【Tea break 】Part 1 子煩悩な桜花隊長  野中五郎

館華カオル

第1話 野中五郎少佐

「若え身空で、遠路はるばるご苦労さんざんすねぇ。しっかりやんな。お茶でも入れようか」

野中五郎はあの「二.二六事件」の首謀将校の1人、野中四郎大尉の実弟である。

「戦争になったら一番危険な第一線に行って、一番危険な任務について、立派に死んで兄貴の汚名を注ぐ」というのが口ぐせであった。

野中部隊の訓練の始まりには、陣太鼓を叩いて整列させ、「野中一家の若い衆、用意万端整ったところで出発!」といった号令をかけていた。

飛行場でお茶を点てたり、志気を鼓舞するために指揮所に「南無八幡大菩薩」と大書きした幟(のぼり)を立てたりと、部下達にも大変慕われていたという。野中は「桜花」の指揮官であった。(「桜花」については〈小休止〉Part3をご参照下さい)


「桜花」とは人間操縦爆弾である。陸上攻撃機(陸攻)に吊り下げられて出撃。敵艦を発見すると、切り離され、敵艦に体当たりする。

1200キロの爆弾を搭載した「桜花」をぶらさげて、陸攻は本来のスピードさえ出せず、途中で米艦上機に発見され、「桜花」を切り離すいとまもなく、全機撃墜されている。「桜花」は一人乗りだが、陸攻には7、8名乗っている。この日の桜花特攻隊の戦死者は165名にのぼっている。桜花隊の出撃は全部で10回にわたって続けられた。

出撃前に野中は友人にこう言っている。

「生命にかけても駄目だと頑張るべきだったんだが、引き受けてしまったからには仕方がない。必ず失敗するだろう。この結果を見て、特攻なんて、こんなもん、ぶっ潰してくれよ。頼んだぜ」と。


なお、野中の茶器セットは靖国神社に展示されている。機会があれば、是非見学に訪れていただきたい。


最後に野中が愛児に残した手紙を掲載する。


ぼー

まいにち おとなちく ちてるか

おばあちゃまやおじちゃまが

いらっちゃるから うれちいだろう

おたんじょうび

みんなにかわいがられてよかったね

おめでとう おめでとう

おとうちゃまはまいにち

あぶーにのってはたらいている

ぼーがおとなちくして

みんなに かわいがられているときいて

うれちい

もうちょろちょろあるかなければいけない

はやくあるきなちゃい

おかうちゃまのいうことをよくきいて

うんとえいようをとって

ぢょうぶな よいこどもに

ならなくてはいけない

ちゅききらいのないように

なんでもおいちいおいちいって

たべなちゃい

でわ さようなら


           おとうちゃまより

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