第31話
椿たちは主催者が話をしている間に、五条廉太郎のすぐ近づいた。主催者が終わったらすぐに話しかけるためだ。
さすがの令嬢たちも主催者の話の最中は五条から離れていた。
成孝や宗介も前を見て、花菱家の当主の話を聞いていた。
(殺気!?)
ふと殺気を感じて、ゆっくりと殺気を放っている方を見ると、先ほど宗介が話をしたいと言っていた五条廉太郎と目が合った。
五条は椿と目が合ったことに驚いていたが、少し口角を上げると椿から目を逸らした。そして話の最中だと言うのに静かにどこかへ移動した。
(どこに行くのかしら?)
椿が不審に思っていると、花菱家の当主の話が終わった。
「成孝様、宗介さん、五条さんが消えました。追いますか?」
椿の言葉に宗介と成孝が頷いた。
「ああ」
そうして三人が歩き出した時だった。
「これは、東稔院殿」
「これは……伊藤先生、お会いできて光栄です」
成孝は招待客の一人に掴まった。
「少し話をよろしいでしょうか?」
成孝は、椿を見ながら言った。
「少し先生と話をして来る」
「はい」
椿は頷くと、宗介が言った。
「では椿、行くか」
「はい」
椿は成孝と離れて、宗介と二人で五条廉太郎を追った。
「椿、ヤツはどこに言った?」
「おそらく二階だと思われます。先ほど階段の方向に向かったのを確認しました」
入口付近に階段があったのを確認した。
ただ柱があって、会場からは階段は見えない。五条が会場を出た形跡はないとなれば、二階に向かったと考えるのが自然だ。
二階は休憩スペースと西洋の舞台にあるようなバルコニーがあるそうだが、実際にドレス姿の令嬢が二階に上がるのは大変なため、あまり二階には人はいないと聞いた。
「さすが椿だ。あいついっつもすぐに気配を消してどっかに行くからなかなかつまらねぇんだよ」
宗介と椿が二階への階段に向かっていた時だ。
「西条様、こんばんは」
「はじめまして、西条殿」
宗介が壮年の男性と、令嬢に話しかけられた。
「これは、二条院殿」
宗介は、顔に微笑みを浮かべた。
(宗介さんもお忙しいようね……私だけでも探してみましょう)
椿は、宗介に頭を下げて二階に向かった。
(あ、椿、一人で行くな!! くっ、だが二条院を蔑ろにはできねぇ!! こうなったら、すぐに話を切り上げて椿を追う!!)
宗介は、椿を止めることが出来きずに、二条院と話を始めた。
椿は、一人で二階い上がると、休憩室になって部屋を覗いた。
中には誰もいない。
(いないわ……)
そして今度はバルコニーに向かった。
(いないわ……)
バルコニーに出たが、五条の姿は見えなかった。
(ん? 人の気配がする)
椿は咄嗟に、バルコニーの柱のを凝視した。
「はじめまして、五条様……――いらっしゃいますよね?」
椿が声をかけると柱の影から、五条廉太郎が姿を現した。
「これは、これはお嬢さん。私はかくれんぼが得意なのですが……――よく見つけましたね」
椿はゆっくりと答えた。
「はじめまして、私もかくれんぼは得意です」
椿の言葉に五条が目を大きく開けた開けた後に、美しく笑った。
「ははは、本当に面白いお嬢さんだ」
そして椿のすぐ近くに近づいて来ると、椿の手を取った。
「残念だ。あなたがただの令嬢であれば、どれほどよかっただろう。よりにもよって、あなたは東稔院と、西条の連れ……――つまり私の敵だ」
五条はそう言って、椿の手袋を外すと手の甲にキスをした。
(この人は敵?)
椿はキスをされたことよりも、五条の言った敵という言葉がひっかった。
「まさか!!」
椿は先ほどまで隠れてい場所に向かった。
「これは、爆薬!?」
「ご明察」
五条は、爆弾のある反対側からふらりとロープでバルコニーから裏庭に降りた。
椿は五条よりも爆弾を止めることに必死だった。
(このロープの火を消せばいいのね!!)
椿は持っていた小刀で、導火線を切ろうとしたが切れなかった。
(何、このロープ!! 小刀で切れない!!)
足で踏んでも何かに守られていて火は消えない。
椿は辺りを見渡した。
(何か、何か、火を消せるもの!!)
そして噴水を見つけた。
(一か八か!!)
椿は爆薬を持つと空高く噴水目掛けて放った。
そして次の瞬間、凄い音が辺りに響き渡り、空中で火花が飛び散り、爆風でガラスが割れた。
爆薬の欠片は火のついたまま噴水の中にまるで桜が舞うように落ちていく。
「きゃーーーー!!」
令嬢たちの大きな悲鳴が聞こえた。
それと同時に、宗介が階段を駆け上がって来た。
「椿!! どうした!!」
椿は宗介を見ながら言った。
「宗介さん、もしかしたら先ほどの爆薬は五条さんかもしれません」
「なんだって? 詳しく話せ」
「はい」
椿は宗介に先ほどのことを話した。
宗介は椿の言葉を聞いて眉を寄せた。
「そりゃ、五条が完全なる黒だが……証拠がねぇ!! むしろ椿、すぐにここから逃げるぞ、疑われちまう!!」
宗介は椿を抱き上げると、急いで一階に降りた。
階段は奥まった場所にあったことと、ホール内のガラスが割れてかなりの混乱で椿と宗介を気にする者はいなかった。
ホールに入った瞬間、椿の目に背の高い成孝の苦悶の表情が写った。
「成孝様!! 宗介さん、成孝様が!!」
椿が声を上げると宗介は椿を下ろして、二人は逃げようとする人波を逆流してホールに向かった。
椿はまるで人波などないかのように流れるように成孝の向かう。
「ちょっつ、椿!!」
一方、宗介は人の波にのまれそうになり、会場の隅まで移動しながら椿を追った。
「成孝様!!」
椿が成孝の側まで来ると、血まみれの成孝がよろよろと立っていた。
「椿か、無事でよかった。心配するな。爆風でテーブルが飛んで木片が飛んできただけだ」
「お側を離れて申し訳ございません!! 私が護衛についていながら!!」
椿は奥歯を噛み締めた。
「何を言っている。今日は護衛ではない。私のパートナーだ。椿に傷などつけさせるか!!」
椿が成孝を必死で支えていると、成孝に向かって一人の令嬢が声を上げた。
「東稔院様!! 助けて頂き、ありがとうございました!! あなた様が私を庇って下さったからそのようなお怪我を……――本当に申し訳ございません」
成孝は椿に支えられながら言った。
「お気になさらず。あなたのような方がケガをしなくて本当によかった」
どうやら、成孝は令嬢をかばってケガをしたようだった。
令嬢は顔を真っ赤にして何度も成孝に「ありがとうございました」とお礼を言っていた。
「椿、東稔院!! ひでぇケガだ。窓側にいたのか!?」
「……ああ。窓のすぐ側にいた……」
ふらつく成孝肩を、右から椿が左から宗介が支えた。
血を流す成孝に向かって宗介が言った。
「行くぞ、早く医者に見せる。この近くに馴染みの医者がいる」
「すまないな、西条」
こうして椿と宗介に支えられて、成孝は病院に向かった。宗介の車に成孝を乗せることになり、宗介の車の後を七介が付いてくることになった。
「成孝様、もう少しです」
椿はドレスを破くと成孝の背中に当てて止血した。
(ああ、私はどうして成孝様のお側を離れてしまったのかしら!!)
病院に向かう途中も椿はずっと後悔が胸の中を渦巻いていたのだった。
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