1ー11 平和の在処

「おいおいどうしたんだよお前、優人〜」


「いや別に?ただ、ちょっと残念だな〜って」


「何が」


「すぐ言い争うこと」


 言い争いは嫌いだ。

 僕の過去とは関係なく、それを見ていると虫唾が走る。


 まあ、それを止めずに傍観者に徹する僕もはたから見れば同罪なんだろうけどさ。




 無益だ。

 何も生み出せない。

 強いて言うならば、憎しみを生むだろうか。




 ただ、僕だって普段ならこんなことにイライラしなかっただろう。

 普段からじゃれ合いとも取れなくないこのやり取りに怒りを覚えるほど冗談のきかない人間になった覚えはない。

 今の時期の高校生のふざけ合いくらいならば、青春のひとかけらとして思い出に残せるはずだ。


 だが、今の僕らはただの高校生ではない。


 僕らは、力を持ちすぎた。

 はっきり言って、スキルは高校生が持って良いものじゃない。



 散々スキルへの憧れのようなものを語っておいて、これを言うのもどうかとは思うが、それでもスキルは僕らには大きすぎるモノだった。

 分不相応にも程がある。



 召喚した勇者の中に殺人を経験したことがある奴はいくらいる?

 いるわけがない。


 人を、国を、世界を守り、救う覚悟がある奴が一体何人いる?

 1人いれば御の字だろう。


 僕にだってそんな覚悟はない。




『世界を救う』



 輝かしい歴史の裏には、表の歴史の放つ光を全て飲み込める闇がある。

 光と闇は常に比例して存在している。


 当然、『世界を救った』と言う輝かしい経歴の裏にも闇はある。


 一体どれだけの犠牲を払った?

 一体どれだけの時間を費やした?

 何を失った?

 心か?

 物か?

 それとも命か?


 そして、英雄は守護と称して一体どれだけのモノを他者から奪った?



 巫山戯るふざけるのも大概にしろよ。


 


 例えそれによって僕が世界から嫌われようと。

 例えこの世界から居場所を無くしたとしても。


 僕は僕の道を行く。



 僕の居場所なんて元の世界に一つあればそれで十分だ。



「まァ〜た辛気臭い顔してやがる。もうすんなって言ったろ?今のオマエ、入学式の時みたいだぞ?」


 僕の肩をぽんぽん叩きながら蓮斗が苦笑を浮かべる。

 流石に初対面の時ほどと言うのは冗談だと思うが、辛気臭いのは間違いなかったと思う。


「悩むのも結構だけどよ、今は考えてもしょうがねぇだろ?俺もオマエも含めてみんな初めてなんだよ、こういうのは。気が立って当然だ」


 それはそうだと思うが。


「どうにもならなくなったら俺が間に入るぞ。だから、なんとかなる。少なくともクラス内にヒビは入れない」


「ごめんな、僕何もできなくて」


「いいって、いいって。俺も優人といるだけでも結構楽しいし」


 そう言うと、蓮斗はいまだに揉めている彼らの方に向かっていった。




「ありがとう」


 改めて感謝を。

 多分聞こえてないと思うけど。




 大きく息を吐き出して、気持ちを整理する。


 まあ、どうにかなるだろう、蓮斗がいれば。

 それに蒼弥もいる。


 クラスメイトも悪い奴はいない。

 西田でさえ良識がある。

 アイツでさえ、やっていいことと悪いことの線引きはしっかり引いている。



 うん、大丈夫だ。


 どうやら僕の方こそ気が立っていたらしい。

 なんで僕はみんなが問題を起こす前提の話をしてるんだ。

 クラスメイトを信頼しなくて誰を信頼する。


 もっと仲間を信じろ。




 やっぱり持つべきものは友達だな。

 多くの友といくらかの親友。

 それだけあれば大抵のことはなんとかなる。


 あの日の死んだような僕を救ったのも、彼らだった。




 ふと、蓮斗が乱入した揉め事の場に視線をやる。

 流石にまだ終わってないようだが、それでも少しは落ち着いたように見える。

 それを見て僅かに微笑を浮かべる。


 安堵の笑みだ。



「梶原くんは参加しないんですか?」


 少し後ろから知った声が聞こえた。


 何に参加?

 そんなこと聞かなくても分かる。


 だって彼女の発言だから。


「綾井……純恋さんか」


 双子のせいで苗字呼びできないのが煩わしい。

 名前呼びにさしたる抵抗はないが、それでも名前呼びはちょっと周りがめんどくさい。

 結果フルネーム呼びにした女子だ。



 学年でトップクラスの美少女。

 運動は苦手なようだが、成績は優良。

 ラノベで見かける完璧美少女ではないが、学校全体で人気の女の子だ。



「何か用?」


 ただ、僕は苦手。

 彼女が悪いわけではないが、口調が冷たいのは許してほしい。


「いえ、梶原くんは文句とかないんですか?皆さん言い争ってますけど」


「あの言い争いに参加しろと?」


「いえ、そうではなくて……」


 つっけんどんな反応を示すとすぐに彼女は押し黙ってしまう。


 ……少し言いすぎたか……?


「……あの争いに加わる気はないけど文句はある。正直今すぐ元の世界に帰りたい」


 元の世界に帰る方法はない、と事前に言われなかければ、こんな国さっさと抜け出して帰り道を探しただろう。


「私も帰りたいです。ですけど、この世界で生きていきたいとも思います」


「なぜ?」


「親のいないところで自由にしたいからです」


「別に……」


 国に縛られてるだろ、と言おうとした時、荒い声が割り込んできた。


「おい梶原ァ!!何姉さんと2人で「私が話しかけたんですよ?」……いやでも……」


 シスコン、綾井遥香。

 生まれながらにして、純粋な姉に寄って集るたかる悪い虫を追い払う役目を見出して、そこに自分の存在意義を生み出した女。

 生まれながらのシスコン。


「いやでもっ……うぅぅううううう〜〜」


 そして最近、自分が姉の恋路を邪魔しているのではないか、と若干の自己嫌悪に陥っている女。




 遥香が起こすこの程度のやり取りは、クラスでは日常茶飯事なので、目を留める者はどこにもいない。

 皆揃ってスルーする。


 姉に絡む男子を見つけて、乱入して、揉めて、自分が悪いと分かると自己嫌悪する。

 そこまでがいつものレールだった。




 ああ、いいな、これ。

 騒がしいけど落ち着くこの時。

 大変だけど充実した日々。



 続くといいなぁ……



 そう、素直に思った。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そろそろ話を進めよう。

この話にはまだまだ怒りが足りてない。


そう、その身を焦がす炎が無いんだ。




さあ矛を持て。

宙に想いを。


ステージはとっくに出来上がってる。



次回『神の弔詩ちょうし、宙の権貴けんき


神に、星に、祈りと願いを。


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