消える男 消える女

@k0905f0905

第1話

今朝、起きたときボクの記憶は

部分的にどこかに消え失せていた。

 昨晩しこたまバーで飲んだジントニック

のせいかとも思ったが、それにしては

少し変なのだ。

 まったく吐き気もしないし頭も痛くない。

「あなた、会社遅刻するわよ」

そのとき妻の麒麟が部屋に入ってきて

魔王のような声でわたしを急かそうとした。

「あのなあ、オレ」

「ダメよ、どんなことがあっても会社には行かなくちゃ。

そのためにあなたを生かしてあるんだから」

麒麟が長い首を振り回してボクを脅した。

そうこれは体のいい脅迫なのだ。

「あなた、カイって誰?」

麒麟が突然そう言った。

「カイ? 知らないなあ。人の名前かな?」

ボクは本当に見当もつかなかったので

そう返した。

「どうせキャバクラの子かなんかでしょう。まったく

イヤらしいんだから」

それは悪質極まりない断定形の文章だった。

ボクはキャバクラになんか一度もいったことがないし、

(別に見下しているわけではなく)あまり興味がなかった。

女性は麒麟ひとりでウンザリしていたのだ。


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