夏休みに田舎で幼馴染とお姉さん(仮称)に耳をめちゃくちゃにされる話
澄岡京樹
第1話「トラック1/お姉さん(仮称)」
シャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワ
(セミの鳴き声があたり一面から聴こえてくる)
(川のせせらぎ、清流の調べ)
(心地よい水の音)
ツクツクボーシ! ツクツクボーシ!
(セミ——ツクツクボーシの声もする)
ツクツクボー⤵︎……ツクツクボー⤴︎
(神々のト〇イフォース冒頭のBGMも鳴り響く)(鳴り響くわけないだろ)
——時は夏休み。大学生の「あなた」は、実家の建っている田舎に帰省してきました。ちょうどバスから降りて、今まさに歩き始めたところです。
農道を通って、大きな坂を5分ぐらい登ると、デカい武家屋敷が見えてきました。実家です。太そうですね。
(ここでも良い感じに足音とかが鳴る)
(荘厳な用水路の音)
両親に帰宅を告げると、あなたはとりあえず冷蔵庫からアイスバーを回収し、座敷の縁側で食べ始めました。
バリボリシャクシャクバリボリシャクシャク
(どことなく清涼感溢れるアイス咀嚼音が響き渡る)
(縁側から見えるお庭では、相変わらずセミがシャワシャワ鳴いており、野良のネコちゃんの鳴き声も聴こえてくる)
——すると。
「おい」座敷の右後方から声がします。
「おーーーーーい」今度は同じ声が徐々に移動していき最終的に左後方から聴こえてきます。
あなたは振り返ります。するとそこには幼馴染の女の子がいました。昔は仲が良く、度々一緒に遊んでいたので、今もこうして家の中へ普通に入ってきているようです。
でもあなたはちょっと恥ずかしいのか、ここ数年はちょっと疎遠気味でした。
「あ、やっと気づいた。
……お前さぁ。帰ってくるんなら私にも連絡しろよ」
幼馴染は不機嫌そうです。ところで、彼女がちょっと口調が悪いのは元からなのでした。
「……何。別に前もって言う必要がない? なんなんよそれ。私だって予定あるんやから先言っといてくれてもええやん」
おやおや。あなたは恥ずかしさからかちょっと嫌な言い方をしてしまったようですね。幼馴染はさらに不機嫌になってしまいました。方言かわいいですね。
「まあええわ。明日祭りあるでな、あんたも連れてったるわ。久々やろ。
——は? 男友達と行く? はー、しょーもな。おもんないでマジ」
そこまで言ったあと、幼馴染はフッとあなたの右耳に口を近づけて、
「——女子と歩くんが恥ずかしいだけやろ」
——と囁いてきました。
「——ぷ。何ビクってなっとん。ちょっとダサいって。その感じやと大学でもモテてなさそうやな。ま、しばらくここで傷でも癒しとんな。ヒヒヒ」
そんなことを言って、幼馴染は帰っていきました。
(畳を歩く音が遠ざかっていく)
あなたはカッとなりましたが、別に手を出す勇気もなかったため、そのまま拳をグッと握るだけ握って(ここで拳を握りしめる音が鳴る)、それからしばらくして拗ねながら寝転がりました。
シャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワ(セミの声)
シャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワ(セミの声)
シャワシャワシャワシャ
——ぴたりと。音が止みました。
突然の静寂。あなたはなんなら少し寒気もし始めました。
ずずずずずずず……。重圧の音——など存在しないはずなのに、そう形容する他ないような音が微かに貴方の周囲で鳴り響いています。揺れはありません。——これは、何かの気配、とでも言うのでしょうか。
あなたは音や気配の正体を確かめるべく目を開けようとしました。すると、
「——まあ待ちたまえ。
そのまま目を閉じて、お姉さんの話を聞いておくれよ」
女の人の、綺麗な声が聴こえてきました。
あなたは、とりあえずそのまま目を閉じることにしました。今目を開けるのは早計だと思ったのです。
「ふふ、ありがとう少年。ああいや、学生さんなら青年と言うべきなのかな。ああでも、私から見れば君はまだ少年みたいなものだね。ここはお姉さんに免じて、少年呼びで勘弁しておくれ。
——それはそれとして、お姉さんの年齢とかは詮索しないでね?」
お姉さん(仮称)はすごく心地の良い声で話を続けます。
耳の近くで囁くように、話をしてきます。適当に左右を行き来します。
「君の寝顔、少し辛そうに見えるね。いや、疲れているのかな。……なんだい? ここに来るまでに何か嫌なことでもあったのかい?
——なんでもお姉さんに話してごらん。お姉さんは君の味方だからね」
お姉さん(仮称)の声色があまりに優しいので、あなたはぽつりぽつりと話し始めます。最近の出来事、日々のストレス、後やたら口の悪い幼馴染のこと。不思議とスルスル口から出てきました。
「……そうかい。都会の生活も大変だね。学生さんの身で大変だねぇ。でも君はよく頑張っているよ。……なんでわかるかって? ふふ、その顔つきでなんとなくわかるさ。君が毎日頑張って踏ん張っていることぐらい、お姉さんにはお見通しさ」
あなたはここまで親身に話を聞いてもらえたことに感極まって泣きそうに——いえ、泣き始めてしまいました。
「あらら、泣いちゃった。よっぽど抱え込んでたんだねぇ。よしよし、お姉さんが撫でてあげましょう。偉いね、大変だったねぇ」
あなたは少し落ち着いてきました。涙もとりあえず止まってくれたようです。
「よぅし。そういうことならお姉さん張り切っちゃうぞ。とりあえず気持ち良くさせてあげよう。
——ん? なんだか顔が赤くなったね。変なこと考えちゃいけないぜ? お姉さんこれでもガードは硬いからね。もっと低めのハードルを設定しようね。というわけで——よいしょ」
(ガサゴソ音がして、カチカチと軽い音が鳴った)
「ふふん、というわけで、ジャン!
竹耳かき〜〜。今からお姉さんが、君に耳かきをしてあげましょう。お姉さんの耳かきは超級のレアイベント、ソシャゲで言うところのSSRってところだよ。
それとも、他のことが良いかい?」
あなたは首を横に振りました。あなたは耳かきが大好きなので断る択など微塵も存在しなかったのです。
「お、乗り気だねぇ。これはお姉さんもやる気がモリモリ森鴎外って感じだねぇ。
じゃ、とりあえず右耳からやろう。お姉さんが直々に膝枕してあげるから、つべこべ言わず君は左耳を下にして、頭を上にあげなさい」
あなたは耳かきが大好きなので、言われるがままに、目を閉じたままお姉さんに誘導されて膝枕の体勢になりました。いよいよ耳かきが始まります。
「じゃあ早速、奥までゴリゴリ行っちゃおうか。お姉さんは速攻なのだー!
それ、ごり、ごり。耳壁を奥から、手前へ——手前から、奥へ——今度はゆっくり、ごり……ごり……」
(そんなこんなで、お姉さんが「ごりごり」囁きながら、あなたの耳壁をごりごりかいていきます)(5分ぐらい)
「うん、じゃあ——
ふぅーーーーーーーーーーーーーーーーー」
突如、あなたの右耳にお姉さん(仮称)の吐息が入ってきます。
「おや、驚かせちゃったかな。ごめんよ。でもせっかくだからお姉さんブレスを流し込みたくなったのさ。お姉さんに免じて許しておくれ」
あなたは許しました。ていうかどう足掻いてもご褒美でした。
「ふふ、ありがとう。そう言ってもらえるとやった甲斐があったってもんだよ。
よし、じゃあ次は左耳だね。反対向いておくれ」
あなたはもはやお姉さん(仮称)に甘えまくっているため、素直に回転しました。
「うむ、よろしい。じゃあ今度は左耳の耳壁をごりごりしていくよ。
そーれ、ごり……ごり……おぉ、こっちも中々ざらざらしてるねぇ。——こことか、気持ち良いんじゃないかな? ごり、ごり——」
(こちらも5分ぐらい耳壁をごりごりする)
「——よし。完了だ。というわけで予測可能回避不可能の、
ふぅーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
ちゅ。
ついでに、左耳にキスまでされました。
あなたはびっくりしてしまいます。
「ふふ。ごめんよ、つい驚かせたくなっちゃってね。
——おや。目を開けちゃったか」
あなたは驚いた拍子に目を開けてしまいました。そこには——どことなく神々しく光る女の人がいたのでした。もしかしなくてもお姉さん(仮称)でした。
「別に怪しい者じゃないんだよ? ただ君がお姉さんの姿を見てびっくりすると悪いなぁって思ってね。
まぁでも、情報の許容量というのもある。一度に多量摂取するものでもないね。
……もし君がお姉さんとの再会を望むのなら、明日もまたここで会えるだろう。どうするかは君次第と言うワケさ。
じゃあね、少年。縁が続けば、また会おう」
ちゅ。
あなたの右耳にもキスをして、お姉さん(仮称)は姿を消しました。
シャワシャワと、再び蝉の鳴き声が聴こえ始めました。
お姉さん(仮称)の姿は、部屋のどこにもありません。
さて、あなたはどうするのでしょう。
明日も座敷で昼寝をするのでしょうか。
それは——あなた次第です。
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