23 田中信行は褒められて増長していた!!!!
Xのフォロワーが義理で読んでくれて、義理で星をつけてくれて。でも本文ありのレビューなんてつかなくて、せいぜい星6つとかそれくらいが限界で。
たまにご新規さんがブックマークしていくけれど、結局読んでくれるわけじゃなくて。
Xでフォロワーが「ファンアートをいただきました!」と嬉しそうにしているのをうらやましく眺めて。
こんなんじゃ書籍化なんてぜったいに無理で……。
それでも、田中信行がエナドリを飲みながら書き続けたのは、楽しかったからだ。
それだけは、間違いない。
本当に、それだけは、間違いないことなのだ。
◇◇◇◇
子供の病気は快方に向かっているようだった。わたしは、せがまれるままに物語を書き続けた。子供は、新しい物語が出来上がるたびに喜んでいるようだった。
Web作家田中信行には分からないことだったが、文章を書けるというのは特殊な才能らしい。Xで周りにいる人たちがみんな当たり前にやっていることだったから、特殊な才能だと思ったことがなかったのだ。
この世界においては、「詩人」と呼ばれる職業のひとが物語を作っており、どうやらアストリッド・アガットが田中信行の才能で書いた物語は詩人たちも驚くような出来映えであるらしかった。
ただ、オラーツィオ・アウルムの子供を励ますために書いた物語なので、内容はだいたいほとんどでっち上げのオラーツィオ・アウルムの武勇伝だ。アガット国では好まれないだろう。
ある日、祐筆が困った顔をして現れた。どうしたのですか、と声をかけると、祐筆は下がり眉になっている顔のまま話し始めた。
「子供が、オラーツィオ・アウルムに手紙を出したいと。ただまだ字もろくに書けない年ごろですし、私が書くほかなさそうなのですが」
「いいではないですか。書けばいいのです」
「しかし、アスト姫様がオラーツィオ・アウルムの物語をつくって子供に聞かせた話など、書いていいのでしょうか?」
「構いません。これをきっかけに和平が進むやもしれません」
「……かしこまりました。そういたします」
祐筆は離れに向かった。
じいやの持ってきた内政の仕事を進め、ふと顔を上げる。
「どうされました、アスト姫様」
「わたしの書いた物語を、メディアミックス……つまり芝居や絵物語にして、アウルム王国の人たちに見せたら、儲かりそうですね」
「なんという恐ろしいことをおっしゃるのです。アウルム王国は敵ですぞ!」
「大事な国民を人質として送り出した相手を、敵呼ばわりするのはどうかと思いますよ。少なくともかりそめの和平を結んでいるのですから」
「しかし……」
「完全な形の和平を結んで、国民に平安をもたらすのが、わたしの務めのような気すらしますが」
「そんな無謀な……オラーツィオ・アウルムのタチの悪さはご存知でしょう」
「いろいろなものを恐れる、ふつうの男に見えましたが」
「アスト姫様、アウルム王国はここをアカーテース属州なる変な名前で呼びます。しかしここはアガット国です。アガット国の誇りをなくしてはなりませぬ」
わたしは少し考える。
「誇り、というのは、命、より大事なのですか? 誇りを守り通すには命が必要なのでは?」
「アスト姫様、なぜそのように無茶なことを仰せられる」
「死んでしまったら誇りはなんの意味も持たない、違いますか?」
「まあ……それも一理あるとは存じますが」
「わたしは一度死にました、死ぬことは痛く苦しく辛いことです。国民に、戦争という上にいる人間が原因のことで、そういう思いをさせたくないのです」
「フム……」
じいやも考えてくれている。
できることなら戦争などしたくない。国民につらい思いはさせたくない。
それはじいやも同じであるはずだ。
そういう話をしていると、祐筆がドアをノックしたので、「開いていますよ」と声をかけた。
「あの。オラーツィオ・アウルムに送る手紙を書いたのですが、なんせ子供の言うことを書き起こしたので、確認してほしいのです」
「どれどれ」
手紙を見せてもらう。
ざっくり言うと、アカーテース属州のアストリッドというお姫様が、父上の物語を作って聞かせてくれて、母親から聞いたとおりの武勇伝だった。面白いから父上にも聞かせたい。
アカーテース人の女の尻は横に割れてはいなかった。
納豆がおいしい。
……とまあ、そういう、子供らしく脈絡のない内容であった。
「いいではありませんか」
「本当にこんな手紙を送ってよいのですか?」
「構いません。なんなら物語もいっしょに送りなさい」
アストリッド・アガット、いや田中信行は褒められて増長していた!!!!
というわけで物語もいっしょに送ってしまうことになったのであった。
◇◇◇◇
手紙は早馬の使者が持って行ったので、届くまでそう長い時間はかからないだろう。
ワクワクしながらどうなるか待つ。
「オラーツィオ・アウルムは脱走して市外に出た、なんならアウルム王国に帰ったと思ったほうがよいのでしょうね」
そこは失策だったな、とわたしは思う。オラーツィオ・アウルムが牢にいれば、アウルム王国ともっとうまい取引ができたかもしれないからだ。
半月ほど経って手紙の返事がきた。いそいそと封を切ろうと思ったが、まずは子供、オラーツィオ・アウルムの私生児に読ましてやるべきだと判断する。
「お手紙ですよ」
すっかり元気になった子供に、手紙を渡す。
「父上の紋所だ!」
そんな、葵の御紋とか菊の御紋とかじゃないんだから。子供は乱暴な手付きで手紙を開け、中身を取り出して読み始めた。
「わかんね」
読めなかったらしい。
家庭教師が教えてやり、わたしも聞けるように読み上げた。
ざっと説明すると、物語が面白かったからぜひ作者に会いたい、王都ドムスで演劇として上演したい。お前が元気そうでよかった、アガット人の尻も縦に割れているのか……という感じだった。
「どうやら姫様がお書きになったとは思っておらなんだようですな」
じいやが長いヒゲの先をくるくるする。
「じゃあ、正式に会談する日を設定しましょうか」
「オラーツィオ・アウルムにお会いになるので!? おやめくだされ姫様、それはなりませんぞ」
「なぜです? オラーツィオ・アウルムは物語の作者に会いたい、と言っているのですよ?」
「その辺の詩人が書いたことにしておけばよいではないですか、幸いオラーツィオ・アウルムは姫様が書いたとは思っていないのですから」
「わたしが書いた物語を評価されているのですよ。わたしは、わたしの書いた物語を喜んで読んでくれた人に、会ってみたい!!」
わたしが、というか田中信行がそう押し切ったので、じいやはしょうがないなあという顔をした。どうやら会談の日取りを考えてくれるらしい。
ただしその前にマリューに相談しよう、となった。確かに警護体制などを話し合わねばならないだろう。というわけで、屋敷にマリューが呼ばれた。
マリューはいささか機嫌がよくない。どうやら預言の賜物を乱用されるのを迷惑に感じているらしかった。
「とりあえず死を告げる未来は見えないね」
そうか、それならいいのだ。
「でも無茶をしちゃいけないよ。運命は行動で変わるんだ。この行動で、なにかが大きく変わる予感がする」
なにかが動くのだ。
ドキドキする。
◇◇◇◇
オラーツィオ・アウルムはアガット国にやってくるらしい。「あんなクソ田舎だれが行くか」くらいのことなら余裕で言うと思っていたので意外だった。
豪華な馬車の行列が街道を進んでいるらしい。鉄馬車も数台連なっているそうだ。
鉄馬車となると明らかに武力行使の気配すらする。
ここまで勢いで決めたが大丈夫なんだろうか。
会談場所はカメオス近郊の丘の上だ。鉄砲と剣で武装した衛士に囲まれ、オラーツィオ・アウルムを待った。
じかに相まみえるのはこれで二度目。
やがて丘の向こうから、ざっざっと土を踏み草をつま先でよける音がした。
「――よう、アストリッド・アガット」
オラーツィオ・アウルムは、尊大な態度でそういうと、傲慢そうな笑顔を浮かべた。なにで歯磨きしているのか歯は真っ白で、嫌味ったらしい美貌をさらに嫌味ったらしくしている。
「ごきげんよう、オラーツィオ・アウルム」
「本当にお前が、あの物語を書いたのか?」
「だとしたらなにか不都合が?」
オラーツィオ・アウルムは、急に子供のような表情になった。
「俺は、あの物語の続きが気になる」
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