第28話
如月に人質にされてしまった西園寺たちの居場所を聞いた俺は、すぐに魔法少女育成学校を離れてその場所へ向かった。
この街の復興区画。
如月はそこに人質がいると言っていた。
復興区画は、四年前の大災害で最も被害を受けた地域のことだ。
あれから街の復興は少しずつ進んではいるのだが、いまだに大災害の爪痕は完全には消えていない。
西園寺たちを人質にとった怪人たちは、そこに潜んで俺を待ち構えているのだろう。
「必ず助けるからな。西園寺、小鳥遊、宇佐美…」
俺は空を飛んで移動しながら攫われた生徒会のメンバーたちの名前を口にする。
如月はこれは罠だと教えてくれたが、俺はあえてその罠に飛び込むつもりだった。
西園寺たちがいつまでも生きている保証はない。
怪人たちの目的である俺が現れなかったら、人質の価値なしということで殺されてしまうかもしれない。
そうなれば俺はまた四年前と同じ間違いを犯すことになる。
「あの時の俺とは違う…」
四年前、俺は弱かった。
だから大切な人たちを守れなかった。
怪人から、両親を、妹を守ってやることができなかった。
でも今は違う。
あの時に得た魔法の力で、俺は強くなった。
今度こそ俺は大切な人たちを救いたい。
例えこの選択の結果、俺自身が死ぬことになったとしても後悔はない。
「ついたぞ…」
空を飛んで移動していた俺は、ついに復興区画に入った。
いまだ廃墟となったまま放置されている建物が見える。
ほとんどが半壊、もしくは全壊しており、緑が侵食している。
無人地帯が眼下に広がっていた。
「西園寺たちはどこにいる…?」
俺は空を飛びながら周囲を見渡す。
この見捨てられたような場所のどこかに、人質になった西園寺たちがいるはずだ。
魔法少女育成学校を襲撃した怪人たちが、人質と共に俺を待っているはずだ。
「ん?なんだあいつ…」
『ゲヒヒヒヒヒヒ』
少し離れたところを、怪人が飛んでいた。
取るに足らない低級怪人だ。
そいつはまるで自分の存在をアピールするかのように、周囲を飛び回っている。
俺はそいつに対して魔法を放とうとした。
すると低級の怪人が動いた。
一定の速度を保ちながら、ある方向へ向かって移動し始める。
「ついてこいって、ことか…?」
あの怪人についていった先に、西園寺たち人質がいるかもしれない。
俺は低級の怪人についていき、空を飛ぶ。
「ここは…」
果たして低級の怪人についていき到着した場所は、見捨てられた廃校だった。
俺の脳裏に四年前の記憶が過ぎる。
「俺が通っていた…中学…」
様々な思い出が蘇ってくる。
友人たちと楽しく過ごした日々。
いろんなイベント、行事。
緊張しながら校門をくぐった入学式。
初めてできた友達、その時の喜び。
それらが今は全て遠い過去となった。
大災害で学校は徹底的に破壊され、周囲の住居もほとんどが焼けてしまったために、廃校となったのだ。
三棟あった校舎も残っているのは一つ。
友人たちとも大災害以降再開することはなかった。
彼らが生きているのか、どこか別の学校へ転校したのか、それすらも俺にはわからない。
俺がぼんやりと捨てられた校舎を眺めていると、下から声が聞こえてきた。
「なぜきてしまったんだ、東条!」
「東条くん!今すぐ逃げて!!」
「東条くん、これは罠よ!!今すぐに逃げなさい!!!」
「お前ら!!」
草が伸び放題になった荒れたグラウンドの一角に生徒会のメンバーたちの顔があった。
攫われた西園寺、宇佐美、小鳥遊、そしてその他十名以上の魔法少女たちが、ロープで縛られ、膝を尽かされている。
「よかった、生きてたのか!」
俺は彼女たちがまだ死んでいなかったことに安堵して、急いで近づこうとする。
「やめろ!!こっちへくるな!!」
「きちゃだめ!!」
「東条くん、こっちにきてはダメよ!!」
俺が近づこうとすると、魔法少女たちが一斉に俺に警告する。
「東条!怪人が私たちのすぐ近くに潜んでいる!!奴らの目的はお前を殺すことだ!!今すぐにここから逃げろ!!」
「逃げて、東条くん!私たちのことはいいから!!!」
「あいつらはあなたを殺すために、私たちを人質に取ったの!!すぐにここから離れなさい!」
「断る」
「「「…!?」」」
「俺はみんなを見捨てて逃げたりはしない。必ずここから救い出す。怪人どもも俺が全部倒す」
「無茶だ…いくらお前でも…」
西園寺がそんなことを言った次の瞬間だった。
『ゲヒヒヒヒヒ!!罠にかかったなぁ、トウジョウレイヤ。ご覧ください、ハデス様。ご命令通り、トウジョウレイヤを連れてきました!!』
『クハハハハ!!お前がトウジョウレイヤか!!ついにあいまみええたな!!』
俺をここまで導いた低級の怪人が虚空へ向かって語りかけた。
すると夜の闇を隔てるようにして、漆黒の裂け目が顕現した。
そこから怪人たちが次々と姿を表す。
「こいつらが…」
俺はあっという間に怪人たちに取り囲まれてしまった。
怪人たちの存在感は、これまで戦ってきたどの怪人よりも圧倒的に強力で凶悪だった。
おそらくここにいる全ての怪人が、あの怪人オロチよりもはるかに強いだろう。
『よくきたな…お前がトウジョウレイヤで間違いはないな?』
「ああ、そうだ。そういうお前は誰だ?」
怪人たちのリーダーと思しき一つ目の怪人が、俺に話しかけてくる。
そいつは全ての怪人たちの中で一番強い存在感を放っていた。
『私は怪人ハデス!!怪人でありながら怪人を生み出すことのできる、怪人の王だ!!』
「怪人を生み出す…そうか、お前が黒幕か」
俺はハデスを名乗る怪人と正対する。
この一際強い存在感を放つ一つ目の怪人こそが、全ての黒幕。
強力な怪人を作り出し、送り込んでいた元凶なのだ。
『いかにも。お前が殺した怪人ベノム、ゴーティス、そしてオロチを作ったのはこの私だ。私の目的は強い怪人を作り、魔法少女を殲滅すること。魔法少女さえいなければ地上は我ら怪人のものだ。だが…お前が私の怪人たちを殺した。お前のせいで死んでいたはずの魔法少女どもが生きながらえることになった。そこで私はお前を殺すことにした』
「俺をここに誘い出すために、魔法少女育成学校を襲撃したのか?」
『いかにも。すべては最初からお前を殺すことのみだが目的だった』
怪人ハデスが口元をニヤリと歪める。
『まさか本当に一人でやってくるとはな、トウジョウレイヤ。もう少し賢い男だと思っていたのだが…二度までも私の仕掛けた罠にかかるとは…クククク』
「お前らの狙いは俺なんだろう?望み通り俺はここに一人で来てやった。増援も呼んでいない。だから、魔法少女たちをすぐに解放しろ」
『断る』
「なぜだ?」
『今から死ぬお前のいうことをなぜ聞かなければならない?お前はすでにカゴの中の鳥、袋の鼠だ。ここから生きて出ることはない。お前もそこにいる魔法少女どももここで死ぬ運命なのだ』
「…」
どうやら人質を助けるにはこいつらを全員倒す以外に内容だ。
俺は体の中で魔力を熾し、戦闘体制になる。
「戦ってはダメだ、逃げろ、東条!!」
西園寺の悲鳴のような声が響く。
だが俺は逃げるつもりはなかった。
西園寺の方を向いて、笑顔を作る。
「大丈夫だ、西園寺。俺は死なない。必ずこいつら全員倒して、お前らを助ける
から」
『クハハハハ!!ずいぶん威勢がいいな!!この後に及んでまだ私たちに勝てるつもりでいるとは!!だが、トウジョウレイヤよ。お前は確実にここで死ぬことになる。なぜなら…今お前の前にいる怪人たちはすべてお前を倒すために私が作
った最強の怪人部隊だからだ!!』
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