魔国大乱 〜魔法オタク、異世界を平定する〜
牙屋
第1話 扉
ルナベル・ジークハートは、今日も今日とて引きこもっていた。二十歳になっても尚、実家の自室に......引きこもっていた。
「これが最近発見された魔法か......」
最近手に入れた魔導書。そこに書かれた全ての情報を目で舐めとるように、ペラペラとページをめくっていく。
「ふぅ......」
パタンと本を閉じ、天井を見上げた。
窓から入ってくる日光が目に刺さる。どうやら外はもう朝のようだ。さっき本を読み始めたのが朝だったから......大体丸一日経ってるのか。時が過ぎるのは全く早いもんだぜ。
ルナベルが人生の無常さに思いを馳せながら窓の外を眺めていると、目の前の道を誰かが横切った。
ゲッ、と呻く寸前に、彼女の理性がブレーキをかける。
あれは......隣に住んでるババアだ。それもただのババアじゃない。道ですれ違うとギリギリ聴こえる声で嫌みを言ってくる(追及すると逆切れする習性がある)、正真正銘のイカレババアだ。
なんで朝からこんな萎びた芋みたいな顔を見なきゃいけないんだ......と頭の中で文句を唱えていると、ルナベルに気付いたのか、芋ババアが彼女を強く睨んできた。
何だ? やんのかババア? と、持ち前の鋭い目付きで彼女が睨み返したその時。
「あらぁ~、サマンさんおはよぉ」
「あらっ、カーンさんもおはよおぅお」
もう一体ババアが現れやがった。おい、二対一は卑怯だぞ。
「ちょっと見てよカーンさん。あの家の子、まだ......」
「えぇ、そうなの? これじゃあ......」
遠くてよく聴こえないが、私の方を見ながらチラチラと何かを話している。朝の挨拶ついでのババア共のバッドマナーコミュニケーションだ、くたばれ畜生。......まぁ、今日のところはこれで勘弁しといてやるか。
ルナベルは溜息をつきながら、窓を固く閉ざす。そして......大きく息を吸って気合を入れ、パシンッと頬を叩いた。
「さて、今日もやるか......」
彼女はそう呟くと、本棚まで本を取りに、椅子から立ち上がって、歩いた。この行為は......この世界では異常な行動だ。
本棚から取り出した一冊の本を床に置き......それに向かって手の平を向けた。
............微動だにしない本。何の音も響かぬ部屋。溜息を吐き出しなら、彼女は本を手で拾い上げる。物理法則を考えれば当然の結果だが、この世界では異常なのだ。
「......今日もダメ、か」
この世界には魔法がある。
この世界の人間は魔力を持つ。
魔法は人間の生活の一部であり、
人間の文化の中心なのだ。
誰もが使えて当たり前の物。
誰もが持っていて当たり前の物。
それが......私には無い。
私には、生まれつき魔力が無い。
魔力が無いのは誰かと問われれば、
食料用の家畜か、虫けらか、私である。
「はぁ..................」
体中の息を排出しながら、ルナベルは溶けるように椅子に座り直す。
魔法が大好きなのに、魔法が使えない。なんて残酷な世界なのだろうか。まぁ、そんな文句を垂れつつ、何か私が魔法を使える方法は無いかと、今日も今日とて魔導書を読み漁っているわけだが。
「全く、最低最悪の人生だ......」
そう嘆きながら、彼女が魔導書の表紙に手をかけたその時。
コンコンッ、と。
......家の玄関から、戸を叩く音が響いた。ルナベルは若干の気怠さを感じながらも、久々に己の部屋から出て玄関に向かう。
誰が来たのだろうか。予約しておいた商品は無いから......また何かの勧誘か? はっ、まさか老獪共の反撃のファンファーレ?!
老人達の先制攻撃を防ぐために、廊下に落っこちていたフライパンを強く握りしめて......
ルナベルは扉を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます