会議の終了

会議室に戻ると、扉の近くで待っていたまっさきに花房はなぶさ氏から謝罪をされた。


「本当に申し訳ない。」


45°までカクっと曲げられたそのお辞儀に少し笑ってしまいそうになる。

話を聞くとどうやら私の力を疑っての事と言うよりも私の能力を先に明かさせておいた方が会議もスムーズに進められるのではないか、という思考によるものだったらしい。


「いえ、私もそんなに気にしていませんし、何より現代の魔女の力を把握すると同時に私自身の経歴に信憑性を持たせる良いアクションになったと思います。」

「…感謝する。」


思ったよりこの人はちゃんとしているらしい。

間違いなく私を飼い殺しにした100年前の管理局の人達よりはレベルが上だ。


しかし案の定会議室はザワついていた。

そしてズラッと私に向けられる大量の目線。

そこには支部長側の席だけでなく魔法少女側の席に座っている人達の視線も含まれていた。

というか何でしょう、あの黒いスライムみたいなの。


「…花房くん、リヴィア君もそう言っているのだから席に着こうではないか。君達もだ。 」


由伸さんは私とその背後の魔女2名を指さす。

そうして私達は元の自分の席へと戻って行く。


『ありがとうございました、リヴィアさん。

恐らく複数の支部長が質問を投げかけたいところではあると思いますが、そうすると時間が足りないので、代表として私から質問をするという事で、皆様よろしいでしょうか?』


会議の司会をしていた春本さんがそう言うとザワついていた会議室がしんと静まり返る。

その光景はまさに鶴の一声であった。


『問題ないようなので、2つほど質問よろしいでしょうか?リヴィアさん。』

「勿論です。」


目の前のホログラム端末に返事をすると私の声は会議室全体に響き渡る。


『それではリヴィアさんが使用していた消える能力や私達の記憶からリヴィアさんが消えた事について、説明をお願い出来ますでしょうか?』


まず1つ目はやはりそれだった。

別に隠すほどの内容でも無いので正直に私の能力をよどみなく話していく。


「私の能力は「忘却」です。

私が見えなくなった事も、皆様の記憶が一時的に消えたのも、その忘却の能力の1つです。」


そうして私は自身の能力の効果について説明を行っていく。

能力の出力変更によってその力が変動すること、そしてそれは対象の忘却では無く、私自身が忘れ去られる事によって起こる事象であると。

勿論のこと出力を上げすぎると私という存在が完全に忘却されてしまう、つまり死んでしまうというデメリット付きである事も明かした。


これらは能力を所有している私が話せる限りの嘘偽りのない真実だ。

そして2個目の質問はだからこその物だろう。


『説明ありがとうございます。

2個目の質問、良いでしょうか?』

「私の能力に攻撃的な物が存在しないのにどうやって終の三獣の内の2匹を討伐したか、ですか?」

『えぇ、その通りです。凄いですね』


この能力で私があの2匹をどうやって討伐したのかという疑問、それもそうなのだ。

何せ100年前の管理局職員は腐っており、私が勝つという無根拠な確信からか、倒したかどうかの確認しかしておらず、戦いの記録等は一切つけていなかったらしいのだ。

それが私という存在を極力秘匿しておきたかったからのか、それとも単純な怠慢によるものか、それも今は知る術が無いだろう。


「どうやって討伐したかですが、特筆する事もなく忘却を駆使したヒットアンドアウェイでの討伐をしています。

ハルマゲドンもラグナロクもギミック型の魔獣で人型や小型だったのが大きかったかな、と」

『なるほど、つまり相性の問題だった訳ですね?』

「はい、そうです。」


このような答弁を繰り返している間にも会議室は再度ざわめきを取り戻す。

この程度ではやはり満足行く質問では無い、という人が沢山いるのだろう。


『ありがとうございます、私からは以上です。』


少し、由伸さんには申し訳ないが


「以降の質問は会議が終了次第私が答えますので、会議の続きをお願いします。」


本来はこの程度の量の質問では無いのだろうが、春本さんに感謝をしなければならないな。

そうして途切れていた会議進めていく、次の内容はそうだ、カタストロフについて。


『それでは、お手元の端末の資料2個目、カタストロフについてです。

こちら新情報についてもリヴィアさんが提供してくれたものになります。』


私やここに集まっている全員がその声を聞いてカタストロフについての資料ページを開く、基本載っている情報は100年前と変わらず、変更点があるとするならばそれは私が述べた情報のみだ。

能力は破壊そのもの、カタストロフの行った全てが破壊に繋がり、咆哮や攻撃を行った際に生じる衝撃波だけでも相当な被害を及ぼす。

それは終焉の日と言う結果を見ると明らかなものであり、破壊規模はハルマゲドンやラグナロクとは桁違いになる。

私も実際カタストロフが触れた小石が吹き飛んで来て、腹と腕に穴を空けられた。

基本的に攻撃を喰らえばおしまいの魔獣であり、独特な能力を持っている他の三獣とは違い、純粋な身体スペックと破壊力がメインの魔獣である。

しかもその上で回復する力も備えているようなのだ。


何度も思うが結局のところ下手な撹乱や奇策を持ってしても、圧倒的な打開力や破壊力を持っていればそれらはただの少し邪魔な石ころと同義だ。


『そして最後に、ここ100年間現れてはいないものの、リヴィアさん曰く1年間の内にカタストロフが出現する予感がある、と。』


カタストロフの説明について最後の一文をまとめた春本さんの言葉が終わった瞬間に、会議室のざわめきはより激しい物となる。


『まぁこれも予感ですので確信はない、との事です。まぁなんにせよ対策なんてすればする程良いのですから、警戒は十分に、という話ですね。付け足すことはありますか?リヴィアさん。』


春本さんが引き伸ばすだけ引き伸ばして私に会話を振ってきた。この人、話し方が思っている以上にフランクな事とこの言動を鑑みた上で魔法少女管理局のトップをやっているのだ。

それは余程手腕が優れているのか、それとも何かタネがあるのか、まぁ今は会議に集中すべきだろう。


「いえ、特には無いです。が

付け足すとしたら、先程お二人の魔女と対戦させていただいた上で断言出来ます。

椿さん達レベルの魔法少女が10名もいて、私もそこに参加が可能なら、間違いなくカタストロフは討伐できます。」


回復能力の限度にもよるけど、と私は心の中で付け足す。

椿さんにも手こずったが、何よりフォルトゥナさんは戦いにおいてジョーカーになりうる力を持っているだろう。

あのレベルの魔女が複数名いるなら、間違いなくカタストロフは討てる。

それほどまでに私は、あの戦いで希望を見出したのだ。


何人か死にはするだろうが、まぁそれも必要経費だろう。

そこについて今更言及する必要は、魔獣討伐という観点に置いて不要な筈だ。


『成程、つまりランカーの魔女とリヴィアさんさえ集まれば勝利する事可能ということですか。』


少し含みのある言い方をした春本さんはどうやら私の意図を理解しているらしい。

なんだか、私の方が他人の命を何とも思っていないようで、あの職員達に似てしまったようで、少し悲しくなった。


§


その後も問答を続け、3つ目の議題に突入し、それが終わったのは昼前の11時頃だった。

私が由伸さんと家を出た時間が8時、会議が始まったのが9時付近だったのを見れば、私達が2時間も会議をしていたという事がわかる。


フラグという訳でも無いが、そこまで問題も起きずに終わって良かったとしみじみ思う。


会議が終わると続々と私の周囲に他の支部の方達が集まっていた。

確かに会議が終わったら質問は受け付けると言ったが、これほどまでとは。


と嘆いていたが、実際は大半が引き抜きの願いで、しかもそれが八割以上だった。

残りの2割は純粋な質問ではあったのだが、その内の数人が中々のメンツ、魔女であり特に最後の1人がとんでもない話を持ち出してきたのだ。


「ワタクシはランキング1位のヒナタ、と申しますわ。魔女なんて呼び名はなんか嫌ですから周囲にはお嬢様と呼ばせていますの。

それで提案なのですが、私に能力を売ってくれませんこと?もちろん、いい値で買いますわ!」


これまた癖の強いキャラが現れた。

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