第18話



「椿、ケガをしているじゃねぇか!!」


 成孝は、車を降りて宗介と椿の元に行こうとしてところで、宗介の言葉を聞いた。


(椿が!?)


 成孝は居ても立っても居られずに椿の元まで走った。

 

「成孝様!」


 椿は成孝が走っていることに驚いて声を上げた。椿の声に宗介も成孝の存在に気付いた。


「ああ、成孝殿もいたのか……」


 宗介は、そう言うと椿を見ながら言った。


「椿、足を出せ」

「え?」


 宗介が椿の足元に跪いたのを見て、成孝は咄嗟に身体が動いていた。


「椿、戻るぞ!!」

「は、はい!!」


 そして、成孝は椿を抱き上げた。


「成孝様!? そこまでしなくてもかすり傷です!!」


 成孝は椿に向かって「静かに」というと、地面に跪いて呆然としている宗介を見下みおろしながら言った。


「椿を気にかけてくれたことには感謝する。それと、その辺りに倒れている連中は、宗介殿を狙ったようだ」


 宗介は眉を寄せながら立ち上がると、「そうか……また椿に助けて貰ったのか……すぐに手当してやれ。後処理はこっちに任せてくれ」と言った。

 成孝は頷くと自動車に戻った。


 自動車に戻ると、秀雄と七介が外に出て待っていた。


「おい、どうしたんだ?」


 秀雄の言葉に成孝が叫んだ。


「七介すぐに病院へ」


 七介は「はい」というと運転席に乗り込んだ。一方椿は青い顔で言った。


「そんな!! 病院だなんて!! ただのかすり傷です!!」


 すると成孝は椿を睨みつけながら言った。


「これほど血が流れているのだ。ただのかすり傷かどうかを判断するのは医師に任せる」

 

 そして、秀雄を見ながら言った。


「問題ないな?」


 秀雄も大きく頷いた。


「当たり前だ。すぐに向かうぞ」


 こうして椿は申し訳なく思いながらも病院へと急いだのだった。





「東稔院様、椿さんの治療が終わりました」


 椿は結局数針縫うことになった。成孝と秀雄が椿の元に向かうと、椿は医師を話をしていた。


「椿さん、洋服をかばったのでしょう?」


 椿は何も答えなかったが、その様子を見ると、洋服をかばったのは明確だった。成孝が声を上げた。


「椿、そうなのか?」


 椿は小さく頷いた後に言った。


「これは、大切な仕事着ですから!!」

「椿……服などどうでもいい」


 成孝が眉を寄せて言うと、医師が困ったように言った。


「どうしても洋服が必要な時だけ洋服で、普段は袴などはいかがでしょうか? 足も庇えますし……」

「ではそうしよう」


 成孝はそう言うと、医師に向かって尋ねた。


「椿はもう連れて帰ってもいいのか?」

「はい。今日は安静にして、数日は身体を拭いて、風呂は控えて下さい」


 椿は深々と頭を下げた。


「ありがとうございました」

「いえいえ、何かありましたらすぐにおっしゃって下さい」


 こうして椿は、病院を出たが成孝は再び椿を抱き上げた。


「成孝様、歩けます」


 椿が成孝に訴えると、成孝は怖い顔で言った。


「今日は……安静にするのだろ?」

 

 成孝の圧に椿は黙って成孝に抱き上げられながら屋敷に戻ったのだった。


 

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