決意
「わざわざ遠回りする必要も無いので言いますが、私にはおそらく前世の記憶があります。」
その言葉にまっさきに反応したのはノアさんだった。
「まじ?リヴィアちゃん出自も不明だけど情報量多すぎじゃない?」
「ノアの調べでも入っていない情報となると、100年前にもその情報は明かしていなかったのかね?もしくは、100年前にはその記憶が無かったと?」
付け加えるように会話を挟む浅葱さん、どうやらかなりこの人は勘が良いらしい。
見ている限り40代程だろうに支部長の座に着いていると言うのも加味して浅葱さんはかなりの切れ者とみて良さそうだ。
「はい、だから「おそらく」です。
100年後の今に目覚めた時、私は杜氏 真次という男性の記憶を持っていました。
正確な記憶は殆ど無いですが28歳のサラリーマンであったことと未だ魔法少女という概念すら存在しない時代に生きていたこと程度は覚えています。
最後の記憶は確か車に轢かれて死んだはず、です。」
「……それって何か少しおかしくないか?
魔法少女は車なんてものが普及した時点で既に大衆が知る存在だったはずだ。」
会議が始まってから常に黙っていた石原さんが口を開いた。
確かにそうだ、それが私が目覚めた時ずっと抱いていた疑問。
そもそも魔法少女という存在の歴史は存外に長いのだ。
第二次世界大戦が終わって以降すぐに魔法少女という存在は現れたのだから。
魔法少女に関する法整備がされていない頃は魔法少女は戦後すぐの景気回復アイテムなどとしてはとても都合がよく、特需景気は、朝鮮戦争によってアメリカ軍から大量の軍需物資や韓国復興用の資材が日本企業に発注されたことで発生した物でもあるが、そこに魔法少女という要素は切っても切り離せない物なのだ。
「はい、だから私自身も疑問に思っていたんです。もしかしたらこの杜氏 真次の記憶は、魔法少女が存在しない世界の人間の記憶だったのではないか、と。」
「そうなると、魔獣が別世界から来ているという仮説も有り得なくはない話になってくる、という事だな。」
そう、魔獣は基本どこからともなく突然に湧いて出てくるものだ。
つまり魔獣はその大半が世界を越えられる力を有していると?さすがにそれは些か思考が飛躍し過ぎなものだろう。
現に魔獣はこの日本に現れてくるだけで元の世界に戻ったりすることは無い……いや
「終の三獣 カタストロフについてはここに来てから話そう、と言っていましたよね?
私が倒し損ねた後にカタストロフはどうなったのかを教えて頂けますか?」
「…そういう事か。
カタストロフは君との戦闘を終えた後、突如として消え去っている。
リヴィア君の予想で行くなら、カタストロフは別の世界に行き来する事が可能であり、それにより姿をくらましたと?」
私は軽く頷く事でその疑問を肯定する。
「そして、傷の治癒に関しては分かりませんがその応用で私は100年後に飛ばされてきたのではないか、杜氏の記憶の出現はその干渉によって引き起こされたものなのでは無いか、と考えています。」
少し前からこの事を考えていたがやはり1番納得可能なのがこれなのだ。
「ならば余計に私はどうにかしてでも元の世界、100年前へと帰らなければならない。
私の情報は存在したけれど、ここが私の居た世界という確証が取れないから。」
魔法少女が存在しない世界という物が私の中で示唆されてしまった時点で、それは決定事項となった。
複数の世界が存在する可能性とそれらに破滅を齎せる終の魔獣。
「私の目標は決定しました。
それはカタストロフを討伐する事、そして元の時代に帰ることです。」
だが今のままでは間違いなく無理だろう、そもそもカタストロフ自体聞く限りここ100年この世界に現れていないのだ。
そして私は1度カタストロフに敗れている。
私の目標宣言に花音さんが驚いた表情を取る。
「そんな事可能なんですか、だってリヴィアさんは1度負けているんでしょう?」
「はい、だから協力して欲しいんです。私1人じゃ勝てなかった、でも私1人だけじゃないなら勝てる可能性もあるじゃないですか。」
実際どうなるかは分からないが、だからと言って放置してまたカタストロフが出現すれば世界が崩壊しない、という甘い考えは出来ないだろう。
「今の時代に私を縛るものは存在しない。
私はラグナロクもハルマゲドンも討伐した魔女 リヴィア…でも今はそんな記録も殆ど政府から消えてしまった、ただの魔法少女になれる形無 葵。
皆、私に手を貸して欲しい。」
「分かり、ました。」
「ただのオペレーターに出来ることがあるなら」
「面白そうじゃん、参加するしかないよねー」
「これも償いのひとつだ、私に出来る限りは協力させて貰おう。」
皆がそう口々に協力の意を示す。
「そう言えば私の戸籍ってどうしましょう。」
「それに関しては任せておきたまえ。私の方で何とかしておこう。」
私の中で浅葱さんが頼りになる大人としてのイメージを定着させつつあった。
こうして後は様々な情報をすり合わせ、会議は終了した。
§
「あ、花音さん。そう言えばお風呂を一緒に入る事を断った理由は先程の説明の中にあった杜氏 真次が今の私の精神の中でかなりの幅を持っていて、どちらかと言うと精神は男寄りだったからです。」
「絶対あの重めの会議が終わったあとに言う事じゃないですよ……」
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