1ー5 悪夢を運ぶ者

まず初めに、スキルについて少し話そう。



 


 スキルを持つのはごく一部の限られた者のみ。

 そして、スキル持ちの最たるものが召喚された勇者である。

 魔物にも持っているものはいるにはいるが魔物の上位に位置する幻獣種の上位種や天獣種や神獣種、聖獣や世界獣くらいなものである。


 その他、多くの人及び魔物はスキルを持っておらず、彼らが使うのは魔法である。

 スキル判定の際、部屋に立った火柱もスキルではなく、魔法である。




 魔法とスキルの違いはいくつかある。

 まず、魔法は魔力さえあれば誰にでも使える。

 というか、魔力を全く持っていない人間などいないのだから、例外こそあれ全員使えるわけである。

 逆に、スキルは持っている者しか行使できない。


 次に出力。

 これは圧倒的にスキルの方が強い。

 同じ魔力を込めても多くの場合、スキルの方が打ち勝つ。

 まあ、最上位魔法と最弱スキルとでは最上位魔法が打ち勝つだろうが。

 

 しかし、技の種類においては魔法に軍配が上がる。


 つまりスキルとは冠する名において、ある一つの能力に特化した代わりに魔法の何倍もの、場合によっては何十倍もの出力を得た反則チート技のようなものである。






『彼』は王都郊外の森から城の出来事を見ていた。



 のである。


 これがどれだけ異常なことか。


 魔法ではこんな芸当はできない。


 つまりこれはスキルなのである。


 そして『彼』は魔物ではない。


 回りくどく言ったが、何が言いたいかというと


『彼』は勇者なのである。





「う〜ん」


 少年は唸る


「今かぁ〜」


 面倒くさそうに語尾を伸ばして喋っているものの、その表情はどこか楽しげだった。


「もうちょっとだったんだけどな〜。でも今更計画は変えられないしぃ、こんなに体を酷使してスキル使ってきたんだから成功させるしかないよね。」



 彼の名は高坂翔吾。



 エルリア王国の隣国ロルニタ帝国にて2年前に召喚された勇者の1人である。


 帝国で召喚された勇者は18人。

 しかし、エルリア王国の召喚のように原因不明の大量勇者召喚ではなく、奴隷を大量に生贄として捧げた上で行われた契約魔法である。



 そもそもの話、勇者召喚は儀式であり、侵略のための道具ではない。そのため儀式の際には各国への通達が義務付けられている。


 しかし、帝国はその義務を放棄した。

 召喚の目的は勇者を使った他国の侵略。

 それを可能にしたのはスキル【創造】を保有していた過去の勇者に、その者の命を代償に作らせた洗脳の古代魔術具ファレインタルムのレプリカ。


 これ以降、帝国は古代魔術具アーティファクトを用いて帝国民を洗脳し侵略の準備を整えてきた。



 準備を終えた帝国が送り込んだのがスキル【遠見の魔眼】を持つ高坂。


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 スキル 遠見の魔眼


 視力を強化できる。

 強化の度合いの上限はなし

 やりすぎると体調不良になる

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 王国の勇者召喚だけは不測の事態だったものの、高坂によって新たな情報も集められた。


「さてっと」


 高坂は立ち上がり、踵を返す。


 帝国の準備は整った。



 滅亡の足音はすぐそこまで迫ってきていた。

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