第2話 日本探索者協会副会長を呼びつける
九州の北側。本土と離れてしばらく海を渡ると、南北20km、東西18kmの小さな島がある。通称鬼ヶ島。何故そう呼ばれるのか?。そう原初のダンジョンが出現した時からだ。
島民は1000人程、漁師や観光業が主な収入源だ。その島の中央に原初のダンジョンがあり、その周囲1kmは、大門家以外立ち入り禁止区域になっている。
特別高濃度の魔素が最深部の奈落から噴き出しているため、ダンジョン入り口も危険なのだ。島民はその危険性を十分理解しているので1キロ圏内どころか見える範囲に絶対近づかない。そのダンジョン正面1キロの所にまるで戦国時代さながらの城を彷彿とさせる大豪邸がある。いわずと知れた大門家だ。
「八代目おかえりなさい。」
「今日も暑いねー龍さんご苦労さん。」
門番
単体の大物ならば、どうと言う事も無く倒す守り神人も、さすがに何百もの小物や中型の魔物の群れが噴出したら、さすがに打ち漏らし、ダンジョンから這い出て来ることになる。最低限、災害級は守り神人が仕留めて、残りを大門家に在中する手練れで対処するのだ。
その小物ですら現存のダンジョンに生息する魔物のハイクラスやエリートと言った強敵なのだ。
喜八郎が屋敷に入ると、世話係の
「ぼっちゃんお食事の準備が整っております。」
「麻耶ネェ。いいかげんぼっちゃんはやめてくれって言っただろう。オラもう十八だぞ。」
年は30になったばかりだろうか、色っぽくすらりとした着物美女がからかうように微笑みながら奥に戻っていく。
席に着いた喜八郎にご飯をよそいながら声を掛ける麻耶。
「今日も大物を仕留めたんでしょうね、凄い地響きがしていました。」
「あぁそうだったんだ!。牛鬼仕留めた。買取のじっちゃんにも連絡しないとだな!」
まるでイノシシでも仕留めたように、扱われる牛鬼。なむー・・・である。
さっそくどこかに電話を掛ける喜八郎。
「あぁ佐々木のじっちゃんかー?牛鬼買い取らねーか?」
『牛鬼か、わしも見たことないからすぐそっちに行くぞい。』
~~~~~~・~~~~~~~~・
___日本探索者協会本部
「早乙女ちょっくら出かけてくるから、留守を頼む」
「副会長今度はどちらへ?」
「大門の所じゃ、未確認の伝説の牛鬼を仕留めたらしい。これは日本探索者協会としても確認が必要じゃろ?」
「うぅ・・未確認の伝説の牛鬼・・私も見たい・・・」
「仕方ない、お前も来るけ?」
「未確認の伝説級の魔物の確認とななれば大事な仕事ですから!」
やはりこういう仕事についている以上、未確認の魔物やダンジョンには興味深々な者たちが集まっているのだろう。鼻息はすでに荒く目はハートマークですぐに準備をする早乙女早苗、 日本探索者協会副会長秘書を務める。 シュッと纏めたポニーテールとアカブチ眼鏡が似合う可憐で仕事はできるが未確認という言葉に弱い女性だ。
緊急事態に備えすぐにどこでも飛べるように飛行場には協会専用のチャーター機がある。すぐに連絡をとり最速で飛べるよう段取りをつけ飛行場に向かう早乙女。
さながらレーサーの様にかっ飛ばしていく早乙女。
「おいおい、そんなに慌てんでも逃げはせんぞ。」
「善は急げデス。副会長。」
「未確認と聞くとこれだから困るのぅ・・・」
日本探索者協会の副会長、佐々木虎之介、探索者現役時代は九州の虎と呼ばれた御年75歳。まだまだ若いもんには負けんと、現役探索者からも恐れられる重鎮である。
その重鎮を友達感覚で呼ぶ喜八郎っていったい・・・
~~~~~~・~~~~~~~~・
__三時間後
「喜八郎おるかのぅー?」
「おぅ佐々木のじっちゃん、早かったなー。」
「大五郎は、おらんのか?」
「大五郎じっちゃんは、もうこの時間は酒かっ食らって寝てるよ。」
日本探索協会副会長、佐々木虎之介、またの名を九州の虎。その者をじっちゃん呼ばわりできる者など日本中探しても喜八郎くらいであろう。
「フェンリル様もおかわりなく。」
佐々木副会長の呼びかけに顔だけ向けて小さく頷くフェン丸。
佐々木副会長は、その昔、五代目守り神人の大五郎と共に原初のダンジョンに入った事がある。その時にフェン丸の真の姿を見てその神々しき存在感に正直戦慄したと言う。あれほどの存在を感じた事は生涯ないと後に語っている。
天界、魔界でも敵なしで数多の神々をも食い殺してきたと言われる神獣フェンリルである。ひとたび人類の敵となれば、その脅威や計り知れない。
「それで喜八郎、例の牛鬼はどこじゃ?」
「今はフェン丸のお腹の中。ちょっとでかいから表の広い所行こうか。フェン丸頼む。」
ゆっくりと起き上がり外に出ていくフェン丸に連なり一行が外に出ていく。
「ここでいいかな?中庭でだすと麻耶ネェに怒られるからな。フェン丸、ポーンと出してくれ。」
フェン丸がクワっと口を開けると、どういう仕組みなのか物理法則をまったく無視した大きさの牛鬼の遺体がドーンという地響きと共に広場に現れた。神獣だから仕方ない。
「こ・・これが伝説の牛鬼・・・・」
体長約30m。重さ数十トンはあろうかと言う巨大な魔物が、頭から背中にかけて叩き割られたように押しつぶされた姿が、そこにはあった。
早乙女に至っては開いた口が塞がらないとはこの事であろう状態である。美人な人のこういう姿は何か来るものがある。
「しかし、どうやったらこれがあのように押しつぶされた感じになるんじゃ?」
「あーそれか。 ガンとやって、うーんバチコーンでドーンだ。」
全然分からん・・・皆の頭に?が浮かんでいるのが見て取れる。しかしそれはいつもの事なので、突っ込むこともなく佐々木副会長がその牛鬼の足に注目する。
牛鬼の巨大な足に近づき、いつになく真剣な様子で視て、なでながら言った。
「この足の金属製の輝き、何やらお宝の感じがするな。早乙女鑑定頼む。」
早乙女さんがアタッシュケースより何やら計測器の様なものを取り出しその足先に押し当てるようにして何かを計測し始めた。
「こ・・・これは・・・極めて高純度の鋼です。いわゆる
「この足七本が巨大な玉鋼の塊と言う事なのか・・・その価値は幾らになるんじゃ・・」
「玉鋼はキロ3万が相場ですけど。この角はピピピピ。オリハルコンですよ。それにこれの魔核は計り知れないでしょうし…」
それを聞いた佐々木副会長が悪い笑みを含みながら、喜八郎に指1本立てて眼前に押し出す。
「喜八郎、牛鬼まるごと1億でどうじゃ?」
「副会長、それは足一ぽんの・・・ゴニョゴニョ」
顔は笑いながらも凄まじい腕力で口を封じられる早乙女さん。
「じっちゃんそれでいいぞ。どうせ邪魔なだけだし。」
牛鬼の残りの足の資源価値だけでも10億はくだらないであろう物を1億で買い取る佐々木副会長も凄いが、結果お互いwinなので問題ないのである。
魔物の素材は、お金になるのだ。それも原初のダンジョンのボス級はお宝の山だ。
そうやって代々秘密裏に取引される大門家のお宝と探索者協会のおかげで今や大門家の資産は国家予算を超えるほどなのだ。
『人間、我は肉がいい。A-5のな。』
フェン丸が突然喋った事に小さくヒィと声を上げそうになった早乙女さんを置いて満面の笑みで佐々木副会長は、返事を返していた。
「かしこまりましたフェンリル様。牛一頭分贈らせて頂きます。」
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