第20話
椿は成孝に抱き上げられていると、ノックと共に扉が開いた。
「成孝、この資料はここに……って、何を昼間っからやってんだ? 俺を働かせておいて!!」
秀雄は、驚いた後に書類を成孝の机の上にぞんざいに放り投げるように置くと、前のソファに座った。
「どうして椿を膝に乗せてんだ?」
秀雄が不機嫌そうに尋ねると、成孝は眉を寄せながら答えた。
「乗せたかったとしか言いようがないのだが……」
すると秀雄がますます眉を寄せると、椿を見ながら言った。
「は……? あ……足が痛むとか、そういう理由じゃないのか?」
「足の痛みはありますが、ケガをすれば痛いのは当たり前ですので、想定の範囲内の痛みです」
椿の言葉に、秀雄は「想定の範囲内の痛みって……」と言うとじっと椿を見た。
「乗せたかったっていうのが理由なら……俺も、椿を抱きたいんだけど……」
その言葉に、成孝だけではなく、椿も大きな声を上げた。
「なぜだ?」
「どうしてですか?」
秀雄は、「さぁ、よくわからないが成孝の膝の上に椿が乗っているのが酷く気に入らない」と答えた。椿は、成孝を見上げたながら「成孝様そろそろ降ります」と言った。成孝も素直に椿を自分の隣に座らせた。
「秀雄様、これでよろしいでしょうか?」
椿の言葉に秀雄は「それならまだ」と答えた。
(膝の上に私のように大きくなった者が乗っていたら、誰だって気になるわよね……)
椿は自分の行動を反省しながら成孝に隣に座った。
そして、椿は二人を見ながら先ほど気付いたことを口にした。
「実は先ほど気付いたことがあります。以前本屋で宗介さんを襲わせた人物と、権蔵様を襲わせた人物、そして今日、襲わせた人物は恐らく同一人物です。」
成孝が顔を強張らせた。
「何? なぜ、そんなことがわかるのだ?」
椿は真剣な顔で答えた。
「三回とも数人、共通の流派の人間がいました。その流派はあまり大きな組織ではないので、その流派の人が数人もいるのは偶然と片付けるのは無理があります」
秀雄が眉を寄せながら言った。
「同じ流派か……俺たちじゃその辺りはわからないな。だが、ヤツらは確実に西条家を潰したい。だが、自分たちだけで難しい。だから家と西条家を疑心暗鬼にさせて、潰しあいをさせたいのだろうな。そうなってくると利となる家はそう多くはないな……」
成孝が呟くように言った。
「造船関係か……鉄鋼関係……だろうな。まぁ、当面は我々はやるべきことをすすめよう。そして椿は足を治せ」
椿は「はい」と言ったのだった。
すると秀雄はほっとしたように言った。
「確かに今は、出来ることをするしかないな……ところで椿、傷は痛みが引けば歩けるのだろう?」
「はい。すでに歩くことはできます」
秀雄は椿を見ながら楽しそうに頬みながら言った。
「では、痛みが引いたら俺とパーラーに行くか? 移動は車で店の前にまで行けるし、パーラーの中は少し歩く程度だ。問題ないだろう」
椿が返事をする前に成孝が声を上げた。
「秀雄、お前そろそろ準備をした方がいいのではないか? 午後から面会の予定が入っていたのではないか?」
秀雄は時計を見て立ち上がると、慌てて部屋を出ようとした。
「もうこんな時間か……書類整理に時間を取られたな。じゃあ、いってくる!!」
椿が立ち上がろうとすると、秀雄が「わざわざ立つな」と言ったので椿は座ったまま秀雄を見送った。
「いってらっしゃいませ」
椿が声を上げると、秀雄は嬉しそうに目を細めた後に「ああ」と言って部屋を出て行った。
秀雄がの姿が見えなくなった後、椿が扉を見ていると成孝が呟いた。
「返事をしていない約束は……無効だ」
「え?」
成孝はソファにから立ち上がると、本を数冊用意すると椿の前に差し出した。
「仕事で役に立つだろう。そこに座って……読んでおけ」
「はい」
そして、成孝は机で仕事を始めた。
椿は成孝から受け取った本をしっかりと読んだのだった。
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