「お前の婚約者って地味だよな」
藍銅 紅(らんどう こう)
第一話(ラシェル・1 → デュセイ・1)
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視点が変わりながら進むお話です。
第一話は ラシェル視点その1 → デュセイ視点その1
第二話が ラシェル視点その2
第三話が デュセイ視点その2
……という感じで、視点変更します。
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■ ラシェル・1 (始まり) ■
これは、わたし、ラシェル・クライエルン伯爵令嬢が、婚約者だったデュセイ・カルヴェス男爵令息から「地味だ」「そばに居られるとみっともない」と蔑まれたのちに、彼と決別する物語。
そして、愛する夫と幸せになる物語。
■ デュセイ・1 ■
「なあ、デュセイ。お前の婚約者って地味だよな」
「え……?」
クロードの言葉にきょとんとしていたら、別の友人が笑いだした。
「ああ、知ってる。見たことある。なんつーか、誰かの引き立て役にもならない地味な子だろ? いつも俯いてて、前髪で目も隠れててさ。演劇とか小説でいうならさ、ヒロインでも悪役令嬢でも、その令嬢の取り巻きでもなくてさ、台本に名前すらない通行人その1とか同級生の女生徒その3とかさ。そんな感じで、集団に埋没する顔だよなーって」
「ひどいなジョージ。そこまでは言ってない」
「じゃ、あれかクロード。デュセイの婚約者は地味だけど、クロードの婚約者は美人だって自慢したいのか?」
「ジョージの婚約者だって、すっげえ可愛いじゃん。お前こそ自慢したいんだろっ!」
「まあねー」
「うざっ!」
図書室で一緒に勉強をしている時の、息抜き程度の軽いやり取り。
既に、話題も俺の婚約者からジョージやクロードの婚約者の話に変わっている。
だけど、俺の頭の中ではクロードの「地味」発言が、何度も繰り返されていた。
親に決められた婚約者であるラシェル・クライエルン伯爵令嬢は、確かに地味である。
どこにでもいるような栗色の髪。不細工ではないが、決して華美な美人ではない。全体的に、大人しめ。目立つところなど皆無だ。
伯爵家と言えば、侯爵家に近いほどの豊かな家もあれば、見栄ばかり張って、実は家計は火の車という家もある。
ラシェルのクライエルン伯爵家は、どちらでもなく実に平均値。貧しくもなく、裕福でもない。
顔も、家も、ごく普通。
特に何の特長もない。平々凡々。可もなく不可もない。
今までは、そんなラシェルに不満など持ったことはなかった。
だけど……。
もやもやとした気持ちを抱えているうちに、図書館の利用時間が過ぎてしまった。広げていたノートや本をカバンに仕舞い、クロードたちと一緒に図書室を出る。
そして、学園の寄宿舎に帰ろうとして……その途中、廊下で偶然ばったりラシェルに出会ってしまった。
「あら? デュセイ様も今お帰りですか?」
ラシェルは数人の女子生徒と一緒に居た。きっとラシェルも女子宿舎へと帰るのだろう。
「……ラシェル」
「偶然お会いできて嬉しいです。えっと、図書室でお勉強されていたのですか?」
「…………ああ」
さっきの会話を思い出したのか、クロードとジョージがラシェルを見てニヤニヤと嗤った。
途端にものすごく恥ずかしくなった。
ラシェルは地味だ。そんな地味な女が俺の婚約者。……クロードの婚約者は目立つ美人なのに。ジョージの婚約者は可愛いのに。
「あの……、よろしければ寄宿舎まで……、ご一緒しても、よろしいですか?」
学園から寄宿舎までの短い道のり。一緒に帰りたいと、恥ずかしそうに小声で言うラシェル。
「……ああ、ごめん。友人たちと一緒に居るから。君も、君の友達と一緒に帰るがいいよ」
「そう……ですか。……そうですね。失礼しました」
ラシェルは残念そうに俯いた。そうすると、前髪で目が隠れて見えなくなる。……本当に、地味な女だ。そう、思う。
「一緒に帰るくらいいいじゃんデュセイ。可愛い婚約者の可愛いお願いだろ? それくらい叶えてやれよ」
クロードの揶揄うような声。さっきは地味だと言っていたくせに。可愛い? そんなこと、欠片も思っていないくせに。
ムカムカした。
そのまま、ラシェルにもクロードにも背を向けて、俺は早足でその場から去った。
「あーりゃ、デュセイの奴、きっと照れてんだよ。揶揄ってごめんね!」
「い、いえ……。こちらこそ、すみません……」
背後から聞こえてくるクロードとラシェルの声。
一歩一歩遠ざかるごとに、何故だかラシェルに対する不快感が増していった。
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