第34話 老夫婦の依頼

僕はギルドで貰った紙を頼りに依頼主の所へ行ってみた。

町の郊外、一軒家で広い庭がある。

庭には爽やかな香りがしてハーブが植えられているのだろうか?

その他に畑が幾つか見える。


「ああ、いらっしゃい。冒険者の方かな?」


庭仕事をしている初老の男性が声をかけてきた。

小さな畑を作っているようで、収穫していたらしい。

麦わら帽子を被っていた。

ヘルムさんというらしい。


「趣味で色々作ってるんだよ。庭が広くて手が足りなくてね、時々手伝ってもらっているんだ。ところで、そちらのキレイなお嬢さんは?」


すっかり忘れてた。

いつも一緒に居るから気にしていなかったよ。

さて、何と答えようか…。


『わたしはコルネットと言います。邪魔はしませんので見学させてもらえませんか?』


訊かれると思って返答を考えていたのだろうか?

と、思ったが彼女の本音のようだった。


『薬草が沢山植えられていて興味深いです!』


「ああ、もちろん良いよ。てっきり恋人を連れてきたのかと思ったのだが…」


「あははは…」


すみません、その通りです。

仕事場に恋人を連れてくる人なんていないですよね?





「少し休んでくださいな」


数時間草刈りをしていると、家の方から奥様が出てきてお茶を用意してくれた。

外にある丸いテーブルにお茶とお菓子が用意される。


「これだけ広いと大変ですよね。毎回冒険者を頼むのもお金がかかりそうだし」


「そうねえ~。息子が家に居てくれたら、手伝ってもらうのだけど」


『息子さんはどこへ?』


「田舎は嫌だからって王都へ行ったきりなのよ。たまには帰ってきてほしいのだけど」


「アイツの事は放っておけ」


ヘルムが不機嫌になった。


「王都でナダルを見かけたら…息子の名前なのだけど青い髪で今年25歳になるの。会ったら家に戻ってくれるように言ってもらえるかしら?」


「王都ですか…人が多いから会えるかどうかは分かりませんよ?」


「冒険者をしておられたら見かけることもあるんじゃないかしら」


「キャシー、無理なお願いをするんじゃない。彼も困っているだろう」




   *




一日で草刈りの仕事が終わった。


「お疲れさまでした。広い庭だったでしょう?」


冒険者ギルドで受付のモーリラさんに依頼完了の紙を渡す。

依頼の報酬を受け取った。

銀貨8枚だ。


「ええ。良く知っているんですか?」


「そりゃ、毎回依頼受けてますからね。他に依頼も無いですしどんなものかと行ってみたこともありますよ」


「息子さん見かけたら声をかけてってお願いされました」


「皆さまに言われるみたいですね。流石に本人に伝わっているんじゃないかしら」





僕はギルドの隅っこに座っていたコルネットに声をかけた。


「コルネットお待たせ。今日は暇だっただろ?」

『そうでもなかったわよ?薬草見ていても楽しかったし、妖精が沢山いて話していたから』


「妖精いたんだ」

『ソウタも目を凝らせば見えたと思うけど…まあいっか』


あの庭は自然豊かだったから妖精も居やすい場所だったのかな?

僕は少し惜しい事をしたと後悔したのだった。

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