進路相談は魔法で解決

森林木 桜樹

1「日常」

国立流石中学校、一年二組。

関口刃せきぐちやいばは、学校から帰ってきた。

今日は、進路の宿題があり、両親と話をする。


家に帰ると、最初にするのは、玄関に備え付けてある洗面所で手を洗う。


家は、玄関を入ると、右側に下駄箱と洗面所がある。

洗面所は、玄関にあるといっても、埃っぽくなく綺麗だ。

この家は、いつも綺麗で、専業主婦の母のさやが保っていてくれる。

父であるつかさは、市役所衛生課で働いている職員だ。


玄関を上がると、右側と左側にそれぞれ一部屋。

正面に居間がある。

居間には、台所と二階へ上がる階段がある。

階段の下は、トイレとなっている。

二階へいくと、左側に二部屋と風呂とトイレがある。

右側は、壁である。


刃の部屋は、二階の一部屋である。

司の部屋も、二階の一部屋だ。

一階にある二部屋ある内の右側にある部屋が、さやの部屋だ。

一階にある左側の部屋は、客間であり、それなりの部屋になっていた。


小学生の頃は、刃の友達がくると、客間で遊んでいた。

客間には、テレビにゲーム機、こたつに変化する机、仏壇がおいてある畳の部屋だ。

仏壇には、四人の写真が丁寧に飾られている。


刃は、居間に行くと、カバンの中から給食で使った箸と、学校に持っていった水筒を台所の水道に置いた。

二階に行くと、自分の部屋に入って、カバンを置いて、制服から私服に着替えた。

制服のまま、お風呂入るまで過ごす友達もいるが、刃は学校と家と分けたくて、家に帰って来たら家の服装へと着替え、気持ちを入れ替えた。

格好は、パーカーにジーンズだ。


部屋は、入る扉を下にすると、左側には押し入れがあり、右側に本棚と机があり、本棚の前には畳まれた布団がある。

制服をかけて置くハンガーは、押し入れの引き戸がスライドさせられる溝にかけてある。


机の奥には、ノートパソコンがあり、電源は付けていないが開きっぱなしだ。

手前に宿題をカバンの中から出して用意して、進路希望用紙も出した。

その時、玄関から声が聞こえた。


刃は、進路希望用紙を持って玄関へと向かうと、買い物から帰ってきたさやがいた。

買い物をしてきた袋は、少し重たそうだ。


「あら、帰っていたの?刃。」

「お帰り、母さん。」

「そっちこそ、お帰り、刃。」


すると、お互いに微笑んで。


「「ただいま。」」


同時だったから、ハモった。

玄関先に置かれた袋を、刃は台所まで運ぶ。

その間に、さやは手を洗うと、中に入った。


台所で、買い物して来たモノを収納をしている間、刃はさやに進路希望用紙の話した。


「進路ね。刃は、何になりたいの?」

「俺は、掃除とか清掃とかする人になりたい。」

「それは、私達の影響?」

「それもあるけれど、綺麗になっていく過程は、とても気持ちいい。」

「そうね。司さんみたいに市役所に勤めるなら、高校までは出ないといけないし、私みたいに専業主婦になりたいなら、相手を見つけないと。そうではなくても、病院とか、ホテルとか、そういう所には清掃員は必要ね。」


さやからの言葉は、とても参考なる。


「屋敷とかだと、メイドとかあるけど……、ぷっ!」


メイドと訊いて、さやは少し笑った。


「あ!俺のメイド服姿、想像したな。」

「ごめんね。つい。」

「まあ、俺は顔、女顔だから似合う、似合わないという選択肢だったら、似合うだろうけど……、でも、男だし、プライドある。」

「そうね。そうよね。似合いそうだから、吹いたのよ。そうね……足首まであるスカートよりも、膝位のスカートが似合いそうね。ミニは似合いそうじゃないわ。」

「なるほど……って、なんで、俺がメイド服を着る話になっているんだよ。」

「そういう話じゃないの?」

「違う。」


収納が終わり、さやは刃に温かい緑茶を淹れると、一緒に話し始めた。


「まあ、清掃とっても、色々あるわ。でも、どのみち勉強は必要で、高校もそれなりの所を出て置いてもいいわ。全部に言える事は、病院でも専業主婦でもメイドでも、会話の幅は広くね。数多くの専門が違う人と会話をするには、やっぱり一般知識は必要になるからね。」

「そうだね。母さんは、勉強、どうしていたの?」

「中学の時って事だよね。覚えていないらしいのよ。ほら、前に話をしたと思うけれど、高校一年生の時に記憶喪失になられていてね。生まれてから中学三年生までの記憶がはっきりとしなくて、記憶にないのよ。周りからフォローされて、記憶したって感じかしら。」


そうだ。

母、さやは、一度、記憶喪失になっている。





生活するに必要な事は出来るけれど、両親や友達の関係、自分が何者なのかは記憶にない。

名前すらも覚えていなく、発見された時には、公園のベンチで寝ていた。


発見してくれたのは、朝刊を配っていた男性である。

公園の前を自転車で通りかかった時に、ベンチで寝ている県立流石高校の制服を着た女性が寝ているのを発見して、自転車を下りて、声をかけた。

声をかけると、目を一度開ける。


「大丈夫か?あんた、名前は?」

「名前?なんだろう?」


その一言を発すると、もう一度、目を瞑ってしまった。

男性は、その場で仕事場の新聞社に電話をかけて、どうしたらいいのかを問うと、まずは救急車となり、新聞社の人が変わりにかけてくれた。

その間、男性は、さやの傍にいて、声を掛け続けていた。


救急車が到着すると、事の起こりを話して、一緒に付いて行く。

事の起こりを話しをしている間に、新聞社の人が来て、仕事がどこまで出来ているのかを確認すると、その人が代わりにするといって、女性についていてやれと言われたからだ。


救急車で病院まで行き、さやの家族が来るまでの間、傍にいた。

さやの家族が来た。


さやは、この病院にこの一ヶ月に何度か通っていたから、さやの顔を見た医者や看護師は誰か分かった。

通っていた理由は、足の骨折である。


着地に失敗して足を怪我した時、公園のベンチに座っている所へ、買い物に出ていたさやの母が見つけて、声をかけた。

流石母親、怪我を隠そうとした娘に話をして、すぐに病院へと行く。

病院で検査をすると、骨折しているとなった。

この一ヶ月は、ギブスをして固定し、松葉杖生活となっていた。

松葉杖が必要ではなくなり、ギブスもなくして、ようやく歩けて、今でも検査で通っていた。


家族が駆け付けると、看護師から一緒にいる男性の説明をされる。

丁寧に頭を下げて、お礼を言った。


「娘を発見してくれてありがとう。」

「いいえ。夏が終わって秋になり、まだ暑いとはいえ、公園のベンチで早朝に寝ていれば風邪を曳きますし、何か事件に巻き込まれては困ると思って。」

「そうね。この頃、進路について悩んでいて、有名なレベル高い高校に行ける位の知識はあるのだけれど、就職をしたいと言い出して、口論になっていたんですよ。」

「そんなに頭いいんですね。俺とは大違いだ。」


男性は、自分の境遇はなるべく話をしなかったが、何故か、この両親には話をしていた。


男性は、自分を産んで直ぐに母を亡くしており、父と一緒に生活をしてきた。

産まれてからの生活は、父一人では辛い為、父と母の両親が来ていて、五人で男性を育ててくれた。

だが、男性にとっての祖父と祖母は、やはり、老いていて男性が中学一年になる時には、四人は亡くなっていた。


父は朝早くに出かけ、夜遅くに帰ってくる姿が、ボロボロになりながらも闘う勇者みたいで、とてもかっこよく、就職を希望していて、高校生の自分でも出来る仕事として、新聞社で朝刊配りと夕刊配りをしていた。

高校受験は、ギリギリで合格出来た。


高校は、県立尊徳高校であり、二宮金次郎の精神を大切にしている。

学校は部活がなく、午後二時までであり、それ以外の時間はアルバイトを推奨している。

だから、父子家庭である男性にとっては、とてもいい環境であったし、納得いっていて、過ごしやすかった。


父の仕事は、ブラック企業だと想像しがちだが、仕事人間気質であるから、望んで仕事をしている。

仕事が趣味であり、趣味をしているだけでお金が入る。

仕事の量が多いが、それと比例して給料も高く、生活していくには十分であった。

それに、土曜日と日曜日は休みであるから、息子との会話もその二日間で出来ていた。


その事を話すと、さやの両親は少し考えていた。


さやが目を覚ましたのを、看護師から訊くと、三人でさやの元へと行く。

さやを見ると、さやはゆっくりと身体を起こして、両親ではなく、先程見た男性を見て、いきなり抱きしめた。


「私、この人と一緒に居たい。」


その一言で、男性の人生が決まってしまった。

さやの両親は、男性の事も訊いていたし、身なりや判断も良いのが手伝い、受け入れた。


それから、男性はさやの見舞いを毎日すると、さやは順番に記憶を取り戻しつつあり、ようやく両親の事を思い出したみたいだった。

ただ、その記憶は自分自身が持っている記憶というよりも、誰かの物語を見て記憶した記憶という感じがした。


男性の父は、土曜日の午前中に息子が助けたさやの見舞いを一緒に来ていた。

その時には、さやの両親もいて、一緒に会話をしていると、結婚の話になり、高校を卒業したら籍を入れる話になった。


さやの両親は、二人とも市役所勤めであり、男性に市役所への勤務を進めた。

男性はそれを目標に勉強をして、試験を受けて、合格した。

男性の名は、関口司。

刃の父親である。


記憶喪失の間、さやは自分なりに思い出そうと必死になっていた。

全部ではないが思い出せるには、一年かかった。

親友やクラスメイトの協力もあり、学校生活も支障がなく過ごせていた。


こんな身体だから、進学を言えなく、司の生活を支える専業主婦になった。





「それにしても、そんなに頭いいんだから、今からでも大学目指せば?」

「嫌よ。きっと、私は、司さんの傍にいるのが一番なんだから。」

「確かに、家族の傍が一番だと思うんだけど……、よく、母さん、自分の事なのに他人事のように話すね。」

「そう?」

「そう。」


すると、司が定時で帰って来て、手洗いを済ませると、居間へと行く。


「お帰り、司さん。」

「お帰り、父さん。」


さやと刃は、同時に司を見ると、声をかけた。

ハモった言葉に、司はとても嬉しくなり、微笑んで。


「ただいま。」

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