第2話 落花生の嵐

翌朝、渡辺真一が目を覚ますと、前夜の出来事がまるで夢だったかのように感じられた。しかし、カーテンを開けて外を見た瞬間、夢ではなかったことがはっきりと分かった。外は一面の落花生で埋め尽くされ、まるで地面が変わってしまったかのように見えたのだ。


「これが、あの噂の正体か…」


渡辺は、改めて昨夜の出来事を思い返しながら、じっとその光景を見つめた。落花町では、この奇妙な現象が「落花生のスコール」と呼ばれており、毎年、決まった時期に発生するのだという。地元の人々にとっては、もはや日常の一部であり、驚くべきことではないようだった。


朝の街は、静かで平穏だった。だが、そんな静けさの中、町の人々が少しずつ動き出しているのが見えた。みんな黙々と掃除道具を手に取り、降り積もった落花生を片付け始めていた。町中の人々が一斉に動き出す光景は、まるで慣れ切った日常の作業のようだった。


渡辺も、近くの家の人に声をかけてみた。


「毎年こんなことが起きるんですか?」


「ああ、もう何十年も続いてるんだよ。この時期になると、必ず降ってくる。初めて見る人は驚くだろうけど、私たちにとってはいつものことさ。これが終わると、一斉に掃除をして処分するんだ」


その話を聞いた渡辺は、思わず眉をひそめた。「せっかくの落花生を全部捨てるなんて、もったいないな」と、心の中で呟いた。膨大な量の落花生が、ただ捨てられてしまうことに、彼は強い違和感を覚えたのだ。


その夜、渡辺は一人で家に戻り、深く考え込んだ。何かこの落花生を有効活用する方法はないか。降ってくる落花生が無駄にならないように、何かできることがあるはずだ、と考え始めたのだ。


そこで思いついたのが、落花生を使った特産品を作ることだった。町で聞いた話によれば、この落花生は非常に良質で、食用に適しているという。もし、この落花生を加工して商品化できれば、町にとっても大きな利益を生み出せるかもしれない。


その考えが渡辺の頭から離れなくなり、彼はその晩、寝ることもできずにアイデアを練り続けた。そして、ついに一つの決断を下した。


「落花生を使ってジャムを作ろう。それを町の名物にして、落花町をもっと魅力的な場所にしよう」


その決意が固まった瞬間、渡辺の心には新たな希望が芽生えた。これまで何かに挑戦することを避けてきた彼だったが、この町で新たな可能性を見つけることができたのだ。そして、その挑戦が自分を変える第一歩になると、彼は確信していた。


翌朝、渡辺はさっそく行動に移すことにした。地元の商店や農家を訪ね、落花生を使った商品のアイデアを話し、協力を仰ぐことにした。しかし、最初は誰も彼の話を真剣に受け止めてくれなかった。


「落花生をジャムにするなんて、聞いたことがないよ。そんなのうまくいくわけがない」


「こんなに大量の落花生をどうやって処理するんだ?」


反応は冷淡で、誰もが疑念を抱いていた。だが、渡辺は諦めなかった。何度も何度も町の人々に話をし、少しずつ彼の熱意が伝わり始めた。そして、ついに数人の協力者が現れた。


彼らの助けを得て、渡辺は自宅の一部を小さな工場に改装し、落花生ジャムの試作を始めた。試行錯誤を重ね、何度も失敗しながらも、ついに彼は満足のいく味を生み出すことができた。


「これだ…これなら、いける!」


渡辺は、出来上がったジャムを手に取り、胸を高鳴らせた。次の課題は、このジャムをどうやって広めていくかだが、彼の挑戦はまだ始まったばかりだった。

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