機械製
@niwatori_chicken
第1話
母という存在はどうして吾が前に高く聳え立つのだろうか。吾が脳裡に彫りつけられた母の相貌は、吾の平常を次第に侵蝕してくる。それは育てた母に責任があるか、それとも育った吾に責任があるかの二者択一である。
母は平生厳格であった。吾が幼少の時から、母の号令は絶対であり、彼女の言論に共鳴する振動数は常に我が心を通貫して響いた。彼女の強さの根源は、家族愛だとか、そういった類の深い愛ではない。教育である。それはひたすらに吾が人格に滲み込んで来た。
時に幻聴や幻覚にも悩まされた。空漠の背中から、彼女の声や眼なざしが感ぜられ、それが吾の行動を統御した。何かを決断するとき、中空の背後へ振り向くこともあった。母が吾の脳細胞に生息していることを自認する度、吾は自身が誰なのかを見失った。
幼い頃、未だ母内部の仕組を知らぬとき、吾はそこに母由来の愛があると思って、彼女の期待に広く応えんとした。だが、彼女の要求は次第に増す一方だった。結局吾は己が無力さを内部の母に突きつけられ、独自の人格を一部欠損した。母の目線は圧力を持ち、眼前が有機体を日常開削した。
時を経て、吾は母の元を離れ、独り立ちする道を選択した。母から遠ざかり、吾が人生を発達させる段階に足を踏み入れたはずだった。しかし、現実はそうではなかった。母の存在は吾という土壌に深々と根を下ろし、なにやら出芽の準備を進行していたのである。
母は呪いの機械だ。加圧器、強制振動器、束縛器へ出力する配線回路が、その内部仕掛けであり構成物質であり根源である。そんな母の元に、吾は誕生したのである。
今、吾は子を出産した。気づくと吾は、吾子を激しく教育、操縦していた。それは、複製による悲劇の歴史の歯車が始動した瞬間だったのである。
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