第42話 最終話




 椿が五条のアジトを出ると、静まり返った中に大きなエンジン音が聞こえた。


(まだ仲間がいたのかしら)


 椿が警戒していると、眩しい光が見えた。

 そして、すぐに見覚えのある自動車が二台でこちらに凄い早さで、向かって来た。


「あれは……成孝様? 宗介さん!?」


 椿は動体視力も抜群で、視力もいいため遠くからでも誰が運転しているのか瞬時に理解した。

 二台の車が椿の目の前で停まると中から転げ落ちるように成孝が飛び出して来て抱きしめられた。


「よかった、椿!! 間に合った。頼むから無茶なことはするなと言っただろう?」


 すると宗介や秀雄や政宗も飛び出して来た。


「椿、すぐに戻るぞ、見つかると厄介だ」


 秀雄が慌てて言った。

 すると宗介が怖い顔をして造船所を見つめた。


「おかしくないか? 自動車でこんなに近くまで乗り付けたのに……誰も出て来ないなんて……」


 そして政宗が声を上げた。


「入口に人が倒れてるぞ!!」


 成孝が椿を腕の中から離すと、「何?」と言って政宗の方を見た。

 椿は、胸元から書類を取り出した。


「これが、宗介さんを狙った暗殺計画です。爆薬入手の経路、また銃の入手先などの書かれた書類を持ち帰りました」


 椿の言葉に、皆が石像のように固まった。

 一早く動けるようになった成孝が声を上げた。


「もしかして……椿……すでに乗り込んだのか?」


 椿はゆっくりと頷いた。


「はい。明日は大事な会談です。絶対に邪魔されたくはありません。ですから先にアジトを壊滅させて皆様の安全を確保しようと思いました」


 秀雄は「何だって、椿~~そんな危険なことを~~」と言って泣きそうな顔をした。

 政宗は「さすが、椿だな。最強だな、弟子にしてくれ!!」と言って尊敬の念を表した。

 宗介は「それを思いついて実行するなんて……見上げたものだ」と感嘆していた。


 そして……


 成孝は無言で椿に近づくと、椿の顎を持ち上げた。


(殴られる!!)


 咄嗟に目を閉じた椿の唇に柔らかい感触があった。

 椿が驚いて目を開くと、成孝が瞳を閉じている姿と、長いまつ毛が見えた。


(え?)


 椿は驚いたが……イヤではなく、その場に立ち尽くしたまま成孝の唇を受け入れた。


「は?」


 秀雄が呆然と立ち尽くす。


「え?」


 宗介が口をポカンと開けて声を出した。


「こんなところでなんて破廉恥なことしてる!!」


 政宗が烈火のごとく怒っていた。

 椿と成孝は、焦りや怒りを見せていた三人に引き離されるまで、人前だということも忘れて口付けを交わしていたのだった。


 そして、その後すぐに、椿の持ってきた書類のおかけで、五条は掴まり宗介を交えて行われた鉄道事業の会談は滞りなく終わったのだった。

 





そして数日後。


「椿、今日は学校が早く終わるからな。その後、剣術稽古に付き合えよ」


 朝の支度を終えて、見送る椿に向かって政宗が言った。

 すると椿の後ろから秀雄の声が聞こえた。


「残念でした。今日の午後、椿は俺とパーラー行くんだ。稽古は明日にしろよ」


 政宗がムッとしたように言った。


「明日、椿は西条家の茶会に呼ばれていて留守だ!!」


 椿は二人を見ながらオロオロしていると、後ろから成孝に抱きしめられた。


「おい、お前たち。椿は私の婚約者だということをわかっているのか?」


 すると政宗が成孝を睨みながら言った。


「婚約と言っても口だけだ。そんなもの祝言を上げるまでは、わからないだろう?」


 秀雄も真剣な顔で言った。


「そうだな、こればかりは政宗に同意だ。成孝、椿から離れろ!!」


 成孝は椿を抱きしめながら大声で叫んでいた。


「断る!! 私は生涯、椿を離すつもりはない!!」


 椿は顔を真っ赤にしていた。



 時代は大きな変化を迎えていたが、それをものともせずに今日も東稔院家からは賑やかな声が響いていたのだった。


 



【完】


――――――――――――


 最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。

 またどこかで皆様にお会いできますことを楽しみにしております。


 藤芽りあ

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