【声劇台本】探偵・九十九龍之介の怪奇手帖 壱『静謐なれど深淵なる狂気』
家楡アオ
『静謐なれど深淵なる狂気』(♂:♀:不問=2:2:0)
【台本名】
探偵・九十九龍之介の怪奇手帖 『静謐なれど深淵なる狂気』
【作品情報】
脚本:家楡アオ
所要時間:55~60分
人数比率 男性:女性:不問=2:2:0(総勢:4名)
原案:芥川龍之介 『河童』(1927年)
【登場人物】
九十九 龍之介(つくも りゅうのすけ)
性別:男性、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:九十九
本作の主人公で、神田神保町にて探偵事務所をかまえる私立探偵。
不思議な事件を取り扱う事から『怪奇探偵』と呼ばれており、
オネエ言葉を喋るイケメン。
安倍晴明を祖とする土御門家の者であり、戦闘に特化した
呪術を得意とする。
千里(ちさと)【※女性配役のキャラクターです。】
性別:男の娘、年齢:100歳以上(見た目は10代後半)、台本表記:千里
九十九の式神であり、助手であるオス♂の猫又ではあるが、彼の趣味に
よって女性モノの服を着させられており、華奢で愛らしい容貌から少女
と勘違いされる。
性格は自信過剰で好戦的、良くも悪くも裏表のない不良気質の強い人物。
芥川 龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)
性別:男性、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:芥川
売れっ子の小説家で、彼との出会いにより九十九が事件に関わることになる。
空虚感が入り混じったような雰囲気を纏うダウナー系青年。
彼との出会いが、九十九たちが事件に関わるようになる。
怪異『河童』【※女性配役のキャラクターです】
性別:??、年齢:??(10代の少女)、台本表記:怪異
今回の事件の元凶で、『狂気を伝染させる』性質を持つ。
九十九たちを襲撃した時は黒の瘴気を纏っていたが、
実際はとある民族衣装を着た少女の姿をしている。
正体は、■■■に伝わる水棲の霊的存在である『■■■■■』。
白川 清香(しらかわ きよか)【※怪異『河童』役の兼役です。】
性別:女性、年齢:20代、台本表記:白川
白川伯爵家の令嬢で、現在は東京府立松澤病院に入院中。
元々は貞淑ではあるも活動的な女性であったが、『河童』に
出会ったことで狂ってしまった。
斎藤 茂吉(さいとう もきち)【※芥川龍之介役の兼役です。】
性別:男性、年齢:30代、台本表記:斎藤
東京府立松澤病院の院長である精神科医で、芥川と白川の主治医。
神経質な性格をしている。
【台本・配役テンプレート】
台本名;
探偵・九十九龍之介の怪奇手帖 『静謐なれど深淵なる狂気』
URL
https://kakuyomu.jp/works/16818093084198450732
<配役>
九十九 龍之介:
千里:
芥川 龍之介 / 斎藤 茂吉:
怪異『河童』 / 白川 清香:
※配役検索に役立ててください。
☆:九十九
□:千里
△:芥川龍之介、斎藤茂吉、N②
◇:怪異『少女』、白川清香、N①
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0】
△芥川:げに人間の心こそ
△芥川:
△芥川:ただ
△芥川:消ゆるばかりぞ
△芥川:
(間)
◇N①:東京・浅草のとあるジャズバー。
そこに奇妙な2人がいた。
□千里:りゅうのすけ~
◇N①:ひとりは少女。
その姿はまるで洋風人形の様で可愛らしい。
☆九十九:…………。
◇N①:もうひとりは、男性。
ハイカラな
少女の呼びかけに反応せずに、グラスに入ったデンキブランを
一口飲んだ後に、
□千里:なぁ~? きいてんのか~?
☆九十九:…………。
□千里:なぁー! りゅうのすけー!!
あんぎゃ!!
☆九十九:うっさいわね、こっちは
□千里:だからって、ゲンコツするのはどうなんだよ!!
☆九十九:アンタのやかましい声で、折角のジャズが聴こえないのよ。
それに、アンタが「ジャズバーに行きたい」ってしつこく
□千里:だって~
酒はピリピリしてまずいし、なんか眠たくなるような
音楽だし……つまんねぇんだもん……
☆九十九:ガキのアンタには、この良さがわからないわよ。
ほら、黙ってミルクでも飲んでなさい。
□千里:ちぇ……
△芥川:――そこのお二人さん。
◇N①:ひとりの男性が、ふたりに話しかけてきた。
上等な和装を着ているが、髪の毛はボサボサに乱れていた。
目の下にはクマがあり、それが
しかし整った彼の顔は、どこか
を感じさせる
△芥川:隣、いいかい?
☆九十九:ええっ、どう——
□千里:あっーーー!!
☆九十九:うっさ。
△芥川:どうしたんだい?
□千里:ま、間違いない!
アンタ、
△芥川:おや、僕のことを知っているのかい?
それは嬉しい事だ。
お嬢さんのような愛らしい子に知ってもらえるなんてね……
少しは作家
□千里:俺は、お嬢さんじゃない!
ねこま——アンギャ!?
☆九十九:ごめんなさいね。
うちの助手が騒がしくして。
□千里:2度目のゲンコツ!!
☆九十九:あんたがバカだからしょうがないでしょ。
□千里:
△芥川:あはは、元気でいいじゃないか。
僕も昔は
でも、今はこのように……色々とありすぎてくたびれてしまったよ。
☆九十九:それよりも、いつまでたっているつもりかしら?
隣、空いてるわよ。
△芥川:それじゃあ、失礼するよ。
――あぁ、マスター、今日はデンキブランを。
えっ? 今日も、だったね。
◇N①:バーのマスターは直ぐにボトルを取り出し、
慣れた手つきでグラスにお酒を注いでいく。
ほんのりとした
△芥川:(勢いよく飲んだ後に)ふぅ……あぁ、いいお酒だ。
ヒリヒリと
☆九十九:最初からそんなに飛ばして大丈夫なのかしら?
△芥川:いいんだ……うん、いいんだよ。
いや、ここ毎日飲んでいるなぁ……いつからだろう?
あの大震災の後からか? 次男が産まれたときから?
それとも
いかんなぁ、物忘れも出て来たな。
☆九十九:ちょっと、本当に大丈夫なの?
△芥川:大丈夫だよ、意外と酒は強いのでね。
――そういえば、
名前を教えてもらってもいいかな?
☆九十九:あら? これは誘われているのかしら?
△芥川:あはははは! おもしろい事を言うねぇ。
確かに、アンタは女言葉を使う奇妙な
長そうで短い人生……
☆九十九:あらら、それはそれは。
△芥川:――でも、
あっ、でも……帝国大学に通っていた時だったら君と寝ただろうさ。
☆九十九:あら、それは残念。
まあ、
で、このウルサイ単細胞が助手の
□千里:おい! 俺のどこが単細胞なんだよ!!
☆九十九:そうやって、すぐ怒るところよ。
□千里:ぐぬぬ……
△芥川:探偵、か……それはまた、面白い事をしているねぇ……
□千里:作家先生様よォ!
△芥川:ほう?
☆九十九:ちょっと、
□千里:
その姿にまさに
人呼んで――
◇N①:
一部は
ひそひそと何か
そんな状況に彼はうんざりとした
☆九十九:はぁ……
△芥川:『
☆九十九:いざ、そう言われると恥ずかしいわね。
△芥川:結構じゃないか、素晴らしいと思うよ。
☆九十九:それはどーも。
△芥川:それにさ。
☆九十九:んっ?
△芥川:僕たちが此処で出会ったのは運命かもしれないね。
☆九十九:……それは一体どういうことかしら?
△芥川:アンタに、とある
とびっきりの面白いモノだ。
☆九十九:へぇ……
聞かせて
△芥川:その前に。
☆九十九:んっ?
△芥川:提供する代わりと言っちゃなんだが……
追加のデンキブランの代金をお願い出来ないかな?
□千里:うわっ、たかってきた!
☆九十九:あら、売れっ子作家なんでしょ?
私の様な弱小探偵なんかより、よっぽどお金を持っているじゃない。
△芥川:実はね……
☆九十九:しょうがないわね。
ただし、しょうもないモノだったら……承知しないわよ?
△芥川:あぁ、それは
私は物語に関しては嘘をつかない主義でね
☆九十九:そう……なら、期待しているわ。
マスター、この人にデンキブランをもう一杯。
ええ、代金は私が持つわ。
□千里:俺にも同じのを!
☆九十九:あんたはミルクでも飲んでなさい!!
□千里:ぎゃ!!
△芥川:お嬢さん、これを飲むにはもう少し大人になってからのほうがいい。
□千里:だから、俺は……いや、言うのをやめておく。
☆九十九:あら珍しい、少しは成長したじゃない。
□千里:うっせ、バーカ!
3回もゲンコツくらえば、少しは学ぶわ!
☆九十九:はいはい、わかったわかった。
それで、
早く、その〝
△芥川:まあまあ、探偵さん。
夜は長い、そう
物語はゆっくりと、じっくりと楽しむものだ。
それじゃあ始めよう。
――最近、僕は新作の製作をしているんだが、どうも上手くゆかない。
そんな自分を見かねて、友人が興味深い話を持って来たんだ。
『
☆九十九:『
△芥川:『
【Ⅰ】
◇N①:
△芥川:『
☆九十九:
△芥川:あぁ、大事な大事な娘さんさ。
今は
……彼女の人生は大きく変わってしまった、『
そんな彼女が話す『
☆九十九:でも、あなたはそれを「嘘」とは感じなかった。
△芥川:そうだ。
☆九十九:でも、
……先生、あなたも狂っているのかしら?
△芥川:アハハ! それはあり得るハナシだ!!
なにせ、僕は周りから狂人と呼ばれているからね!!
☆九十九:…………。
△芥川:おっと、失礼……感情が
えっと、
☆九十九:どうぞ?
△芥川:気が利くね。
流石、探偵さん。
失敬するよ、ふぅ……
◇N①:一服した芥川の表情は
そんな彼の表情から、九十九は〝ある事〟に気付いた。
☆九十九:見ない
まあ、吸い過ぎに注意しなさいよ。
△芥川:おや、それはアナタだって同じだ。
今時珍しい
愛煙家じゃなきゃ手を出ささない
☆九十九:そうね……でも、アンタが吸っているのは
ソレは快楽を
△芥川:アハハ……お見通しって訳か……
☆九十九:まあ、どうだっていいわ。
話を続けて。
△芥川:あぁ、すまないね。
それで友人のツテを頼って、僕は彼女に会う事が出来た。
収容される前だったのが幸いだった。
立派な
それは、まるで
そして、彼女は僕を見るとこう言ったんだ——
(※回想シーン:開始)
◇白川:――お待ちしておりました、
△芥川:こいつは驚いたね。
この会談は非公式で、ついさっき決まったのだけど……
◇白川:それは、〝あの子〟が教えてくれましたので。
△芥川N:彼女が指さす方向には誰もいなかった。
しかし僕は、彼女を
△芥川:そうかい、そいつはとんだ
しがない物書きだ。
◇白川:あら?
多くの作家がどうなってしまうんでしょう?
私、貴方のファンなんですよ。
『舞踏会』、とっても大好きです。
△芥川:そいつはありがたいお話だね。
それじゃあ、
◇白川:
△芥川:……あぁ、わかったよ。
では、
君が
(※回想シーン:終了)
△芥川:とにかく精神患者とは思わせない、気さくで不思議な少女だったよ。
僕の訪問を
□千里:誰かが言ったんじゃねぇの?
△芥川:うーん、それはあり得ないだろうね。
□千里:どうしてだ?
△芥川:後から聞いたんだが……
彼女は
実の家族ですらね。
一言でも発しようとすると、自らの耳を
ちょうど、このようにね。
でも、その時の彼女は耳を
嬉しそうに語り始めたんだ。
「自分は『
☆九十九:『
△芥川:あぁ、そうだ。
3年前の夏に、
同行していた
それで
好奇心ゆえに、彼女は単独でソレを追いかけた。
そして、追いかけている内に『
☆九十九:『
△芥川:あぁ、彼女は言ってた。間違いなく、あれは国であったと。
しかし人間社会の
メスがオスに優位に立ち、中絶は日常茶飯事の
優性思想を
何よりも求められる。
最近では『
職工たちをガスで安楽死させて食用の肉に加工して市場に流通している。
まさに、エログロナンセンスの集合体、此処に在り。
今の
どうだい?
☆九十九:どうだい、って……そりゃあ、なんかの
読んでいるみたいだわ。
□千里:てか、共食いとかえげつねぇだろ……
△芥川:予想通りの反応だ。
まあ、信じろというのが無理な話さ。
頭がイカれている僕でされ、正直困惑したものだ。
でも……さっきも言ったが、彼女が「嘘」を言っているとは思えなかった。
☆九十九:へぇ……
△芥川:もちろん、それを裏付ける話もある。
彼女を含めた登山をした者たちの
『
そしたら、登山を企画した元
原因不明の病気や自殺で亡くなった。
そして彼女に付き
戻ってきた翌日の夜に
――「
――「今度は私の番だ!
――「たすけて、たすけて、死にたくない」
そして、彼女は
☆九十九:
□千里:こわっ!?
☆九十九:アンタが怖がってどうするのよ。
△芥川:確かに結末は
〝
さて、こんな時間だ……そろそろ、帰らないと。
☆九十九:ちょっともう終わり?
△芥川:僕から話すのは、ね。
後は、彼女から聞くといい。
☆九十九:なに、この
△芥川:これは〝招待状〟みたいなモノだよ。
☆九十九:ふーん……
知り合いだったり、するのかしら?
△芥川:
すばらしい精神科医さ。
――言っただろ? 僕はイカれてるって。
☆九十九:私が、狂人の言う事を信じると思う?
△芥川:だったら、探偵さん。
アンタだって僕に〝何もしない〟ということをしないでしょう?
それに信じていなかったら、僕が
二杯目のお
更に罰金もとられていたかもしれない。
□千里:えっ!?
☆九十九:先生、あなた、探偵に向いてますよ。
△芥川:いやいや、どちらかと言えば、こざかしい
それに僕は、しがない物書きだよ。
それ以上でも、それ以下でもない。
それでいいんだよ。
☆九十九:また、会えるかしら?
△芥川:あぁ、もちろんだとも。
真実を聴かないといけないしね。
僕は嬉しいよ、久しぶりに心の底から
「おもしろい」と思える人間に出会えて
再び相まみえる為に、もう少し長生きしないといけないね。
☆九十九:褒め言葉として受け取っておくわ。
△芥川:さて、このままだと三杯目を恋しくなってしまう。
妻と子供たちに怒られてしまうからお
□千里:――行っちまった。
☆九十九:そうね……さて、
アンタはさっきの話についてどう思う?
□千里:嘘だろ。
――その女が見たっていうのは、『
病気のせいじゃないし、ソイツ自身が創りあげた
☆九十九:答えは、ひとつ。
□千里:あぁ、〝
それに、とびっきりに
☆九十九:やっぱりね。
アンタが
今回の件は
まぁ、腕が鳴るけど。
□千里:おいおい、いいのか~?
☆九十九:んっ?
□千里:気をつけろよ~?
俺は
人間であるお前は狂っちまう可能性があるからよ。
☆九十九:それじゃあ、その時は
□千里:へっ?
☆九十九:なに
それに、アンタにとって悪い事じゃないわ。
失った力を取り戻せる上に、
一石二鳥じゃない。
□千里:……まあ、そんなことは俺がさせねぇけどな!!
不本意だけど、今の俺は
それに、ヘマをするほど、俺はバカじゃねぇからよ。
☆九十九:ふっ……ええ、まあ、期待しているわよ。
【Ⅱ】
□千里N:東京府立
600人近くの精神に異常を来たしている患者を
収容されている場所に
△斎藤:まったく、
☆九十九:すいませんね、院長先生。
お忙しいところ、御対応頂きましてありがとうございます。
△斎藤:ふんっ……ここだ。
この部屋に
□千里:なんだが、
△斎藤:いいか?
探偵だが何だが知らんが……
いくら狂っているとは言え、彼女は大事な患者なんだ!
余計なマネをしたら許さんぞ!!
☆九十九:重々承知しています。
△斎藤:――二十三号くん、君に面会だ。
□千里:(※小声で)二十三号? アイツには名前があるはずだろ?
これじゃあ、患者というよりは……
☆九十九:(※小声で)まあ、〝
□千里N:
彼女――
◇白川:あら、
△斎藤:あぁ、ご機嫌よう。
どうだね、体調の方は?
◇白川:うん、今日は体調がいいの。
でもね、あの子ったら本当に困った子なの。
何度も、何度も『
毎回教えているのに、忘れてしまうなんて困ってしまうわ。
△斎藤:それは大変だね。
◇白川:でもね、いざお話をすると楽しそうな顔をしてくれるの。
だから、私、嬉しくなっちゃって……
△斎藤:そうか、そうか。
ちなみになんだが……その……〝あの子〟と言うのは——
◇白川:いやだわ、先生。
そこにいるじゃない。
□千里:(※小声で)……何もいねぇよな?
☆九十九:(※小声で)私に聞くんじゃないわよ。
妖のアンタが見えないモノを、見えるはずがないでしょ。
△斎藤:あ、あぁ……それは申し訳なかったね。
実はね、君に
申し訳ないんだが、『
◇白川:知ってる。
△斎藤:えっ?
◇白川:伺っています。
でも、私、名前を知らないの。
あなたたちは、だあれ?
☆九十九:初めまして、白か――いえ、二十三号さん。
私の名前は、
どうぞよろしくね。
□千里:で、俺がこいつの有能たる相棒の
☆九十九:バカ丸出しの自己紹介はやめなさい。
◇白川:あらあら、不思議な方々ね。
二人の性別が逆転しているわ?
☆九十九:まあ、そんな
それよりも教えてくださいな。
あなたが見た『
◇白川:あらあら、とてもせっかちさんなのね。
でも、いいわ。
私は、あなたを待っていたから。
☆九十九:名前すら知らなかった私を?
◇白川:でも、私は
いや、
ただ、ここに名も知らぬ貴方が来るのは、わかっていた。
不思議な
☆九十九:
教えて、あなたが何を見て、何を感じたのか、を。
◇白川:ええ、よろしいですわ。
あれは3年前の夏、元
長野県にある
御子息の
「綺麗な景色を見せたい」と登山を突然提案されたのです。
☆九十九:とは言っても、それなりの山よ?
◇白川:はい。
なので、私達は初心者向けの登山道で行くことになりました。
それならば軽装で済み、私たち以外にも他にいましたので、
特に心配はありませんでした。
ですが……不運なことに私は
一緒に付き添ってくれたばあやがいたのは、唯一の幸いでした。
☆九十九:それでどうしたの?
◇白川:その日は
晴れる気配がありませんでした。
当初は宿に戻る予定でしたが、1時間ぐらいでしょうか?
と考えました。
□千里:うん、それでそれで?
◇白川:谷から離れないように、
まるで冒険しているかのような気分になり、
私は不安よりも興奮を覚えていました。
どれくらい歩いたことでしょう。
長く歩き続け、疲れてしまった私たちは、たまたま見つけた
腕時計を覗いてみますと、時刻は午後1時20分。
すると、時計のガラスに気味の悪い顔がひとつ、
ちらりと影を見せたのです。
□千里:気味の悪い顔?
◇白川:一瞬のことでしたので、よくわかりませんでしたが。
そして、次の瞬間、ばあやが悲鳴をあげました。
私は驚いて振り返ったのです。
そしたら、そこに——
☆九十九:『
◇白川:はい、それが私と『
私も悲鳴をあげると、『
てっきり、私達を襲うものと考えていましたので、
逃げてしまったことに
だから……
□千里:ま、まさか……
◇白川:はい、追いかけてしまいました。
□千里:うわぁ……何しているんだよ……
◇白川:ばあやは必死になってやめる様に叫んでいましたが、
私の好奇心が止まることを許さなかった。
不思議な存在に
すると、どうでしょう?
『
☆九十九:…………。
◇白川:ですが、私も長く動き続けたことで疲れが限界でした。
捕まえることが無理だと思った矢先でした、森に居るはずが無い馬が、
『
『
私は「しめた!」と思い、『
すると、そこに大きな穴があったのです。
☆九十九:穴?
◇白川:真っ逆さまに穴へと落ちていくのに、不思議と怖いと感じませんでした。
まるで夢うつつの気分。
そしたら、すぐ近くにあの『
やっと、私は『
それは、ヌルっとした滑らかで、
不思議なことに、死ぬかもしれないのに、ふと、どうでもいいことに
気付いたのです。
別荘近くの温泉宿の側に、『
そのあと、目の前に
□千里N:話の
それに加えて、
追いかけた『
追いかけたことを彼女が
医者の『ジャック』はとてつもない名医で、多くの医者が
彼女の持病を一瞬で治したらしい。
人懐っこい面があり、彼女に求婚してきた。
職を失った労働者の『マック』は食用
憲兵と思われる 『
流石にトラウマに感じたらしい。
これら以外にも会った多くの『
その顔は、どこか
あまりの
一方で、
◇白川:――これで『
どうでしたか?
☆九十九:まあ……「すごい」の一言に
◇白川:助手さんも、院長先生はビックリしているのに……
アナタは
いいえ、この話を聞いた皆様は何かしらの反応があったのに。
☆九十九:とは言っても、正直混乱はしているわ。
□千里:てか、
◇白川:あら?
我が帝国における第四階級の女性たちは売春を
それについて厭うのは
自分たちがまともな人間だと思っていらっしゃって?
それに『
☆九十九:二十三号?
どうしたの、震えて——
◇白川:ひゅー! ひゅー!!
☆九十九:過呼吸?
△斎藤:いかん! 彼女から離れろ!!
☆九十九:えっ?
□千里:
☆九十九:っつ! 一体、何を——
◇白川:ひゅー! ひゅー!!
九十九:あれは……!
△斎藤:どうしてナイフなんか持っているんだ!?
◇白川:出ていけぇ! この
☆九十九:
◇白川:お前も、お前もお前も!!
ここから出ていけ! この
☆九十九:何が起きているの——―
△斎藤:もしもし、私だ!
二十三号が、例の発作を起こした!
至急、抑制帯とハロペリドールを持って来い!!
それに外の警備をしている憲兵隊も連れて来い!!
□千里N:
ものの数分立たないうちに、看護婦と複数の男たちがやってきた。
持っていた食用ナイフを振り回し、半狂乱になる女。
慣れた手つきで男たちは、彼女をベッドに
看護婦から薬を受け取った
薬が身体の中に入っていき、すると、さっきの事が
△斎藤:大丈夫かね? ケガはないか?
☆九十九:ええっ、どこもケガをしていないわ。
△斎藤:いつもそうなるんだ。
この話をする度に、最後は必ず発狂し始める。
それに毎回同じ
☆九十九:どういうこと?
△斎藤:詳しい原因についてはわからん
……ただ、同じ
彼女の潜在的な意識を表していると考えられる。
ここ最近は減薬も出来ていて、安定しているから大丈夫だと思ったんだが。
☆九十九:…………。
△斎藤:とにかく、これで面会はおしまいだ。
もう満足しただろ、帰ってくれ。
□千里:おい、待てよ!
俺たちはまだ――ふぐっ!
☆九十九:ええ、そうさせて頂きます。
これ以上、彼女からは何も聞けませんから。
□千里:んっー! んっー!!(※口を手で塞がれています)
△斎藤:それにわかっていると思うが——
☆九十九:
ここにはもう来ることはありません。
△斎藤:……それでいい。
☆九十九:お時間をとらせて頂きありがとうございました。
失礼します。行くわよ、
□千里:ぷはっ!
……わーったよ。
【Ⅲ】
□千里:――本当に良かったのかよ。
まだ聞く事、あったんじゃねえの?
☆九十九:バカね、あんな状況じゃどうやったって上手く行かないでしょ。
□千里:それもそっか。
☆九十九:とは言っても、何も収穫がなかったわけじゃない。
――
□千里:あぁ、あの女の魂の話だろ?
――あれはもうダメだ。
どす黒いモノが魂を奥深く
むしろ、よくヒトの形を保って生きていられるなって驚くぐらいだ。
☆九十九:それじゃあ、
□千里:無駄だ。
あの黒いのと、女の魂が同化をしちまっている。
それは永遠に解かれることは無い。
死ぬまで狂い続け、やがて
まあ、その前に死ぬだろうな。
あの状態だと、長く見積もっても2、3週間程度の命。
明日、死んでもおかしくねぇ。
☆九十九:そう……それは残念ね。
□千里:まっ、俺らはこれ以上の被害が拡がらない様にやるしかねぇだろ。
それが俺たちの仕事。
そうだろ、
☆九十九:なんか気持ち悪いわね……いったい、どういう風の吹き回しかしら?
□千里:べっつにー?
俺はただ、ちょっち
落ち込んでいるのかな~って。
俺なりの優しさっていうヤツ?
☆九十九:ふっ、アンタに気を遣わせてしまうなんて、焼きでも回ったのかしら?
□千里:おいおい、勘弁してくれよ~
☆九十九:それは「食べ応えがない」、の間違いじゃないの?
□千里:あはは! 違いねえや。
さあ、行こうぜ。
☆九十九:ええ、真実を暴きに行くわよ。
【Ⅳ】
□千里N:こうして俺たちは、長野県
カラマツ製の橋で、
臨むことができる。
そして周辺には
だから、少しの期待はしたが——
□千里:――なんで、
☆九十九:うっさいわね。
さっさと仕事を終わらせて帰るわよ。
□千里:えー!!
温泉! うまいメシ!!
☆九十九:バカ言うんじゃなわいよ、今月はもうお金がないんだから。
□千里:えー! えー!!
☆九十九:口を動かす暇があるなら、手を動かす! 頭を動かす!!
□千里:ちぇ……わかりましたよーっと。
てか、大きな穴って言うけどよ。
本当に見つかるのか……?
だりぃ……それにしても、さすが神様が降臨した山
という事もあって豊富な
んっ、
俺、あったまいいー!! よーし!
△N②:千里は地面に自信の手をつけ目を閉じた。
□千里:――
△N②:千里が行ったのは、山中に流れる『霊脈』に自身の
意識を取り込む術であり、そうすることで山全体を
簡単かつ短時間で
□千里M:さて、どこにいるのかなー?
あそこまでの
――んっ? 川の方に何かいる……?
△N②:千里はある存在を見つけた。
とにかく黒いモノだった。
それと同時に彼の中に〝ある感情〟が襲い掛かる。
□千里M:えっ……どうして、俺が恐怖を感じて……まさか!
◇怪異:ミ・ツ・ケ・タ
△N②:一瞬のことだった、黒いモノと目が合ったのと同時に声が聞こえた。
□千里M:やばい! 見つか――
◇怪異:ニ・ガ・サ・ナ・イ!
□千里M:なっ、コイツも
しかも、速い!
△N②:黒いモノは一瞬にして
□千里:まずい、このままじゃ俺が取り込まれ――
☆九十九:――
△N②:
炎へと変わり、怪異に襲い掛かった。
◇怪異:ギャアアアア!! アツイイイ!!
☆九十九:チッ、逃げられたか。
大丈夫、
□千里:りゅ、
☆九十九:んっ? なによ、その
アンタらしくない。
□千里:だって、アイツ……ただの
☆九十九:ただの
□千里:……
☆九十九:冗談よね?
それじゃあ、今回は神様の仕業だって言いたいの?
□千里:間違いないんだ!
アイツ、
本来、怪異にとって
でも、アイツは違った! これだけでも十分な証拠になる!!
☆九十九:本当に厄介なことになったわね。
□千里:どうする?
☆九十九:どうするって、やるしかないでしょ。
□千里:相手は
今まで俺たちが相手にしてきた、そこらへんの
今回は分が悪すぎる……俺たち、ふたりだけじゃ……
☆九十九:ふん!
□千里:ひぎゃ! いって……なにするんだよ!!
☆九十九:アンタ、自分が言ったことをわすれるんじゃないわよ!
□千里:えっ?
☆九十九:「俺らはこれ以上の被害が広がらないようにやるしかねえだろ。
それが俺たちの仕事。」
□千里:それは……
☆九十九:珍しくまともなことを言うから関心したってのに、
いい? 私らみたいなのはね、コレで飯食ってんのよ?
を助けるのがメシのタネなの。
だから、やるわよ。
誰かがやってくれるなんて期待はしない。
こっちは自分の命を懸けてんの。
それを承知の上で、私の
それともなに?
百年以上ただしっぽ巻いてキャンキャン無駄吠えして生きてきたっての?
□千里:…………わりぃ
☆九十九:
□千里:うっせ!
☆九十九:まっ、そこまでの元気が戻ったのなら大丈夫そうね。
□千里:へっ、まあな!
それよりどうする?
この様子だと、奴は遠くに離れたぞ。
☆九十九:そうね……まずは、
□千里:それが良くわからねえんだ。
黒いモヤのようなものを
いや、でも……さっき襲い掛かってきた時に……
一瞬だったけど、ガキの姿が見えたような気がする。
☆九十九:なるほどね。
『
……いや、そんなハズはない。
でも、要素を考えたら〝アレ〟しか思いつかない。
場所がおかしい上に、
どういうことなの……?
□千里:っつ!
☆九十九:いたた……いきなり飛び込むんじゃないわよ……
□千里:わりぃ。
けど、そんな余裕はなかっからさ。
あれ、見ろよ。
△N②:
地面に大きな穴が出来ていた。
☆九十九:まるで
□千里:水の
きっと、ヤツの力だ。
◇怪異:ウ・フ・フ・フ・フ・フ
ハ・ズ・シ・タ
デ・モ・ツ・ギ・ハ・コ・ロ・ス!
□千里:声が……!
☆九十九:…………。
□千里:くっそ、どこにいやがる……!
☆九十九:
□千里:なに?
☆九十九:
□千里:はあ?! 何を言ってるんだよ、
同じ手は通用しないって!!
☆九十九:いいから、私を信じなさい!
□千里:チッ、わーったよ! ヘマしたら承知しねえからな!!
――
◇怪異:イ・タ・ァ!
□千里M:早速かよ!
いいぜ、来いよ……エサが待っているぞ、ここに……!
◇怪異:ヒ・ヒ・ヒ・ヒ!
□千里M:今度は
◇怪異:イ・タ・ダ・キ・マ・ス
□千里M:早過ぎる……! 龍之介!!
☆九十九:――見つけた!
◇怪異:……!!
☆九十九:その
我が
◇怪異:グウッ!!
☆九十九:オン・マカ・キャロニキャ・ソワカ!
◇怪異:ア・ア・ア!!
□千里:ぷはっ! あっぶねえ所だった!!
☆九十九:大丈夫?
□千里:あぁ……それよりも今のは……
☆九十九:『
□千里:そのために接続をさせたのか!
☆九十九:突然の
そして、こうも姿を現してくれて嬉しいわ。
◇怪異:グゥ……コ・ロ・シ・テ・ヤ・ル!
☆九十九:続けて、告げる! 吹き飛びなさい!
ナウマク・サンマンダ・ボダナン・アビラウンケン!!
◇怪異:ギャア!!!
□千里:すげえ……
☆九十九:これでお終いよ――続けて、
かしこみ、かしこみ
◇怪異:サ、サ・セ・ル・カァ!!
☆九十九:オン・ビシビシ・シバリ・ソワカ!
□千里:よし、捕まえた!!
△N②:光の輪によって
しかし、それでも
◇怪異:アアアアアア!! コンナモノデ……!!
□千里:こいつ、まだ抵抗を!
☆九十九:無駄よ。
簡単な術式だけど、
かつては
◇怪異:グゥゥ!!
☆九十九:だから、もう諦めなさい――『ミンツチ』。
◇怪異:!?
☆九十九:それとも、『シリシャマイヌ』のほうがいいかしら?
□千里:『ミンツチ』? 『シリシャマイヌ』?
☆九十九:アイヌに伝わる霊的存在で、『ミンツチ』が正式名称で、
『シリシャマイヌ』は別名よ。
「魚や
むしろこっちのほうが有名だわ。
『ミンツチ』は――『
□千里:それじゃあ、こいつが今回の……!
☆九十九:ええ、でも
こんな場所に居るのが、そもそもおかしい。
いくら「山の神」の側面があるからって、
どこの山にもいるわけじゃない。
まあ……大方予想は出来るけど。
◇怪異:ハナセェ……ハナセェェ!!
☆九十九:段々と普通に話せる様になっているじゃない。
さて、色々と教えてもらうわよ、あなたの事を。
□千里:
☆九十九:まあ、しょうがないでしょ。
それに、あなたの心配している事は承知しているわ。
まあ、その時はヨロシク。
狂って死ぬなんて、私には合わないから。
□千里:……わかった。
その時は、すぐに食い殺してやるから。
☆九十九:結構よ、さて……あなたの中に入り込ませてもらうわよ!
――
【Ⅴ】
☆九十九:――うん、上手く中に入り込めたようね。
周囲は……何もないわね。
あてもないけど、歩いてみますか。
△N②:何もない空間。
彼の足音以外の音は一切のない、静寂の間。
そして歩く先は常に暗闇に包まれている。
やがて……
☆九十九:んっ? これは……原稿用紙……?
△N②:それを拾うとした瞬間だった。
1枚だけだった原稿用紙が突如として自動的に増え、
床だけじゃなく、周囲一帯を多数の原稿用紙が貼り付けられていた。
☆九十九:今まで色んな妖の魂に入り込んできたけど、初めてよ、こんなの。
何が書いてあるのかしら――っつ!
△N②:驚愕した。
原稿用紙には物語の一節のような文章が書かれている。
ひとつ、ひとつが違う内容。
しかし、どれも共通としたテーマがあった。
『自分が生きている社会への痛烈な批判』。
憤怒、嫉妬、怨嗟など人間の闇を象徴する感情が
込められて書かれている。
読み続けていると、彼らの重い感情で吐き気を
☆九十九:うっ……こんなの、
久しぶりに、キたわね……
△N②:負の感情は
――すると、
☆九十九:これは……
◇怪異:そう、あの女が抱いた「この社会への
☆九十九:少女……カミサマが
◇怪異:それはどうも。
――その原稿用紙の女は“ある男”に恋をしたそうだ。
男は卑しい身分ではなかったが、平凡な庶民。
華族と庶民、不釣り合いの二人。
相思相愛であれど、自分たちが生きる世界では許してくれない。
やがて二人は引き離され、女は怒り狂った。
☆九十九:彼女は、身分を――「この国の社会を構成する要素を呪った」わけね。
◇怪異:そう。
そして愛しいヒトを自身から引き剝がすのを画策をした上女中を、
強引に婚姻を進めようとした貴族の息子を、
自分を不幸にした奴らを殺すのを私に願った。
――あやつの魂を喰らうことを条件に、な。
☆九十九:…………。
◇怪異:それにしても、お前たち、人間は本当にロクでもないな。
時代は進み、文明が進化したとしても本質的な部分は退化している。
他を犠牲にし、そのことで自身の生を
☆九十九:それについては否定する事は出来ないわね。
◇怪異:我々に対してもそうだ。
神々への信仰心は薄らいでいき、
そして、それは自らの欲望を叶える道具とする。
お前たちは我々がもたらした恩恵を受け、今日まで生きてきたはずだ。
受けた恩を仇で返すだけではなく、対価を求める神を悪しきモノとし、
慈悲深い神を欲望の
人間という
☆九十九:……
自然を
けど、本来の貴方には「他者を狂わす」面は無い筈。
◇怪異:あぁ……あぁ、そうだ! あの女が、
私の
――『
☆九十九:あぁ、やはり、彼女が……
◇怪異:
私を
どうなると思う?
私の存在は
「『
ハハッ……笑える。
こんな存在になっても、『山の神』としての性質が残っているんだ……
……もう、戻ることが出来ない。
☆九十九:ミンツチ……
◇怪異:最期は、アイヌラックル様が
アハハ……もう、いいや。
人間、お前と戦い、そしてお前に負けた。
☆九十九:そうね。
◇怪異:どうやら力を使いすぎたようだ……じきに私はもう消える。
人間、お前の名は?
☆九十九:――
◇怪異:ハッ……最期の最期に礼を尽くしてきたか。
人間(おまえたち)が人間(にんげん)である限り、私は再び現れる。
☆九十九:……そうね。
神様も生まれ変わることが出来るのなら、
今度はひっそりと過ごすのをオススメするわ。
今回の様に狂気をばら
◇怪異:神に対して不敬であるぞ、と本来は言いたいところではあるが……
まあ、お前の言う通りだ。
今度はそうであることを望む。
それじゃあ、本当にさようならだ。
☆九十九:さようなら、ゆっくりと休みなさい。
――皮肉なものね。
ヒトを守る使命があるからこそ、ヒトの感情に共鳴していた。
〝ソレ〟をつけ込まれてしまったのね。
アナタも、私と同じ〝彼女〟によって狂わされた者のひとり。
……さて、感傷的になってもしょうがない。
ここから出ないとね。
(間)
□千里:おい、
☆九十九:うっ……
□千里:起きやがったか……この野郎、心配させやがって……
☆九十九:なんとか、戻ってこれたようね。
□千里:消えたぜ、
☆九十九:そう、終わったのね。
□千里:なあ、あいつは何だったんだ?
☆九十九:そうね――アレも被害者よ。
そして、いつかは戻ってくるでしょうね。
いつかなんて分からないけど、ね。
明日かもしれないし、百年後かもしれないわ。
でも、確かよ。
□千里:それってどういう――
☆九十九:あー、疲れたわ。
さて、ひと風呂につかって帰るわよ。
□千里:温泉!
☆九十九:そんな輝かしい
□千里:わかってるって!
やったぜ、ひゃっほー!!
☆九十九:てか、
平気なの?
□千里:細けえことは気にしなくていいって!
ほら、早く行こうぜ!!
☆九十九:はいはい。
□千里:温泉、やっほーう!!
【Ⅵ】
◇N①:再び、浅草の某ジャズ・バーにて。
☆九十九:――これが事の
△芥川:これは、これは。
まるでひとつの
☆九十九:残念ながら、『
△芥川:いやいや、それ以上におもしろい話を聞く事が出来た。
……うん、実に面白い。
良い作品が書くことが出来そうだ。
☆九十九:大先生の作品作りにご協力出来たのなら光栄だわ。
△芥川:僕は、そんな大層な人物じゃないよ。
……さて、そろそろ行かないと。
☆九十九:あら? もう行くのかしら?
△芥川:妻と子供が待っているからね。
――あぁ、そうだ、君にこれを渡しておこう。
◇N①:そう言って、芥川は一枚の紙を差し出した。
☆九十九:――って、これは!
△芥川:創作を手伝ってくれたささやかなお礼だよ。
受け取ってくれ。
☆九十九:まさか初めてもらった小切手で、こんなに貰えるとはね。
△芥川:喜んでくれて何よりだよ。
それに、もう僕には無用の長物だからね。
……あぁ、実に惜しいな。
君と出会うのが最期になりそうだ。
☆九十九:そう……それは残念ね。
素敵な殿方に出会えたのに。
△芥川:不思議な気分だよ、君に褒められるのは正直言って悪くないな。
――ところで質問なんだが、君は、男が恋愛対象なのかい?
☆九十九:よくそう言われるわ。
けど男も女も、両方を愛せる博愛精神の持ち主なのよ?
△芥川:両刀使い、か。
あはは、こいつは困ったね。
あんたのような
でも、気を付けなよ?
それに
☆九十九:それは反面教師からの助言かしら?
△芥川:これは耳が痛いな。
まあ、そんなところだ。
それじゃあ、御機嫌よう。
☆九十九:ええ、御機嫌よう……さようなら、文豪・
【Ⅶ】
◇N①:そして数日後――。
一方で
読んでいた。
□千里:「二年前から決していた死、
――あの作家先生、自殺したのか。
☆九十九:睡眠薬・バルビタールの大量服用による自殺、ですって。
□千里:
☆九十九:あの精神病院の院長よ。
……
□千里:そっか……なあ、
☆九十九:なに?
□千里:……あいつも、狂ってたのかな?
☆九十九:さて、どうかしらね。
今回の件、“彼女”が関わっていたけど……
もしかしたら、今回の事件は、彼が創り上げた
作品だったのかもしれないわね。
□千里:作品?
☆九十九:さっき届いた差出人不明の封筒を開けてみなさい。
□千里:どれどれ……んっ、本が入ってるのか……?
『河童』……
☆九十九:すごい売れているそうよ、それ。
□千里:なあ、
さっきの言葉の意味って……
☆九十九:バカね、
死人に口なし、真実は
【Ⅷ】
△芥川:2年前からずっと考えていた。
△芥川:袋から
△芥川:これらは、招待状だ。
△芥川:覚めることはない、
△芥川:――そろそろ、時間だな。
△芥川:最後の、最後で、面白いことを体験できた。
△芥川:「
△芥川:舞台は整った。
△芥川:これが、最後の仕上げだ。
△芥川:短冊に一筆。
△芥川:――
△芥川:「
△芥川:……では皆さま、御機嫌よう。
(終幕)
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