NOT TODAY:2024 -平和の鐘:幕間-

加賀宮カヲ

プロローグ

 死神――その恐るべき存在ですら、歴史の奔流を止めることはできなかった。


 香港民主化運動の崩壊を契機に、世界は激変した。中華連邦は国内で猛威を振るう疫病に対して沈黙を守り続け、ソビエトの暗躍に見て見ぬふりを決め込んだ。


 その裏で、死神たちは人知れず動いた。彼らの能力は、遺伝子から原子力まで幅広い。かつて「偶像」と呼ばれた最悪の死神が世界を混乱に陥れたのだ。


 死神が戦争を止めることはない。先の大戦でさえ、彼らは人類の分岐点とした。平和を夢見る者はいたが、現実は冷酷だ。世界は、終わりなき戦場となった。直接的な暴力が透明と化した、平坦な戦場。


 死神の力をもってしても、人類の歴史を根本から変えることはできない。


 ウクライナ侵攻も避けられなかった。死神がいても、民族問題は解決されない。むしろ、戦局は泥沼化していった。中華連邦とソビエトが暗躍し、世界は混乱の渦中にあった。

 

 世界は変わらない。

 世界は繰り返す。

 そうなるようプログラムされている。

 

 人類がどれだけ血を流そうとも、死神がどれだけ人間に近づこうとしても。


 2024年――かつて名を持たなかった子供たちは、大人になった。混沌とした世界は、彼らを容赦なく表舞台に引き戻そうとしている。


 分断されきった世界。

 世代間、男女、イデオロギー。


 世界とは生き物だ。

 単純で複雑。

 50億もの細胞がせめぎ合い、共食いをしている。


 2024年、名前のなかった子供たちは皆、歳を重ねた。

 これは、そんな子供たちの今を描いたオムニバスストーリーである。


 ※特別顧客-世界を股に掛けた既得権益組織。


 

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