異世界ブラック生活〜異世界に転生したらドSエルフの従者になってしまった〜
@ikura1229
第1「契約書」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
(何この状況?)
叫び声が聞こえ飛び起きると、とんがり耳の少女が怯えた顔で木の棒をこちら向け震えていた。
いや、ほんと何この状況?ってか俺全裸じゃん!
とっ、とあえず落ちついて、一旦状況を整理しよう。
えっと、久々に家に帰って.......風呂に入ってて......眠くなって........
あ〜、夢か!
うっかり、風呂で寝ちゃってたんだな。
俺は状況を理解し、改めて少女を見る。
金髪の髪、怯えた顔でもわかる可憐な顔立ち、何よりも特徴的なとんがり耳、少女はいわゆるエルフの姿をしていた。エルフの少女は、恐怖のあまりブツブツと何かを唱え始めている。
めっちゃ、怖がってるじゃん........
夢とはいえ、なんか悪いな......
「あの、すいま....」
取り敢えず謝るという社会人ムーブをカマそうとした瞬間
「ライボルト!」
少女が叫び、木の棒から放たれた光が俺にぶつかる。
バットで殴られた様なとてつもない衝撃が全身に走り、意識が薄れていく......
あれ?夢って痛いっけ.............?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
目を開けると、とんがり耳の少女が顔を覗き込んでいた。
「あの、大丈夫ですか?」
「だっ、大丈夫です」
どうやら俺は服を着させられ、ベットで寝かされていたらしい。
「よかったぁぁ〜」
安心したのか、少女はへなへなと体から力を抜いていく。
「私、男の人のその....裸見るの初めてで、動揺しちゃって......本当にごめんなさい」
少女はベット横の椅子に座り、肩を小さくさせ上目遣いでこちらを見た。
カワイイ.......ってそうじゃなくて、何か変だなこの状況.....
ベットシーツに触れた感触、少女の声、全身のどの感覚も夢とは思えないほどはっきりとしていた。
何よりもさっきの痛み......これってもしかして.....
「あの〜、ここって異世界だったりします?」
「確かに、あなたから見たらここは異世界って事になりますね」
「えっ本当に異世界?」
「本当に異世界です」
どうやら本当に異世界転生したらしい。
「よっしゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は喜びのあまりベットの上に立ち上がる。そして全身全霊を込めたガッツポーズ。
大学を卒業して3年、俺はようやくあの「ブラック企業」から解放された。
朝四時出勤も、社訓100個言う朝礼も、上司からのプレッシャーも、顧客からの無茶な要求も、下請けからの小言も、深夜残業も、帰宅した後の上司からの呼び出しも、事務所で寝ることももうない!!
ありがとう異世界、ありがとう神様!ガチ感謝!
今なら全てを愛せる気がするし、なんでも出来る気がする。
目に映る物全てが美しく見える、あぁ、世界ってこんなにも素晴らしいのか。
「あの、どうされました?」
急に立ち上がった俺を少女は不思議そうな顔で見ていた。
「いえ、感激しているんです。この世界の素晴らしさに」
「えっと....?よくわからないですけど、異世界に来れて嬉しいってことですか?」
「はい!!」
「ならよかった、実はあなたを異世界に転生させたの私なんです」
えっ、神様?目の前に神様がいたんですけど
とりあえず入信させてもらおう
「入信ってどうすればいいですかね」
「えっ?」
「いえ、あなた様の宗教に入信させていただきたいですけど」
「その、宗教とかは特にしていないですね......」
宗教されてないのか、絶対にした方がいいのに、入信するのに........
って、神様ドン引きしてる!?
少女の顔から(変な人を転生させてしまった)という思いが溢れ出ている。
ヤバイヤバイ、興奮して妙なこと言ってしまった。
このままでは、ヤバイ奴認定されて元の世界に戻されるかもしない、それだけは阻止しなくては!
俺はベット上に正座になり、深呼吸をし気持ちを落ち着かせる。
「すみません、怖がらせてしまって」
「いえ......」
「俺、相浦越あいうらえつと言います。よろしくお願いします」
少し警戒を下げたのか、少女は微笑みながら口を開いた。
「私はメリルと言います。こちらこそよろしくお願いします」
「それで、メリルさんはなぜ俺をこの世界に?」
質問を聴き、メリルの顔が曇る。
「私、母を探しているんです」
「お母さんを?」
「はい、事情があって母とは幼い頃に生き別れなりました。どうしてもまた会いたくて、母を探す為に旅に出たんです。だけど、魔物や盗賊から自分の身を守るだけで精一杯で......一人だと母を探す余裕なんてなくて......」
「だから、俺を?」
メリルはゆっくりと頷く。
「私の家系には代々伝わる特別な召喚魔法があります。その魔法を使えば強力な力を持つ魂を異世界から召喚させる事ができると言われています。」
「魂をって、肉体もありますけど?」
俺の言葉を聞き、メリルはベット横の棚から手鏡を取り出しこちらに向ける。
えっ、俺じゃない?
鏡には明らかに俺とは違う少年が写っていた。
黒髪で少し幼い印象を受けるが端正な顔立ちをしている。年齢は高校生くらいだろうか?
「肉体は材料だけ用意しました。召喚術発動の際にこちらの世界に合わせた体が自動生成されます」
なら前の肉体は.....死んだって事か?
25年間連れ添ってきた自分の体が無くなった。その事実に呆然としてしまう。
そんな俺を見てメリルは顔を両手で覆い俯きながら肩を振るわせる。
「本当にごめんなさい!肉体まではどうしても召喚できなくて、でもどうしても私お母さんに会いたくて.......」
嗚咽が混じった震えた声、涙ながらにメリルは言葉を続けた。
「嫌ですよね、私なんかの助けになるなんて」
「そんなことないですよ」
俺がそう言うと、メリルの震えがピタリと止まった。
「確かに体のことは驚きましたけど、むしろ若返れてラッキーって感じです。それに俺、前の世界での生活かなり辛くていつも死ぬことばかり考えていました。メリルさんは俺をそこから救い出してくれた恩人です」
励ましの言葉じゃない。心の底から出た言葉だった。
前の体を失ったことはショックだけど、あの地獄から抜け出す為の犠牲だと思えば安い物だ。
何よりも俺の恩人を悲しませてはいけない、そう思うと自然に言葉が出ていた。
「だから、自分をそんな風に言わないでください。俺は貴方の助けになりたいです」
俺の言葉を聞いた瞬間、手で覆われたメリルの顔がニヤリと歪む。
んっ?なんだ今の?笑った?一瞬、ほくそ笑む様な表情になってなかった?
邪悪な物を感じ取り少し体を後ろに引こうとすると、メリルが俺の右手に触れそのまま両手で包み込み、ゆっくりと顔を近づけてきた。
近い近い近い!
メリルの顔は鼻先があたる寸前にある。
少し顔を前に出せば唇に触れてしまうほど。
「本当に私の手伝いをしてくださるのですか?」
「はい、喜んで!!!」
気づけば応えていた。
メリルは俺の返事を聞くと、ポケットから手のひらサイズの紙と筒状の容器を出した。
紙には円を描く様に文字?が書かれていた。
「なら、ここに名前を書いて貰えますか?」
メリルは紙の中心を指さす。
「この紙は?」
「エツさんと私が出会えた今日という日の思い出を作ろうと思って用意した物です。この紙には私たち二人をより良い関係にするおまじないが掛けられているんですよ」
メリルは笑顔で応える。
優しいだけじゃなくて、ロマンチックな一面もあるなんてカワイイな。
「ペンがないので指でお願いします」
メリルはそう言うと、筒の蓋を取り入口をこちらに向けた、中身はインクの様だ。
俺は人差し指を筒の中に入れ、インクのついた指で紙に名前を書く。
指を離すと紙は宙に浮き、糸の様に解け始める。
解けた紙は俺の右手の甲に吸い込まれていき、やがて紙と同じ紋様が右手の甲に刻まれた。
「改めてよろしく、メリルさん」
紋様が刻まれた右手をメリルに差し出す。
パンっ!
差し出した手をメリルが叩き払った。
えっ、叩かれた?
なんで?なんで?この世界握手の文化ないとか?それなら叩かれたりしないか......
あっ、もしかしてこの世界では右手を差し出すのって失礼?
やっちゃったなぁ、まぁ文化についてはこれから学んでいこう。うん、一旦謝るか。
俺は思考を辞め、口を開く。
「あの、すいま....」
「メリル様だよ?」
「えっ?」
「メリルさん、じゃなくてメリル様って呼んでわかった?」
メリルは笑顔を一切崩さず首を傾げながら俺に言った。
「急にどうしたんですかメリルさん?......っていっ、いってぇぇぇっぇぇ!」
全身に感電した様な痛みが走る。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!
ヤバイヤバイヤバイ!これはヤバイ!
痛みを逃がそうと体が勝手に動く。
ベットの上で転がり、ベットから落ちても転がり、壁にぶつかれば旋回しまた転がり始めたと思えば、ブリッチし、ジャンプをし、体が痛みを逃そうとひたすらに動く。
も、もうダメだ......
意識を失い掛けた瞬間、痛みが消えた。
全身に掛かっていた力が抜け、床に寝転がったまま動けなくなる。
「うん、ちゃんと効いてるみたい」
メリルは床に転がる俺を見て満足そうな顔した。
今の彼女がやったのか?
仰向けに倒れたままメリルを見る。
「君が言うこと聞かないから、お仕置き」
俺の考えを読みメリルは応えた。
「さっきの紙、実は人や魔物と主従関係を結ぶ為の契約書でね、契約が成立すると主人は従者に今みたいなお仕置きができる様になるわけ」
メリルの言葉が頭に入ってこない。
つまり、俺は....
「騙され...」
「騙してないよ?この状態が君と私の良い関係」
メリルは俺の言葉を遮りそう言うと、椅子から立ち上がる。
一歩、二歩、俺に近づき見下ろす。
この子ヤバすぎる!逃げないと、って痛みのショックで体が動かない!
「改めてよろしくねエツ」
笑顔で見下ろすメリルに、俺は「はい....」と答えるしかなかった。
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