宴も酣

岸亜里沙

宴も酣

家臣「殿、もう我が兵は数える程に減ってしまいました。このまま敵の兵糧攻ひょうろうぜめが続きますと、この城も、あと数週間しか持たないかと」


城主「分かっておる。もはや上杉の援軍は期待出来ん。だがわしは降伏などせんぞ。最期まで戦うのじゃ」


家臣「ですが、敵兵はおよそ8000。我が兵は200程です。一気呵成いっきかせいに攻め込んだとしても、多勢たぜい無勢ぶぜいかと」


城主「わしを誰だと思っておるんじゃ。百戦錬磨ひゃくせんれんま猛者もさじゃよ。さあ、皆を集めよ。最後の作戦を伝達する」


家臣「分かりました。ただちに」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



兵士「殿、敵の城に異変がございます」


殿様「このような深夜に何事だ?」


兵士「城に煌々と明かりが灯され、宴を催しているようです」


殿様「なんだと?まさか、敵は気でも触れたのか?」


兵士「分かりません。しかし、いくさ中とは思えぬ程、賑やかな声が城内から聞こえております」


殿様「よもや、兵糧攻ひょうろうぜめが効いておらんのか?敵にはまだそのような余力が、あるというのか」


兵士「末恐ろしい・・・。確かに此処ここは難攻不落の城だ・・・」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


家臣「殿、敵が撤退を始めております。一体どうしてでしょう?」


城主「昨晩、我らが宴を催したからじゃ」


家臣「私には理解が出来ませぬ。何故敵は勝ち戦から退くような事を?」


城主「それが作戦じゃ。わしらには兵糧攻ひょうろうぜめに耐えられる力がまだまだあるぞと、敵に偽りの姿を示したのじゃ。宴を催す程に余裕があるとな。時には虚勢きょせいも大事という訳じゃ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


兵士「殿、今回のいくさはとても奇妙なものでしたね」


殿様「まさか兵糧攻ひょうろうぜめが、こんなにも効かんとはな。昨晩の敵の行動で、こちらの兵も動揺しておったし、時には退くも勇気じゃ。今一度態勢を整え、次こそあの城を落とすぞ」





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宴も酣 岸亜里沙 @kishiarisa

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