この薄暗い教室で君と

あおい

第1話 夜の教室

ガラガラガラ…



「誰も…いないよな…」



 薄暗い真夜中の教室。時間は3時ぐらいだろうか。月明かりが教室を照らしている。


「最高じゃん」


 俺はそのまま席に座った。場所は窓側の1番角の席。この席が1番好きだ。まあ自分の席は真ん中辺りの席なんだけど…


 窓を全部開けて少しずつ入る弱々しい風を浴びながら前の黒板見つめてボーっとする。


「あーっ、最っ高ー…」


 もうこれだけで生まれてきて良かったって思えるぐらい今この時間が好きだ。忍び込んで入った甲斐があったってもんだ。もういっそのことここに住んじゃおうかな。


 その時急に強い風が吹いてきやがった。


「うわっ、強っ」


 せっかく感傷に浸ってたのに台無しだ。風が俺に直撃し、1ヶ月程切っていない髪の毛が荒ぶる。前が見えない。


 もーそろ切らんとな…


ブワっ


 カーテンが大きく羽ばたき俺の顔面に覆いかぶさってきた。


「ぶ」


 しばっとけば良かった。


 なぎ払うようにカーテンを退かす。前の方のカーテンも舞い上がっていた。


 はー…せっかくのいい雰囲気が…


 いつもこうだ。少し上手くいったと思ったら途端に上手くいかない。


 入学当初だってそうだ。体育館で入学式を行った後、歩いて教室まで向かった。するとどうだ。もう数グループに分かれて楽しそうに喋っていた。


 えっ。嘘だろ。みんな初対面だよな?なんでそんなすぐに友だちできるんだよ。


 その後担任の先生がやってきた。レクリエーションということで自己紹介をするらしい。各々が個性を出しながら名前、趣味などを話していく。


 みんなはそれを聞いてクスクスと笑ったりしているが、今の俺はそんなことよりも何を言うか考えまくって心臓がバクバクと悲鳴を上げていた。冷や汗が止まらない。


『――――です。1年間よろしくお願いします!』


 あっもうすぐ俺の番だ。あーどうしよ。死ぬ。多分この自己紹介で今後の学校生活がガラリと変わる。自分のキャラをアピールすることで、仲のいい友だちができたりするだろう。


先生『おーよろしく!じゃあ次君ね。まず名前と、趣味とか好きな物、なんでもいいよ。』


「あっ、はっはい。」


 ふー落ち着け。さっき考えた超絶完璧な自己紹介文を朗読するだけだ。


─────


 結果は惨敗だ。言うことは頭に浮かんでるのに、緊張で呂律が回らなく、全然喋れなかった。終始みんなが何だコイツ?という目で俺を見てくる。コソコソと話声が聞こえる。


『えっ、なんて?』『何て言ったん?w』『いや分からんwずっとゴニョニョ言って聞こえんかったw』


目の前が暗くなった。


先生『あっ終わり?えっと…ありがとう。

じゃあ次の人――』


 どうやら先生にも名前は伝わらなかったらしい。


 あー死にたい。穴があったら入るから土でもいれて埋めてくれ。


 そこからの俺の高校ライフ。…まあ言わなくても分かるよね。



──────



 いつのまにかさっきのいい感じの気分もどこかに行ってしまった。



 もう帰るか



ふと、荒ぶっているカーテンの方に目をやる




 月明かりがカーテンを照らし、人影らしきものが見えた。




「……え」












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