第9話
「まーやりにくいにゃろうけど、これで来たから最後までこれでいかせてもらうにゃ。さて、これから本題に入るんにゃが、今ちょっと困ったことに……」
「んぎゃあああああ!」
絹を裂いた、というには少し騒々しい悲鳴を上げ、雅樂は一目散に逃げ出した。
家族のいる新居に辿りついた雅樂は、息も絶え絶えといった様子で、自分の遭遇したものについて喋った。家族が皆起きていたのは雅樂にとって幸いであった。
「その辺の猫が入ってきたんやないの?」
「上甲さんとこ猫飼うとったやろう? あれ結構大きかったことないか?」
「色はどがいやったぞ?」
矢継ぎ早に質問を浴びせられるが、雅樂は全て一息で否定する。
「そういう話ではないです! あれは普通の猫ではありません!」
「でも……猫は猫なんやろう?」
「猫といえば猫なのですが……大きさがパンダくらいあって……」
身振りをまじえて、雅樂が詳しい説明を始めると、どっと笑い声が起こる。
「なんで猫の大きさをいうのにパンダが出てくるんぞな」
「他にあるやろう? ライオンとか虎とか」
「いや、座り方が猫よりはパンダに近かったので……。こう、足を投げ出したような」
この部分はなんとか、雅樂の言いたいことが伝わったようであった。
「しかしなぁ……ウチもむかーし
雅樂の祖母が言う。
……上古。
そうだ、そういえば、今日この山名家にお迎えするモノは〝上古〟という名だったことを雅樂は思い出した。
「まあ、上古様はうちの守り神みたいなもんなんやろう? そんなら猫でもええんかもしれん。ほら、まねき猫みたいな」
父が言うと、皆再び口を開けて笑う。いつもと変わらぬ家族の様子を見ているうちに、だんだん雅樂の気分も落ち着いてきた。
……そう言われてみると、何やら福々しい印象の大猫ではあった。守り神というよりは化け猫に近い容貌だったが。
『しかし……おそらくあれだと儀式は失敗、ということになりますわね』
雅樂は一応確認してみるつもりではあるが、客をほっぽって主人が逃げ出してしまった以上、成功ということはないだろう。
確認はもちろん、明日、日が高くなってから家族の誰かと共同で行うのである。
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