幕開け

05.悲劇の再演

「天夜‼️ 無事なのか⁉️」


 環の叫びにも近いその声によって、天夜はやっと我に返った。


「ぶ、無事です……‼️」

「ファウちゃんも無事か⁉️」


 一瞬、視界にファウがおらず、天夜は焦った。

 だが、地面に突っ伏しているだけだった事に気づき、安堵した。


「ファウも無事です……‼️」

「よし、すぐにそこから逃げてくれ、自衛隊の出動命令が下りた。もしかしたら、とてつもない事が起きるかもしれない……‼️」


 それは、隠蔽工作だったのかもしれない。

 違法な調査がバレないための、水際対策。

 だが、それを指摘できるほどの余裕は、今の天夜には無かった。


「分かりました、とにかく逃げます……‼️」

「ああ、30分後に最初の機材置き場を捜索させる。それまでに辿り着いて、身を隠していてくれ‼️」


 こちらの返事を待たずに、環は通話を切った。

 それと同時に、電波は圏外と表示された。


 ――電波妨害……?


 ――いや、意図的に落とした……?


 どちらにせよ、刻一刻と状況が緊迫してきていることが、天夜にも理解できた。


 ――まずは、ここを離れないと……‼️


「ファウ、行こう‼」


 地面に突っ伏すファウに言う。

 しかし、ファウは動こうとしない。

 さっきからずっと、同じ体勢だ。


 ――ケガ……⁉️


 嫌な予感がした。

 天夜は、慌ててファウのもとに駆け寄る。


「ファウ‼️ 大丈夫か⁉️」


 するとファウは何も言わず、目線だけを天夜に向けた。

 どうやらケガは無いようだ。


「良かった……さぁファウ、早くここから離れよう」


 そう言ってファウの手を取ろうとした――

 瞬間――


 天夜は突然、浮遊感に襲われた。


 ――え


 ――何が?


 ふと、足元に視線を移すと――


 大きな地鳴りと共に、柱を中心に足場が崩れ始めていた――

 

――やばい‼️


 天夜は、咄嗟に後ろに飛び退いた。

 本当に反射的な行動だった。

 だからこそ、一つ忘れていた。


 ファウのことを――


 ゆっくりと穴へと落ちていくファウ。


 ――助けないと‼️


 必死に手を伸ばす。

 しかし、身体は既に後ろに向かって動いている。

 自分が伸ばした手が、ファウからどんどんと離れていく。

 徐々に徐々に、ファウは穴のそこへと落ちていく。


 ――やめろ


 ――やめてくれ‼️


 天夜の脳裏には、あの日の『大災害』が、再び頭の中によぎった。


 なぎ倒された建物――


 迫りくる火の手と海水――


 そして、瓦礫に埋もれた少女……ファウの姿――


 ――もう嫌なんだ


 ――あの時みたいな気持ちになるのは


 ――だから


 ――助けさせてくれよ‼️


 天夜にとっては、この一瞬が一生と思えるほど、長く感じた。

 そして、地面に身体が接地した時、すべてが確定した。



 天夜の視界からは――ファウの姿が消えていたのだ。

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