「悉傀記」

 えー、映えあらんこともない企画第一弾の批評はこちら「悉傀記」に決定しました。

 選考理由を述べておきますと、程よい長さだったからです。小説二巻分にもなる長さは些か面倒だし、かと言って二千文字程度で対象を測れる気もしない。もっとも、二万文字程度なら他にあったのですが、そちらはタイトルの時点でテンプレ系で見えがちな言葉選びばかりが目について敬遠してしまいましたね。

 いやしかし、それでも読まぬとは言わん。

 どちらにせよ気分次第ではありますが。


 さて本題。

 文章の方を見ていきましょう。

 ざっと見た感じ、比較的普通に書ける人の文章ではあると思います。この普通ができない人もそこそこいるのでこれは良いことですね。

 本文入って冒頭ですが、難解プロローグ部の人ですね。僕もやりがちなので良く分かります。これは最初読んで「うわ、わかりづらっ」って逃げていく人が沢山いる文章です。ま、悪かないです。やるのはね。やる人の勝手。

 内容は和風。まぁ、やりたい人がやってる何気ディープなジャンルという印象がありますが、それはどうでもいいですね。

 組み方は三千文字ワンセットで七話。

 個人的にはある程度、長く書く鍛錬はしておくべきだと思いますよ。そう何度も視点を変えたり、話ごとにちっちゃく細かくオチを付けたりはWEBではそっちのが都合良いのかもしれない。

 けど、あんまり小刻みにわざとらしすぎる演出を毎度入れてると、いや、やりたくなっちゃうってのはわかるんですがね、まぁ鬱陶しい。


 んで、ざっと読みましたね。

 かるーくね。

 まぁ、基礎はできてると思うんでね。問題ナシ!ってレッテル貼りしてもいいんだがね。それじゃあね。良くないからね。基礎のそくらいの話をしましょうか。

 あぁ、ちなみに。以前の企画を読んだならそっちでは引用して誤字見たりしてただろって言われかねないが、それはやめました。面倒なので。だとしたらあんまり添削じゃないかもしれんが。


 比喩。良くない。「〜のような」とか「〜のようだ」で完結してる比喩なんて良くないに決まってるんです。ような、の多用は意図的に避けるべきだと思いますね、僕は。勿論それが必然に見える場合は使っていいんですがね。多用してると全体的にもっさりした文章になりますよ。


 次。視点。誰視点か曖昧な文章が多いですね。

 あぁ勿論、「この話が誰の視点かわからないよー、もっとわかりやすくしろ!」みたいな、クレーマー的な話じゃなくって、現在扱っている視点は誰の目線から発されたものなのかはっきりさせましょうって意味合いです。

 まぁ、「早瀬は」って書かれてるパートが客観なのに対して「思った」など心情が組み込まれた部分は主観、それらがあまり綺麗に分けられておらず、混在してる部分があるって話。このパートはどっちで書くかってはっきり意識して書いたほうがいいよ。基本はね。混ぜるのが表現になる場合もある。


 その次。文章。

 そもそも文章がなぁ、ちょっとな。

 オノマトペ的なものは良く書けていると思う。独自性があるかって話では別だけど、昨今では、オノマトペに独自性とかそんな求められてないとも思うし、これくらいで続けてもいいかもね。

 一方、文章としての質が些か低い。冴えた表現ってやつが無いんだな。文章全体から漂うもっさりした空気、これがいただけない。比喩の話にも通じるところだがね。借りた表現、もしくは既存の表現だけで書いてるから、はっとさせられる部分が無いんだよ。かと言って、エンターテイメント的なわかりやすく凝縮された面白みもあんまりない。鬱陶しいだけで不快な文体と言ってもいい。何せ折角読んでも目に止まるような表現が扱われてないんだもの。

 台詞回しかな、通常の描写もかな?には気をつけておられるそうで、何やら音読しているらしいとコメントがあったりしたが。足りない。

 いいかい。小説ってのは口語表現、話し言葉の延長じゃあないんだ。まぁ、話し言葉の延長みたいなものもあるが、あんなんでも表現には気を配ってるしな。つまり、いかに無駄を詰めて、必要なところで情報を出すかって話でもあるんだな。それができてない。だらだら書きすぎ。長く書く文章にしたってもっと削るもんだ。

 その点が徹底されてない。

 そうだな。川端康成とか、太宰とか。太宰はあれで文としては結構綺麗どころだから読んでみるといいんじゃねえかな。


 そんであと二つほど。

 主なテーマは描写の詰めの甘さと要因ってとこを話そうか。

 一つ。舞台装置が足りない。用語に肉がついてないんだよな。例えば囲炉裏って言ったってそれは物体についた名前だろう。小説ってのはそれだけじゃ駄目なんだよ。「あるある」とか「生活感」みたいのを感じさせなきゃいけないんだな。

 リアリティってやつ。別にリアルじゃなくて良いんだけど、例えば草履に使う紐で髪結んでるみたいな説明があると手っ取り早く世界観に入れていいじゃんね。事実かそうでないかに関わらず。

 そういう、心血注げる物体に手が加わってない。こりゃ良くない。ロールプレイ不足。これを怠ると魅力のない描写になるね。

 やり方でいうと、その物体が持ち得る要素を細かく分別して、それが何をし得るかって考えるべきだ。囲炉裏は「熱い」とか「暖を取る場所」とか「火を使う場所」とか「調理する場所」とか。色々ある。そして、その要素が何をし得るか、たとえば囲炉裏にそこまで親しんでいるわけじゃない旅人なんかが火傷したっていいが、その火傷の仕方だって、焚き火でできるような火傷の仕方じゃ駄目だ。なぜなら焚き火くらいなら旅人も使うからで、であればその相違点がどう生かせるか、とか。色々考えて組むもんだよ。


 二つ。場面ごとに固有の要素が弱い。

 つまり、上とほとんど変わりゃせんのだが、その場面がどこであるかとかを象徴してくれるもんが弱いんだよな。簡単に言えば、これ別に現代でも同じ描写で通るよなってこととか。たぶん少し昔の時代で書いてるんだと思うけど時代感みたいのを彩る動きや描写がないね。いやね、本当に資料は使うべきだよ。どんなの書くでもね。あった方が色々幅が広がる。固定観念で書いちゃうとか、良く知らないからありふれたモチーフで描写を済ますとかを避けるためにもね。


 以上、面倒なのでそろそろ終わります。

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