大正リコネクション

藤芽りあ

序幕





 明治四十一年、夏。

 立っているだけで汗が張り付く夏の夜。

 男は息を切らせ、こけそうになりながらも懸命に逃げてようやく林の中まで来た。


「こ、ここまでくりゃあ……大丈夫だろ……」


 ようやく男が足を止め、ふと視線を上げると幼い少女が目の前に立っていた。

 少女はなんの感情もない目を向けた。


「あなたに恨みはありませんが……」

「え?」


 その瞬間、辺りに鮮血が飛び散った。

 男は声もなくその場に倒れて動かなくなった。


「ご冥福をお祈りしています」


 幼い少女は、刀に着いた返り血を懐から出した布で拭きとった。

 そして静かにその場を離れていった。


 ――椿。


 まるで椿の花のように鮮血を散らし、一瞬で相手が地に落ちる。まさにその名の通りの剣技を持った少女だった。


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