えてからその後ろに隠れる。

 ゴツッゴツッという石礫が衝突する音が壁越しに聞こえる。その音が鳴るたびに影人形から魔力が失われていくのを感じる。


「(どうするか考えないと)」


 打開策を考えていたが、5秒ほど経った後石礫が止んだ。


「(魔力切れ……?)」


 そう思った瞬間、自分の足元から気配を感じる。


「しまっ……!」


 急いで避けようとしたが、遅かった。試合開始直後に見たのと同じ、尖った岩が地面から飛び出し、吹き飛ばされる。

 その後は影人形を出して態勢を立て直す暇もなく、全身を岩で押さえつけられて拘束された。

 こうして、僕の高校生活初試合は幕を閉じた。



「いやー高校に入ったばっかりなのにいきなり戦わせられるなんて、大変だよね」


 魔闘祭から3日後の昼休み、僕は同じクラスの炎王 直弥えんおう なおやと一緒にお弁当を食べていた。

 直弥は僕と同じA組でたまたま席が隣だったので入学初日に会話をし、今では高校で唯一の友達だ。


「本当だよ。一応自由参加らしいけどほとんどの生徒が参加するみたいだし、何となく参加した方がいいみたいな雰囲気あるよね」

「そうだねー入学早々根暗な奴とは思われたくないし、参加せざるを得ないよね。僕もあんまり参加したくなった」

「でも、直弥は準決勝までいってたでしょ? すごかったよ」


 俺は魔闘祭での直弥を思い出す。直哉は射出型で炎を出す能力を使っていた。

 能力自体は単純なものだったけど、直弥の戦いぶりは凄まじかった。炎を出すだけといってもその規模と威力と派手さは生徒の中でも群を抜いており、ほとんどの生徒を初撃で蹴散らしていた。


「いやーあれはまぐれというか、そんな大層なことじゃないよ」

「いやいや、めちゃくちゃ凄かったよ。格闘技とか習ってたの?」

「ううん、何にも習ってない。ただ能力がちょっと戦い向きだから勝てたんじゃないかなぁ」


 直弥はそう言いながらタコさんウインナーを口に運ぶ。

 能力は基本的に幼少期から使えるようになるが、能力の性質は使う人間の考えや性格を反映すると言われている。

 見た目も性格も大人しそうな直弥があんなに攻撃的な能力を使うなんて想像していなかったので、初めて見た時は驚いた。


「俺なんて一回戦で負けちゃったよ。あっさり拘束されちゃって、すぐに降参した」

「うん、見てた。そういえば通くんは剣持ってたけど、剣道とか習ってたの?」

「いや、習ってない。道具が一つ借りられるっていうからテキトーに選んだだけ。素手よりは有利かなって思って」

「あ、そうだったんだ。確かにただ剣振り回してただけだったもんね」


 直弥に痛いところを突かれ、少し恥ずかしくなる。

 直弥とはまだ短い付き合いだが、今みたいにサラッと心に刺さるようなことを言ってくる。もしかしたらこいつは毒舌なのかもしれない。

 弁当を食べ終えた僕と直弥は、少し雑談をした後、次の授業の支度を始めた。


 国立XQ学園、ここは能力者の高校生のために作られた高校。

 この世界では、現在の3世代ほど前の世代から突如として魔法を使える人間が現れ始め、今では人口の10分の1が能力者となった。そんなマイノリティで特別で貴重な能力者を育てるための学校がこの高校だ。

 このXQ学園で、通 影道とおる かげみちの高校生活が始まる。

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