9.非通知
「信じらんない、悪いけど」
むすっとした顔で即答するかえで。
「えー、ホントのことだよ、姫ちゃん。
「だって、フツーに考えてあり得ないでしょ、そんなの。何、言葉が通じないって。おまけに
「翠羽君、そんな嘘つく子じゃないよ。話してみれば分かるけど」
「だから、話せないんでしょ?」
「あきらめろ、絢。会長がいないから気が立っているんだろう。何を言っても無駄だ」
よせばいいのにわざわざ煽るような口を利くから、仕返しとして読んでいた本を乱暴にひったくられる
広々とした学生食堂は、その半分が
そこに集まったいつもの顔触れに、
弁当持参派の杏輔はいつも通りの仏頂面、デザート付きのランチメニューを選んだ
「返せ、
「何これ、初めてのドイツ語? 馬鹿じゃないの、こんなのテストに出ないよ」
昨日の赤っ恥が相当悔しかったらしい。渋面になった杏輔ではなく、かえではその本を隣に座る絢世の膝へぽいと乗せる。丁寧にブックカバーをかけ直す絢世のポケットで、携帯電話が振動した。
「あ、ごめん電話出るね」
と、取り出した携帯電話の画面には、番号非通知の文字が浮かんでいる。
「……非通知か?」
「誰だろう……、どうしよう、キョウちゃん」
絢世の携帯番号を知っているのは家族と友人、それに先日交換したクローヴィスくらいだ。そのうち、わざわざ非通知で掛けてくるような相手に心当たりはない。
不安に感じ、手のひらで持て余している間に、振動はふつりと収まった。
「切れちゃった……」
「いたずらかなぁ。絢ちゃん、こんなこと前にもあった?」
「ううん、初めて」
「今度かかってきたら僕に貸せ。聞いてやる」
「うん……。ありがとう」
心配してくれる二人に笑顔を返し、絢世は携帯電話をしまった。
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