花火の結末

ねね

第1話

 あ、これ。これってあれだ。

 某大手二次創作小説サイトでよく見るあれ。

 つまり。私、飛跡酔華ひせきよいかは、転生を果たした。


 前世は冴えない学生。自分で言っちゃっていいのか、冴えないなんて。

 いいんです。


 この世に生を受けて、早々に三次元を諦めた。下ネタで笑う男子と、イケメンに媚びへつらい裏で不細工(言っていいのか?)をこき使う女子。世界の限界が見えた。

 そしてやはりそんな人間が行き着く先は二次元で。


 好きなものは干し芋、歌、アニメ、マンガ。嫌いなものは陽キャと祭り。特に花火は最悪だ。陽キャが嫌いなのは自身が陰キャだからってのもある。

 いわゆる腐女子兼アニメオタク。そして寡黙。物静か、といえば聞こえはいいけども実際は陽キャの陰でひっそりと暮らすコケ同然の生活。

 もうこの時点で人生の負けは決定していたようなモノである。自分自身がその典型的な例となっている。

 長い前髪(自称「一種の自衛。前髪上げるってのはすっ裸で踊ってるようなもの」)で顔を隠し、肉付きの良くない体を曲げてスマホに夢中だった。


 歩きスマホはよくない。そう気を張るな。弁明させてくれ。

 新しいBのLのゲームが発売していたのだ。

(※腐女子とは、BLすなわちボーイズラブを好む女子のことだ!男子の恋愛に興奮する特異体質なのだ!腐女子は!)

 声優が神つまり声が神、そして顔面偏差値最高。一人で勝手に興奮し、交差点で信号待ちしながら脳内で踊ってたら目の前で子供が飛び出した。横にはトラック。

 気づいたら飛び出してたね。

 左に大きな衝撃。痛ってぇなタコ!!と思って下を見てみた。下半身が血まみれで感覚は当然なし。子供は泣いていた。こいつこっちの気も知らねぇで!


 まあとりあえず死んだとしよう。

 転生。全人類(?)の夢。よし。次の人生は謳歌する。







【やあやあ飛跡酔華。】






 ん? なんか知らん声が聞こえるんだが。


【シカトはやめよう?傷つく。】


 神様かな?まあいいや。


【よくねぇよ。とりあえず君は人間のゴミみたいな生活を送ってきていたね。】

 否定はせん。


【ということでこれから君にチート能力を送ろう!】

 ん?(本日二回目)


【まあ二回目の人生は楽しんで。ではまたー!!】

 ブツン!


 えーーーーー!!!

 まあいいや。


 ということで転生いたしました私、飛跡酔華はチート能力を使い陽キャたちに一泡吹かせます。頑張れ私!










 この世界を探ってみてわかったこと。

 ここの背景は自分がいた世界だ。見た感じだとそれほど変わってはいない。東京タワーはちゃんと赤色で、レインボーブリッジはあるし、山手線が青色なわけでもない。つまり変わっていない。

 ほう。何となく分かってきたぞ。地の利はこっちにあるわけだ。いわば「現代ファンタジー」。ならやってやるか。陽キャたちに一泡吹かせてやるわ!陰キャ舐めんな!

 その刹那。

 ドゴーン!!

 

 ええええええええええええええええ!!!!!!

 吹っ飛んだで?建物が!コンクリが!ワーオ!

 

 そして私は悟った。


 ここは戦争をしている世界だと。

 

 やることは一つ。

 逃げます。

 走る。走る。走る。そこで気づいた。

 私、足めっちゃ速くね?

 前世はろくに動いていないから50メートル走はいつも12秒台。だが今は3秒くらいだと思う。某100メートル走世界記録保持者へ。私の方が速いで?


 気づいたらとある森のなかだった。ある日、森のなか、くまさんに、出会った…


 くまさん?


 クマや!クマがいる!!目の前に!


「足、速いんですね…」


 しゃべった。こいつ、しゃべりやがった!!人間の常識を逸脱しやがった!!


「もしかして、わたくしの声、聞こえていらっしゃるので?」


 ゑ?めっちゃ礼儀正しいじゃん。じゃなくて。私の声聞こえるのかい?


「ええ。最初すごくディスりましたよね。」


 ごめんね。この世界に来たばっかりで。


「そうですか。なら説明しましょうか。」


 クマの説明を略す。

 ・この世界は(多分)私が生きていた世界よりも100年ほど後の世界。西暦2100年とかって言っていたから。

 ・この世界は異能力が存在する。いろいろな物を操ったり、物を触らないで動かせたり、いろいろできる人がいる。多分動物と話せるのはこれのせい。

 ・この世界は、「鬼」と呼ばれる人外の魔物がいる。主食は人間、元人間の突然変異体。もちろんこれを倒す機関もある。

 ・この世界では、戦争が起きている。鍵を握るのは異能力。異能力者が重宝される。通称「異能大戦」。


 背景は今まで生きてきた世界だが、本質的にこちらの方が狂っている。

 まあいい。食料と水ときれいなベッドとBLさえ見ることが出来ればそれでよし。


「森はもう安全ではありません。逃げた方がよろしいかと。」


 何故?


「もうしばらくすればここに軍隊が来るでしょう。わたくしは逃げます。あなたは置いていきます。二人の方が気づかれやすいですし。」


 迷惑かけらんないから。いいよ。個別で行動しよう。ありがとう。もりのくまさんよ。


「では。また会える日が来ることを。」



 よし。だいたい分かった。森を出よう。そしてきれいなベッドで寝よう。



 そして5年が経過する。(飛ばしすぎじゃ!!)


 私は、軍隊最強になっていた。


 神の言った「チート能力」。その一部がわかった。

 歌を操る異能力。その歌が聞こえる範囲内ならばそこは私の王国となる。

 歌を具現化し、銃を作ることも出来れば体にくっつけて身体強化も可能。もちろん相手に纏わせ重力操作、体内に入れて精神操作、何でもござれ。

 多分例の「もりのくまさん」と喋ることが出来たのは、直前に歌っていたからだと考えられる。


 森を出て、軍隊にあっけなく捕まり、そこに入って最強となった。

 今まで人を殺すことはしていない。例の「チート能力」で仮死状態にして、精神操作で軍から離別させるよう仕向けただけだ。三日もすれば起きるだろう。


 可愛い(?)部下も出来た。

「酔華さん!!」

 部下の市井蒼いちいあお。年齢は24くらい?よく知らない。ちなみに私はまだ12くらい。もともと記憶があるのが7歳くらいからだからね。

「歌、歌ってください!」

「えー、今はちょっとなぁ」

「嫌ですよ!久々の休暇なのに!」

 ちなみにこいつも異能力者である。

 能力名【夢十夜】。生命体を作ることが出来る。上限は一人。だが性格や顔つき、年齢などは変えることが出来る。なんと。それを私似にしたいなどと言い出したから異能力で身体強化ゴリゴリしてから一キロ先までぶっ飛ばしておいた。気色わるい。


「飛跡酔華君。大佐から連絡だ」

「御意」

 見た目は子供だが中身は三十路に近い大人だ。上司の(学校では先輩だが)扱いには慣れたもんだ。


「君はこれから特殊部隊に行ってもらう」

「質問の許可を」

「よろしい」

「特殊部隊、とは?」

「知らないかい?任務成功率100%、生粋の天才たちの集まりであるヰ2045隊。確かその中身はたった4人の人間のみだというが、怪しい。政府直々の依頼だ。どこに属していても政府の言うことは聞かないといかん」

 へえ。私をみつけるなんて。やるじゃない。

「政府の、対異能専門の役職、対異能課直属の組織。いわば何でも屋ってとこか?そこへ行け」

「仰せのままに」

 せいぜい私を楽しませろ。


 そして、今日、私は軍を離脱しヰ2045隊に入る。

「失礼します。本日よりこちらへ配属となりました飛跡酔華と申します!」



「…」

 返事位しろや。

「えー。新しいヒト?教育面倒くさいなー」

「こんな時くらい笹団子食べるの辞めませんか?」

「いやだよー」


 一言言おう。イケメンだ。

 まず「面倒くさい」発言を最初にかましたやつ。

 大きなアーモンド形で薄浅葱うすあさぎの瞳に無造作に散る灰色の髪。

 イケメン来た。レッツ妄想!おまえは攻めね。

(※攻めとは、恋愛においてリードする側と言いますか、愛を向ける側と言いますか、愛する側的な人のことだよ!対義語は受け。愛される側のことだよ!)

 次に「笹団子」のヒト。

 小麦色の髪はセンター分けされており、細められた目は薄緑。ヒャーー!!攻めでも受けでもイケる系のヒトだ!!わっしょーい!


「じゃあ自己紹介してー」

「飛跡酔華です!」

「敬語外して」

「無理です!飛跡酔華、好きなものは歌と…」

「異能力を聞いてんの!」

「まあまあ、笹団子やめましょう?申し遅れました、私は青野時雨おおのしぐれです。周りからはシグレって呼ばれます、能力名【彼岸過迄ヒガンスギマデ】」

「俺は八汐世羅やしおせら。気軽にセラでいいよー。能力名【地獄変ジゴクヘン】」

「ギン先輩にセラ先輩か…、言い遅れました、能力名【歌姫ウタヒメ】」


 そう。私の異能力の名前は【歌姫】。我ながら良い名前(自分で言うな)。


「噂には4人って聞いたんですが?」

「一人は潜入任務でもう一人は今セラの奴隷になって笹団子買ってきてますよ」

「あと一寸ちょっとでくるんじゃない?」

 思ったよりも緊張感がねぇ。まあいいや。

「干し芋ってあります?」

「ないよ」

「月2で食べないと元気でない」

 ドゴォ!!!

「帰ったよぉ…って女子がいる!!!」

「前説明しましたよね!?」

「聞いてなかった…ってギャアアアア!!!!」

「次こそ殺しますよ?」

 え、怖…目がマジだよ…まあ自己紹介すっか!

「初めまして、私は飛跡酔華です!能力名【歌姫】です」

「後輩だぁーー!!!」

 銀先輩に締められたまま話してる。筋肉凄いんだろうな(他人事)

「俺の名前は日向天ひなたあめ。アメって呼べよ!」

 今気づいたけど、この人もイケメンだね。

 唐紅からくれないの髪を上げて、右だけ銀色のピンで留めてる。瞳は赤橙。

「ところでヨイカー、なんで右目を包帯で巻いてるのー?」


 そう。私はここに生を受けてから、左目が包帯で巻かれている。外そうとしても取れなかった。あくまで仮説だが、これは異能力関連のものだと思う。その異能を自覚しないと取れないとか。

 そして私は、かなり変な顔つきをしている。

 例えば、その白銀の髪。例えば、真っ黒な瞳。真ん中には花火のような光が煌めいている。

 前に述べたように、私は花火が嫌いだ。だけどまあ、これはよいとしよう。

 だが、前世と風貌が違うのだ。自分で言うのもアレだが、思ったよりかわいい。


「分かんないんですよ、物心ついた時からこれが巻かれてて、とれないんです」

「へぇ…、それってコレかなぁ?」

 見せられたパソコン(パソコンってこの世界にあったんだ)に映っていたのはとある異能についての記事。


「能力名【道化の華】」


「道化の、華?」

「そう。携帯電話の声にしか従わないらしいよ。そして、その能力者は、その携帯電話の音声に従って行動する。本人の意思は関係なく」

「それって…!」

「そう。使い方によれば殺人鬼にも、もちろん善人にもできる諸刃の剣」

「ですから私たちはこの異能力者を探し続けていたんですよ」

「まさか手前とは思いもしなかったぜ?」



「はい!じゃあ電話を構えてー?」

 電話を構える?

「では行きましょう!」

 最初に電話で指示する役を務めてくれるのはアメ先輩。

「正義は高き主を動かし、神威は、最上智は、最初愛は、我を作る。我が前に物なしただ無窮あり我は無窮に忍ぶものなり。」

 ズ、ズズズ…

 頬に赤い文様が浮かぶ。先輩曰く「薔薇の模様」。

 触ってもいないのに、あんなに引っ張っても取れなかった包帯が緩み始める。

 ブワリ。

 包帯が勢いよくほどけて飛び散る。笹団子やらゴミやらでグシャグシャの床に、新たに包帯の白が浮かぶ。

「異能力 【道化の華】」

「わあお…」

「すごいですねぇ…」

「うおっ、すっげぇ!」

 上から順にセラ先輩、シグレ先輩、アメ先輩。

「命令を、どうぞ…」

「じゃあ、そこら辺片付けてー」

「了解です」


 そこからの記憶はない。

 だから、多分その命令を達成しない限りその記憶はないのだろう。

 次気づいたとき、床はピッカピカで、机も揃えてあって、椅子も散らばってなくて、笹団子も落ちていなかった。依然として干し芋はなかったのだが。


 ☆今日の出来事

 ・ヰ2045隊に入隊(変人ばかり)。

 ・異能力【道化の華】発動成功。

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花火の結末 ねね @bungo-straydog

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