夫婦漫才で有名な二人はツーショット写真後サランラップで拘束される。（ランダム単語ガチャ短編１）

本編（一話のみ）

「「どうも、ありがとうございました～！」」

大きな拍手に包まれ、会場には幸福感が満ちていた。

夫婦漫才師 "ふらみんGO" は、ギター担当の男 下条たけし と ツッコミ担当の女 下条あさみにより構成される人気コンビだ。劇場での出番だけではなく、テレビ出演のほうも快調。ろくでなし旦那キャラのたけしと痛快主婦キャラあさみの掛け合いは、幅広い年齢層から好評だったのだ。

そんな人気絶頂のお笑いコンビが経験するものの定番があるでしょう。そう、どっきりです。内容はこうだ。宣材写真のツーショットを撮るとして、並べた二つの椅子に座らせる。そして、写真を撮り終わると同時にADが二名近づき、衣装を整えるふりをして瞬時にサランラップでぐるぐる巻きにする。そこから二人をそのスタジオに放置した場合、どうなるかというのをモニタリングしようというものだ。ドッキリはふらみんGOにとって初のものだが、二人もテレビに少し慣れてきたころだ。そこはうまくやるだろう。

「はい、では撮りますよ～。３，２，１、、、」

「「ふらみん ごぉぉ～～」」

「OKです！ありがとござまっすぅー」

お決まりの掛け声とともにツーショットを撮り終わり、そこにADが近づく。

「衣装直しますねー」

そういいながら近づいてきたAD二名は二人の衣装に触れるや否や、懐からサランラップを取り出しそれを広げ、お互い時計回りにぐるぐる回り始めた。少々古風なパワハラ環境で働いてきたAD二名の手際はさすがのものだった。ふらみんGOが「ちょちょちょ！？」と謎の鳴き声を発しているうちに、完全に二人は椅子に拘束された。サランラップによって。

そしてすぐにスタジオのスタッフたちは外に出ていく。ふらみんGOを二人きりにするためだ。ラップを巻いたADの片方は足取りがおぼつかない。あの速度でくるくる回ったら、目が回るのも仕方がないことだろう。新種のフラミンゴの誕生だ。

スタジオには取り残されたふらみんＧＯ。もちろん隠しカメラで撮られてはいる。本番はここからだ。

「意外と落ち着くわねぇ」

「落ち着いてる場合じゃないでしょお（泣）」

どうやら普段はボケとツッコミが逆らしい。

「これさ、ぐるぐる巻きだけど立って移動はできそうね。」

確かに、二人がラップと椅子で拘束されているのはあくまで上半身の話。下半身は自由が利くのだ。

「移動してどうするの？」

「決まってるじゃない。スタッフどもをぶっ飛ばすのよ！」

そう意気込んで、あさみは立ち上がろうとする。

「あなたも立たないと動けないわよ。なに、たたないのはアソコだけじゃないの？」

「いや！息を！合わせないと！たてないでしょうが！」

「あーはいはい、じゃあ行くわよ」

「「いっせーの、せっ！」」

立った。ふらみんＧＯが立った。さすがのコンビネーションである。そして二人はそのままちょこちょこ移動し始めた。さながら二人三脚である。バラつきはあるが。そしてたけしがスタジオのドアを開けようとすると、異変に気付く。

「開かない...ていうかスタッフが扉を抑えてる！」

その証拠に、たけしが扉を開けようとすると生まれる小さな隙間からスタッフの顔が

見えたのだ。ほんの一瞬ではあったが、えらく力んだ表情が確認できた。

「そいつをどうにかしないと出られないってことね。」

「単純な力比べではきっと勝てない。でも、僕に秘策があるよ。」

そうしてたけしがあさみにごにょごにょ何かを話し、それにあさみはニヤリと笑った。

「見せてやろうじゃない、芸人の力ってやつを」

「よし、いこう！」

「「せ～の、ふらみん」」

「「ごぉぉぉぉぉぉ！！」」

たけしが扉に直接体を当て続け力を込める。そのたけしを押す形であさみが力を込める。そうしてできた隙間は先ほどよりも大きなものとなったが、まだ二人が出るには不十分なものだ。

だがたけしの秘策を繰り出すには、十分な隙間だった。

変顔だ。

かつて、OLとしての仕事がうまくいってなかったあさみを元気づけるために売れないピン芸人だったたけしがみせた変顔。あさみにとっての思い出の変顔。

「ぐふぉっ」

まさかお相手が変顔で扉をこじ開けようとしてるとは思いもしなかったそのスタッフは、思わずその破壊力に吹き出してしまい、フッと力が抜けた。均衡が破られた瞬間だった。

扉が開くと同時にドドドっとふらみんGOはスタジオ外に倒れこんだ。

そこには先ほどスタジオにいたスタッフたちが拍手で迎えていた。

「Congratulations! (パチパチ）」

「Congratulations! (パチパチ）」

本来のドッキリの趣旨とは少し離れたかもしれないが、二人の力を合わせる姿にスタッフたちは自然と拍手を送っていた。

この様子が放送されると、ふらみんGOの人気はさらに増し、たけしは変顔芸でプチブレイクも果たした。違う番組に出るたびに変顔を求められるため、たけしは新たな変顔を開発していったが、あさみにとっての最高の変顔が更新されることは、未来永劫ありえないのであった。