第6話



「魔法とは魔力によって引き起こされる現象だ…!未だ魔法に関する研究は十分なところまで進んでいないが、それでもある程度の原理原則は判明している!!魔法少女である君たちの体の中には魔力と呼ばれるエネルギーが存在しており、それが魔法の源となっているのだ…!これがなくては魔法は使えない!」


広大なグラウンドに指導教官の声が響き渡る。


午後の授業一発目は、グラウンドでの魔法の実技だった。


俺たちは現在、体操着のようなものに着替えてグラウンドに集合させられている。


ちなみに授業が始まった途端に教室で魔法少女たちの着替えが始まり、俺は慌てて教室を飛び出してトイレで着替えを済ませた。


危うく変態のレッテルを貼られてすべての魔法少女たちを敵に回すところだったと俺は今から思い出してほっと胸を撫で下ろす。


「今日やってもらうのは体の中にある魔力を把握すること。そしてその魔力を魔法として形にすることだ!普段君達は意識せずに魔法を発動しているが、その過程を知ることによってさらに魔法への理解が深まることになるだろう!!」


どうやら魔法の実技の授業は、一学年すべての魔法少女が参加して行うようである。


前の高校よりも何倍も広いグラウンドには、100名を超える魔法少女が整列していた。


俺たちに魔法を指導するのはかつて魔法少女だった女性であり、魔法のなんたるかを現役の魔法少女たちに対して説いている。


「魔力、か…そう呼ばれているんだな…」


科学で説明のつかない魔法はまだまだわかっていないことも多いのだが、どうやら魔法発動には魔力というエネルギーが必要であることがわかっているようである。


魔力という言葉を俺は初めて聞いたのだが、なんのことか心当たりはあった。


俺が魔法を使う時、体の中で何かが減ったりする感覚があったのだ。


おそらくそれが魔力の正体だろう。


魔法少女は、体の中の魔力という名のエネルギーを消費して魔法を発動しているのだ。


「では早速魔力の操作からやってもらおうか!!体の中で魔力を巡らせ、それを体外に放出する。放出とは魔法を発動することじゃないぞ!?魔力操作を覚えれば、魔法になる前の魔力を直接操ることができるようになるだろう…!よし、それじゃあ初め…!!」


指導教官の合図とともに、魔力操作の実践が始まった。


「む、難しいですわ…」


「できないよぉ…」


「魔力操作ってどうやるの…?」


「いつも無意識に魔法使ってたからいきなり魔力とか言われてもわからないよ…」


「うーん…体の中の魔力?なんとなく感じ取れるものはあるけど…これって操作できるのかしら…」


魔法少女たちは魔力の操作に苦戦しているようだった。


自分の胸に手を当てたり、腕を掲げたりしながら、難しそうな表情を浮かべている。


「俺もやってみるか…」


俺自身いつも無意識に魔法を発動しており、魔力操作なんてやったことは一度もないのだが、とりあえずやってみるとしよう。


教官は魔力は体の中にあるエネルギーだと言っていた。


俺はいつも魔法発動の際に無意識に行っていた工程を意識するようにしてみる。


すると、魔法を発動しようとする瞬間に、自分の体の中で何かが動くのがわかった。


「捕まえた…!」


俺は自分の体の中で炎のようにともりかけた“それ”を捕まえてみる。


それは俺の体の中で燻りながら、ある程度意識すると動かしたり、放出したりすることができるようだった。


「これを体の外に出せばいいのか…?」


俺は体の中で捕まえた“それ”を体の外に出すよう意識してみる。


すると自分の体の中から何かが抜けていく感覚とともに、手の先から微かに色づいた粒子のようなものが流れ出ていくのが見えた。


「ほう…!お前、筋がいいな…!」


気づけば教官が俺の前に立っていた。


俺が手の先から放出させている魔力を見て感心したように唸る。


「どうやらお前が一番ノリのようだ。まさか男でありしかも新入りおのお前が、一番に魔力操作をマスターしてしまうとはな!!」


「ちょ!?」


教官がわざと大きな声で周りの魔法少女たちに聞こえるようにそういった。


「「「「…っ」」」」


それを聞いた魔法少女たちが、俺を睨みつけ、悔しげな表情を浮かべている。


「男になんて負けませんわ…!」


「魔法少女の意地を見せてやりますわ…!」


「あの男にできたのだから私にも…!」


「絶対に負けませんわ…!」


周りの魔法少女たちは、真剣な表情になり魔力操作に没頭し始める。


「ふふふ…いい傾向だ。お前もその調子で励め。うちの生徒は優秀だからな。油断しているとすぐに追いつかれるぞ」


「はぁ」


教官が俺の肩をポンポンと叩いて去っていった。


俺は周りの魔法少女たちにめちゃくちゃ睨まれながら、魔力操作を続けるのだった。


「よし、そこまで!!魔力操作はこのぐらいでいいだろう!!ここからは魔法戦の実践をやっていく!!いつも通り二人一組になれ!!」


「えっ…えっ!?」


しばらくすると教官がそんなことを言って魔力操作を切り上げて、魔法の実践をすると言い出した。


二人一組のペアになるように命じられた魔法少女たちは、迷うことなくペアを組んでいく。


「やりましょう」


「いいですわ」


「やっほー。ペア組も?」


「オッケー」


「やろうよー」


「はぁい」


ペア成立の声があちこちから聞こえてくる中、俺は完全に孤立してしまう。


どうしていいかわからずにあたふたしていると、教官が近づいてきた。


「なんだ、東条。お前ペアがいないのか?」


「は、はい…」


「仕方ない…それじゃあ私とやろうか」


「…はい」


俺が友達がいなくて先生に気を遣われる悲しいやつみたいになりかけていたその時だった。


「待ってください、教官!!」


誰かが教官を制止してこちらに近づいてきた。


背が高く、艶やかな黒髪の美少女だった。


キリッとした顔立ちで、俺をみる目がやたらと厳しい。


「おう、西園寺か。どうした?」


教官がその魔法少女の名前を呼ぶ。


西園寺と呼ばれた魔法少女は、なぜかギロリと俺を睨みつけた後、ビシッと俺のことを指差して言った。


「私がこいつと組みます。やらせてください」




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