「詩集 永劫」(2008~2009)

舞原 帝

34.在りし日の追憶

怠惰を脱ぎ捨て レンズの汚れを拭き取る

するとどうだろう 神経の研ぎ澄まされたのがよく解る

どこか苛立たしさも消え入った様な そんな気さえする

なのに 研ぎ澄まされた神経が

実は まだ消え入ろうとしている途中の苛立たしさを追い掛ける為に

いよいよ脱ぎ捨てた怠惰を拾う羽目となった所で レンズに新たな汚れを発見する


今度はレンズの汚れを初めに拭き取ると

もう既によれよれの怠惰を脱ぎ捨てた

するとどうだろう やはり 神経の研ぎ澄まされたのがよく解る

ところが その一方で不安心が自己に宿った事を悟る


どこに消えたのかしら苛立たしさと言うものは・・・


行方知れずの一つの情を探す羽目となった所に 丁度よく

世界にフィルターが掛けられた

だが それに気付く事の出来なかった研ぎ澄まされた筈の神経は

もう既によれよれの怠惰を 再度脱ぎ捨てなければならない状態であった事を

辛うじて報せてくれた


そこでは 彩りのよい花花が咲き乱れている

そこでは 喜びの涙で満たされた泉が 月明かりを映し出している

そこでは 頬を紅潮させた女の子の影までも 紅色に染める


百年の知己に逢えるまで 私は繰り返すだろうか

それまで 独り身でいるこの私には何も謳えはしない

恐らく 不死鳥を見つけたとしても感情が高ぶる事もないだろう

本当に言い訳がましい言葉で ほんの少しを説明しようだなんて

それが先に語った事であっても 後に語ったかもしれぬ事であったとしても

この位 真実味のない事だという事に きっと気付けるといいと

怠惰を脱ぎ捨てる事に苦労した私は 後にこう語った


そこでは 何一つとして説明されずともよい

そこでは 情など一つとして大切にはされていない

そこでは 唯の一人として自らの知己を待ち惚けてはならない

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